黒夜行

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アンダンテ・モッツァレラ・チーズ(藤谷治)

そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、セレクトショップの経営者であり作家でもある藤谷治のデビュー作です。
SIS(セトウチインフォメーションサービス)という会社で働く様々な面々が巻き起こすドタバタを描いた作品です。
SISという会社は、医者や製薬会社なんかが必要とする文献を探し出してコピーするという、なるほどそんなところにも隙間があったのかと思うような隙間産業です。海外の放浪歴がある全身入れ墨女・山田由果、由果の恋人で無駄な知識を山ほど持っているインテリ・溝口健次、尾崎豊をコピーしてるのが丸分かりの歌が下手な路上シンガー・篠原京一、その京一に惚れてSISに入ってしまった宗教の伝道師にして超大金持ちのお嬢様・千石清美、窃盗により現在執行猶予中であり映画オタクである大森浩一郎と言った面々が、とあるきっかけから次第に仲良くなっていき、ある種のチームのような結束感が生まれることになる。
しかし、その幸せな日々をそうと知らずにぶち壊そうとしている一人の男がいた。それが、彼らの上司である野茂美津夫である。野茂は、極度の入れ墨愛好者であり、とにかく入れ墨が好きで好きで仕方ない。そんなところに、飛んで火にいる夏の虫、全身入れ墨だらけの由果がやってきたんだからたまらない。野茂は、なんとか由果の入れ墨をベロベロせんと策略を練るのだが…。
というような話です。
なかなか面白い話でした。とにかくバカみたいな話で、かつ勢いがある。そして重要なのは、勢いだけじゃない、ということですね。普通の小説とは明らかに違う文章や視点で綴られている作品はなかなか新鮮なものがありました。
本書は、物語が動き出すまでにえらく時間がかかります。本書は文庫で240ページぐらいの作品なんだけど、100ページくらいまでは登場人物の紹介というか、出てくる人はこんな人ですよ、こんな風な生活をしていますよ、という感じを描いていて、その後でようやくストーリーが進んで行きます。でもまずその、前半の登場人物の紹介がなかなか面白いんですね。
後半の『事件』に関わっていく面々が、何故SISなんて言う陳妙な会社に来る事になり、そして会社の中でどんな仕事をしているのか。プライベートではどんなことが起こり、それぞれの面々とどんな風に付き合っているのか。そういう描写が楽しいんですね。バカバカしいノリの文章に引っ張られて、特にこれと言って特色があるわけでもない彼らの日常を、面白おかしく描写していくんですね。面白いです。
そしてその後の『事件』についても面白い展開を見せます。発端は、入れ墨愛好家である野茂部長。この男が由果を手に入れようとし、由果と付き合っている健次を追い払おうと計画したことからすべての混沌は始まっていくことになります。こっちの展開についても、バカバカしさは半端ないんで、読んでて楽しいですね。
本書はたぶん、愛とか戦争とか、そんな結構大き目なテーマが内包されている作品なんじゃないかと思うんだけど、僕はそういう難しいことを考えるのがめんどくさい人間なんでよくわかりません。でも面白い小説を読みたいという人にはぴったりでしょう。
本書は、視点人物の設定が変わっているんですね。本書は、基本的に三人称で進んでいくんですけど、でも視点人物である『僕』という存在がいるんです。よくわからない説明だと思いますけど、ホントそうなんです。こんな変わった文章は初めて読みました。どうしてそういう風になっているのかという部分については、ストーリー全体に関わるような意味は特にないんだけど、一応ないこともない、という感じです。まあ映画監督のような視点から小説を書いている、というような設定みたいなんですね。そういう部分も変わってるなと思いました。
作品の最後の方で、まさかアノ話が出てくるとは思いませんでしたね。僕はたぶんですけど、アノ話が小説に出てくる作品というのを初めて読んだかもしれません(もしかしたら既にどこかで読んでるかもだけど)。なるほど、だから舞台が2001年なのね、という感じでした。
軽そうなノリで進んでいく文章ですけど、文章力は結構ある作家だと思います。軽そうな文章で綴っているのに必要以上に崩れすぎていないというのが力があるなという感じがします。結構面白い作品です。ちょっと人を選ぶ作品かもしれませんけど、読んでみてください。

藤谷治「アンダンテ・モッツァレラ・チーズ」



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Comment

[3733]

こんばんは。
書店の売り上げが落ちているのは由々しき問題ですね。そういえば、私も最近本を買わなくなりました。幸か不幸か、本屋さんより図書館の方がずっと近いということが原因の一つです。それから収納の問題、わが家は飽和状態を迎えています(泣)。図書館は返却期期限がありますので、急かされて読みますが、買った本はついつい後回しになります。いつ読んでもいいや、ということは永遠に読まないということに繋がります。そうして書店のブックカバーがかかったままの本が増え続けます(泣)。この悪循環を断ち切らないと…。
では内容に入ります。と書きながら、大それた内容なんて無かったような気になりました(笑)。ちょっと馬鹿馬鹿しすぎる、と思いつつ気がついたら読み終えていたという感じですね。この会社自体が実在するのかどうか分かりませんが、必要な資料を適宜提供するという需要はあるでしょうね。研究職もお医者さんも忙しすぎますので。
部長の好みを叶えようとする奥さんがいじらしいですよね(笑)。それから登場人物のキャラが面白いです。まず千石さん、彼女の天然ぶりが笑えます。それから猛助くん、彼は一体何者でしょうね。大人顔負けの博識ぶりとボキャ貧の逆(何というのでしょうか? 分かりません、泣)、ここが可笑しいです。その他色々ありますが、軽妙なタッチで読ませる力は凄いですよね。
そういえば『船に乗れ!』のⅢ部は未だでしょうか? ちょっと続きが気になります。藤谷さんのお店の画像がありましたが、下北沢に似合いそうな感じですね。どんな品揃えなのかも興味があります。
では、この辺で。寒くなりそうです。お気をつけくださいね。

[3734]

こんばんわです。
本を買わなくなる、というのはある意味で仕方ないことだと思います。不況の今では生活必需品以外はまっさきに削られるでしょうし、今は本以外の娯楽が山ほどあります。また、携帯(iPhoneかな)で雑誌が見れたりマンガを読めたり、あるいはamazonみたいなネット書店が便利だったりすると、もう本屋という形が機能しなくなりつつあるんだろうなと思います。
まあそれでも、僕は本屋が好きですしね、出版業界の末端に生きる人間として、なんとか書店を盛りたてていければなと思います。
確かに、とんでもなくバカバカしい話でしたね。これだけバカバカしい話を一冊丸々読ませるというのは、結構力があるなと思ったりします。この、必要な論文をコピーするという仕事は、実際にありそうですよね。参考になるような会社の存在を知らないと、なかなか出てこない発想かな、と。解説に、著者の自伝的小説云々みたいなことが書いてあったような気がしないでもないので、もしかしたら著者がそういう会社でアルバイトをしたことがあるのかもしれませんね。
登場人物はよかったですね。千石さんのストーカーっぷりはちょっと怖いし(笑)、猛助が喋り始めたシーンは、すわ何事か、という感じで何度も読み返しちゃいました。部長の奥さんも、部長の秘密は知ってましたしね。濃いメンバーだったなぁと思います。
「船に乗れ!」の三巻は、まだでしょうね。いつ頃になるやら分かりません。確かに続きが気になりますけど、読むかどうかはちょっと微妙ですね。1巻と2巻はもらいものでしたからね。
藤谷さんは今でも本屋の店主なんですね?本屋の店主で作家なんて、まさに僕の理想的な生活だなぁ、と思います。
今日は、「大人の科学マガジン」の最新号の「二眼レフカメラ」を組み立てました。これです。
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%A7%E4%BA%BA%E3%81%AE%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%B8%E3%83%B3-Vol-25-%E4%BA%8C%E7%9C%BC%E3%83%AC%E3%83%95%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9-Gakken-Mook/dp/4056055947/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1257264636&sr=8-1
メチャクチャ大変でしたけど、良いものができました。
明日の昼からはまた暑くなるみたいですよ。10月中旬ぐらいの気温になるとか。気温の差が激しすぎますけど、体調にはお互い気をつけましょうね。

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
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20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)