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ハチはなぜ大量死したのか(ローワン・ジェイコブセン)

そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、現在北半球で起こっている深刻な出来事についてとりあげた本です。
それは、ミツバチがどんどんといなくなっている、という現象です。CCDと名付けられたこの不可解な現象は、養蜂業界だけでなく、農業全体を危機的状況に陥れるような大問題へと発展しています。
2007年の春までに、北半球から四分の一のミツバチが消えたんだそうです。直接的な原因はまだ解明されていないものの、科学者の多くは、たった一つの原因によって引き起こされているのではなく、複合的な要因によって起こっているのだろう、と考えています。
本書は、そんなミツバチの失踪という出来事をキーワードにして、ミツバチがいかに人間と素晴らしい共生関係を築いてきたのか、農業にとっていかにミツバチは大事であるのか、CCDに対抗するために一部の養蜂家が行っている独自の手法、経済活動に組み込まれてしまったアメリカにおける養蜂の現状など、様々な部分に焦点を当てていきます。
ミツバチの失踪は、僕らの生活にも直結するほど重大な問題なわけです。何故なら、ミツバチがいなければ、果物を始めとする昆虫に受粉を手伝ってもらう植物のほとんどが受粉出来なくなってしまうわけで、そうなると果物の収穫などまったく出来なくなってしまうからです。
もちろん、ミツバチの他にも植物の受粉を手助けする昆虫はたくさんいます。しかし、ミツバチほど優秀な昆虫はいないんだそうです。ミツバチはとんでもない勤勉さで蜂蜜を集める働きものであり、すなわちそれは、植物の受粉を最も手助けする存在であるということになります。そのミツバチが、直接的な原因がまったく分からない謎の失踪をとげていくわけです。
直接的な被害は既に出始めています。カリフォルニアは、世界のアーモンドの80%を担う生産地ですが、それほどまでのシェアを獲得できるようになったのは、養蜂業者のお陰です。毎年受粉の時期になると、アーモンド生産者は養蜂業者と契約をし、ミツバチを借りることになります。敷地内にミツバチの巣枠を置くことで人為的に受粉を促進させるというやり方をずっとやってきました。
しかし、現在アメリカではどんどんミツバチの数が減少している。アーモンド生産者は尋常ではない高い金を払って養蜂業者と契約をするのだけど、しかしそうやって手に入れたミツバチがすぐに死んでしまう。事態はそれほどまでに進行しているんです。
アーモンド農場は、人為的に生産効率が異常に高められた農場なので、ミツバチの減少によって収穫量が下がってしまっても多少仕方ない部分はあるかもしれないけど、もし地球上からミツバチがいなくなれば、花をつける植物の大半が地球上から消えてしまうことでしょう。それほどまでにミツバチというのは、媒介者として重要な存在なわけです。ミツバチがいなくなるという異常事態を前に、ようやく人間はミツバチに依存し続けてきていたのだという現実を認識することになりました。
科学者は原因追及のために奮闘しているようですが、具体的なことはまだ分かっていません。ただ、本書で示唆されているのが、恐らくストレスなのではないか、ということです。何か単一の原因があるのではなく、いろんなストレスが複合的に絡み合って起こっているのではないか、と。
ミツバチはこれまで、人間に無理矢理使役されてきました。煙で燻されたり抗生物質なんかを投与されるのは日常的で、時には受粉のためにトラックに乗せられて長旅させられる。それまではなかったダニやら病気やらにも冒され、人間の都合に合わせるために様々な無理をさせられてきた。そう言ったストレスが積もりに積もって、挙句限界に達したのではないか、という推察がされています。
養蜂業者も手をこまねいているわけにはいきません。様々なやり方で事態を脱しようとするわけですけど、その中には、ミツバチをより自然な状態で飼育しようという発想の人々がいます。薬剤も使わず、無理な移動もさせず、すべてをミツバチに任せる。もちろん、環境や病気に耐えられなくて死んでいくハチも多いけど、そうやって残ったミツバチはどんどんいろんなことに耐性を身につけた種になっていく。そうやって、ミツバチ自身に力をつけさせることで、人間が何か手を加えることを極力避けよう、という発想です。
それを読んで僕は、「奇跡のリンゴ」の木村さんのことを思い出しました。木村さんは、農薬を使わなければ栽培できないと言われているリンゴを、完全に無農薬で栽培することに成功した人なんですけど、発想としてはまさに同じなんだな、と思いました。自然というのは常に最適な選択をする。自然に対して人間が『手助け』することは、実は邪魔だったりマイナスの効果しか生み出さないことが多い。自然の状態に近づけることと企業的農業というのは性格的に合わないわけなんですけど、それでも今後は、いかに両者を擦り合わせていくことが出来るかというのが主題になっていくのではないかなと思いました。
訳者あとがきに、日本の現状が少し書かれていたんですけど、日本のミツバチにはCCDの兆候はさほど現れていないということでした。CCDについては未だに研究途中だけど、CCDの影響下になさそうな日本のミツバチが救世主になるようなこともあるかもしれない、と書かれていました。
しかし、アメリカやヨーロッパでの被害は甚大なようで、食料のほとんどを輸入に頼ってる日本にとってもかなり事態は深刻でしょう。農業輸出国でミツバチがいなくなれば、生産量が落ち、価格が高騰したり、最悪日本に回ってくる分がなくなるなんてこともあるかもしれません。
本書はミツバチの失踪の話だけではありません。解説で福岡伸一が書いていたように、環境全体についての話です。植物との関係においていかにミツバチが重要な役割を担っているのかということを分かりやすく明らかにしていき、主題となっているミツバチの失踪をより深刻な事態として受け止めることが出来るようになります。最近日本では農業が少しずつ脚光を浴び始めていますが、農業というのは自然と共生していかなくてはいけないのに、自然を壊している部分もかなりあるのだなということを自覚しました。CCDの原因の一つには、最近使われ始めた特殊な農薬が原因ではないのか、という話もあるようです。農業というのは大事なものですけど、いかに自然を破壊せずに仕事として成り立たせていくのか。今後はそれがもっと問われていくのではないかなと思います。
ミツバチがここまで重要な存在だというのはあんまり知らなかったのでとても楽しめました。僕らの生活にも直結するかもしれない、現在世界中で起こっている問題です。是非読んでみてください。

ローワン・ジェイコブセン「ハチはなぜ大量死したのか」





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5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
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小説・新書以外

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7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
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13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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12位 久坂部羊「神の手
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14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
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3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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新書
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)