黒夜行

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いのちの代償 山岳史上最大級の遭難事故の全貌!(川嶋康男)





最近見たニュースから二つほど。
まずこちら。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091021-00000001-oric-ent

モーニングツーというマンガ雑誌が、現在出ている号だけ(だと思うけど)、マンガ誌最安値である190円で売っている、という話です。前号の51%OFFだそうです。
このモーニングツーというのは、なかなか面白い試みをしているんです。以前も、モーニングツーの発売日と同時に、内容すべてをネットにアップする、ということをやって話題になりました。その結果売上が増に繋がったらしいんで、トリッキーな試みは成功したというところでしょう。
今回は、恐らくそういった一連の話題のお陰で宣伝費が大幅に浮いたんで、分かりやすい形で還元する、ということらしいです。こうやってまた話題を提供することが出来るわけで、いい宣伝になっているなと思います。そういえば「聖☆おにいさん」の新刊も出ましたしね。順調だなぁ。
さてもう一つ。

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20091019_322804.html

こちらは、一時話題になったコルシカというサービス中止の後に発表されたというのがまた面白いですね。
富士山マガジンサービスを通じて雑誌の定期購読をしているユーザーに、デジタル雑誌の提供をするという話です。表紙から裏表紙まで、広告も含めて雑誌全ページをデジタル化しWEBプラウザ上で見れるようにするサービスのようです。
一時話題になったコルシカと違う点は、出版社の許諾を得ているかどうか、という点です。コルシカは、ほぼ同じサービスを始めようとしていましたが、出版社の許諾なくデジタルデータを作成していたことがアウトでした。富士山マガジンサービスの方は、出版社の許諾を得てこのサービスを行っているわけですが、そのせいもあって対象雑誌が非常に限られている。現在は、「SUMAI no SEKKEI」と「日経ビジネス」のみだそうです。
雑誌というのは一冊当たりの権利者がものすごく多いので、デジタルデータを提供するのが実に厄介なんだそうです。なんで、出版社側の許諾を得ながらサービスを行おうとすると、徐々にしか広がっていかない。コルシカはそれを、一気にすべての雑誌を対象に行おうとしたわけですけど、出版社の許諾を得ていなかったために敢え無く中止ということになりました。
雑誌のデジタルデータを提供するというサービスは実に素晴らしいと思うのだけど、いろいろな思惑が絡み合ってどうにもうまくいかない。もちろん紙媒体での売り上げに直結する(すなわち、デジタルデータを得ることが出来るサービスを通じて紙媒体の雑誌を買う流れが出来てきそうなので)ので書店としては死活問題かもしれませんけど、しかしそこに需要があるなら、そういう流れになっていくことはまあ仕方ないでしょう。雑誌はどんどん休刊が決まっていくし、もう紙媒体で成立させるのはかなり厳しいのではないかなと思います。元気なのはブランドムックぐらいでしょう。今度宝島が、イブサンローラン(だったかな、確か)のブランドムックを、初版100万部で出すとか。全部捌けた場合、総人口1億2000万人の内、子供と老人を除いて大体6000万人、そして男を除いて大体3000万人として、女性の30人に一人が同じバッグを持っているということになります。そんなんでいいのかなぁ。いつもブランドムック本が売れるのを見ると、そこが不思議なんですね。
と、話はズレましたけど、いずれにしても、雑誌のデジタル化はもう避けられないところまで来ているようです。確かiPhoneでも雑誌が見られるサービスがなんとか、みたいなニュースも見たことがあるような気がします。雑誌が売れなくなると書店の経営というのはかなり厳しくなるんだけど、どうしたもんですかねぇ。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、国内の山岳事故史上最大級の規模で起こった遭難事件で、ただ一人生き残ったリーダーをメインに、その時一体何が起こったのかということを綴っていく作品です。
その事故は、1962年12月、北海道の大雪山で起こりました。北海道学芸大学函館分光山岳部のパーティ11名は、冬山合宿と称して、危険の伴う冬山登山に挑みました。本格的な登山活動を始めてまだ間もない山岳部にとっては、まさにそれは挑戦でした。
冬山の天気は荒れやすい。二つの班に分かれていた一行は、天候の崩れのため合流が一日遅れた。結果的にこの一日が運命の一日となった。
合流後、荒れ狂った天候の中、必死に目的地まで辿りつこうとする面々。しかし、不運な出来事や、判断の甘さ、積もりに積もった疲労などがたたり、メンバーが次々に脱落していく。リーダーである野呂は、彼らを助けるためにも、自分自身が助かって救助を求めるしかないと必死の思いで足を動かす。
結果的に、助かったのは野呂一人。他のメンバー10名は全員死亡という大惨事となった。
生き残った野呂は、『黒い十字架』を背負って生きていくことになる。死んでしまった10名の分まで生きなくてはと思い、それこそ必死で生き抜いてきた。両足を切断するという障害を残しながらも、健常者以上に精力的に動き続けて生きてきた。
大学時代『黒い十字架』を背負わなくてはならなった一人の男の、壮絶な生きざまを描いた作品です。
なかなか凄い作品でした。
この事故のことは直接的には知りません。ただ、冬山で遭難し生き残ったのがただ一人という状況だけ聞くと、昔読んだ金田一一の事件簿のことを思い出します。何の話の時か忘れたけど(速水レイカとタロット山荘の時かなぁ)、登場人物の一人がその、山で遭難し一人だけ生きて帰ってきた、という話をするんですね。ただそのマンガの方の設定と本書で描かれている内容がまったく違うんで、マンガの方がこの事故のことを参考にしているのかどうかは知りません。
冒頭でまず、野呂をはじめとするメンバーが遭難という現実に直面し、そこからいかにして奮闘するかという描写がされます。ここがまず壮絶ですね。冬山は恐ろしいとは言え、全員訓練に訓練を重ねた男たちなわけです。その彼らが、次々に倒れて行ったり行方が分からなくなっていったりする。リーダーである野呂は常に最善の選択を心掛けるのだけど、最善の選択をしてもどうにもならない現実というのがある。まずその凄惨な状況が描かれて行きます。
そこから、野呂個人の話に移っていきます。戦時中の樺太で生まれ、貧しいながらもまっすぐ育って行ってこと。母親の山菜採りについていったことから山へと興味が湧き、ハイキング部と言った方がよかったというような北海道学芸大学函館分校山岳部を、他の大学の山岳部と肩を並べることが出来るような山岳部にしようと先輩に反旗を翻したりする。その結果が、野呂が提案した冬山での合宿だったのだ。
野呂は生還した後、死んだ10名の部員の家族から厳しい扱いを受けることになる。遺族も、野呂に何を言っても子どもたちが返ってくるわけではないこと、そしてきっと野呂は最善の行動を取ったに違いないと思いながらも、それでも野呂を責めずにはいられなかった。野呂もその状況を甘んじて受け入れた。そうして『黒い十字架』を背負うことになったのである。
両足を切断した野呂だったが、歯を食いしばるようなリハビリを乗り越えて、健常者以上に動けるようになった。現在でいうパラリンピックにも出場したことがあるし、スキーのライセンスも持っている。
仕事面でも、まず教師になった。捜索費用を工面してくれた父親に家を建ててやろうと頑張り、またほとんどの生徒が進学しなかった学校で私塾のようなものを開き、学力をつけさせていった。
その後生命保険会社でとんでもない成績を残し、やがて独立。現在ではディール企画という自らが立ち上げた会社で、第一線で働いている。
そんな野呂という男の生きざまを中心に、山岳史上最大級の事故がいかにして起こったのかということが描かれた作品です。
ノンフィクションとして読んだ場合、ちょっと他の作品よりは劣るかなぁと思いました。うまく表現できないけど、この題材だったらもっと素晴らしい作品にすることが出来るのではないかな、と思えてしまうんですね。たぶんもっと力のあるノンフィクション作家であれば、もっといい作品になったのではないかなと思います。題材が実に魅力的なので、恐らくそこは著者の力量の問題であるように思います。
ただやっぱり題材のパワーというのがなかなか凄くて、一気に読んでしまいました。一瞬の判断が迫られる遭難という状況において、常に冷静に対処しようと頑張り続ける野呂は素晴らしいし、最後の最後まで生きようとした他のメンバーもよく頑張ったなと思います。野呂一人が生還した後、ものすごく大変な人生を歩むことになるわけですけど、この野呂という人はまあとんでもないガッツの持ち主で、本当に11人分ぐらいのパワーがありそうな、凄いことをさらりとやってのけてしまいます。元々の素質もあるんでしょうけど、やっぱり、死んだ10名の分まで生きなくては、という強い思いがあったのだろうなと思います。
仕方ないことだとは言え、遭難の描写に関しては、基本的に野呂の証言しかありません。なので、どこまで本当なのか、という部分についてはどうしても拭いきれない疑問は残ることでしょう。しかし、少なくとも本作で描かれている野呂という人物からすると、嘘をついているとは思えないな、と思えてきます。もし何か隠していることがあったとしても、それは自分以外の誰かのために隠さなくてはならなかったことだけではないかな、とか思いますね。実際に野呂という人に会ったことがないんで正確な判断は出来ませんけど、信頼できる人ではないかなと思いました。
こういう気力のある人の話を読むと、生きる気力がほとんどない僕なんか実に恥ずかしい存在ですね。僕は別に、自分の生き方が恥ずかしいとかそんな風に思ったことはないんですけど、でも出来ることなら、野呂みたいにガッツのある生き方が出来たらよかったのにな、と思います。僕はあまりにも多くのことに興味がなさすぎるんで、そういう生き方はまあ無理なんですね。
壮絶な作品だと思います。題材の大きさに、著者の力量が見合っていないという部分は多少あると思いますが、凄く勢いのある作品だと思いました。最近は登山がちょっとしたブームになっているみたいですけど、山は危険なのだという認識を持つ意味でも、読んでみてほしいなと思います。

川嶋康男「いのちの代償 山岳史上最大級の遭難事故の全貌!」



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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
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5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
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13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
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3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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1位 千早茜「からまる
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