黒夜行

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ドキュメント隠された公害 イタイイタイ病を追って(鎌田慧)

そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、対馬のイタイイタイ病を追ったノンフィクションです。イタイイタイ病は四大公害の一つですが、富山県で患者が多く見つかりました。富山県に流れ込む川の上流にあった工場からの汚染によるものです。カドミウムが体内に蓄積することで骨が変形してしまう、そんな病気だそうです。
富山でイタイイタイ病を発見した医師が、対馬でも患者を見つけたと言って新聞の一面を飾ったのが1968年3月。対馬には鉱山があり、その採掘過程で工場から流れ出る廃水によってカドミウム汚染されているのではないか、ということだった。
しかし、対馬の住民はイタイイタイ病の存在を認めなかった。
著者が初めて対馬に渡ったのが1969年8月。そこで住民からイタイイタイ病について取材を試みるのだが、まったくとうまくいかない。工場のある樫根部落の人々は一致団結し、マスコミが来ても何も喋らない、という方針を取り続けた。
彼らの論理は歪だった。イタイイタイ病なんて存在しない。カドミウム汚染ということなら、1300年も前から鉱山があるんだから、そりゃあ少しはあるでしょう。でも住民は別に、カドミウムなんて怖がっちゃいませんよ、と。
イタイイタイ病を見つけた医師が確認したレントゲン写真は遺体と一緒に埋めたと主張し、厚生省がカドミウム汚染の要観察地域に指定しているにも関わらず、住民の結束は固く、著者はイタイイタイ病の存在を突き止めることができない。
そこには、対馬という過疎の部落ならではの悲しい問題があった。
ある日工場がやってきて、農地を奪うようにして工場を建てた。農家だった人々は、やがて工場で働くようになる。現金収入を得る途が、墨焼きを売るか道路工事しかない、そんな現状の中で、工場で働くことが出来るというのは地元民には恩恵であった。
だからこそ、必死で公害の存在を否定した。工場がなくなれば、生活が立ちいかなくなってしまう…。
結局著者は、何度も対馬を訪れ取材をするも、対馬にイタイイタイ病が存在するのかどうか確信を掴むことが出来なかった。
しかしその数年後、工場がカドミウム公害を引き起こしていたという内部告発の文書が突然著者の元に届き…。
というような作品です。
扱っているテーマは実に面白いんだけど、ちょっとダメでしたね。なんというか、非常に読みにくかったです。作家としての力量の問題なのか、あるいは僕に合わなかっただけなのかわかりませんが。ただ、最近同じような感じのテーマを扱った「アトミック・ハーベスト」という作品があるんですけど、そっちのい方が遥かによかったと思うんですね。僕は、著者の力量の問題なんじゃないかと思っているんですけど…。
本書が普通のノンフィクションのスタイルを踏襲していない、という点はまあいいんです。普通ノンフィクションというのは、対象と自分との間にある一定の距離が必要になります。離れすぎず、深入りせず、という部分から対象を見て、事実をえぐり出す。
しかし本書では、その距離感が存在しないんです。これは、著者がどちらかの立場に必要以上に肩入れしている、とかそういうわけではないんです。そうではなくて、『取材者』としての著者自身が本書の物語の中に大いに関わっている。『取材者』としての自分の行動や考え方まで含めて描写をしている、という作品なんです。
確かに本書のテーマで作品を書く場合、『取材者』自身の行動を外してしまったら何も書けない気がします。何故なら、取材した結果結局何も分からなかったわけですから。取材によって様々なデータや事実が出てきたというのなら、それを元に作品を構成すればいいんだけど、対馬のカドミウム汚染の場合、取材によって浮きあがってくる事実というのがほとんどない。ないことはないんだけど、憶測に過ぎなかったりあるいは明らかにおかしかったりする。だからこそ、『取材者』としての著者がどのように取材を進めていったのか、という部分を中心にして作品を構成するというのはまあ当然だろうと思います。だから、その部分は別にいいんです。
やっぱり文章とか構成の問題かなぁ。とにかく僕には読みにくくてしかたなかったんですよね。報告書や議事録みたいなものからの抜き書きも多かったし、議事録の抜き書きなんか本当に文章を全然いじってない感じなんで、読みにくい。
構成にしても、どこが悪いのかというのはうまく指摘できないんだけど、もう少しなんとかなったんじゃないかなと思うんですね。著者自身の取材や報告書・議事録からの抜粋、あるいは周辺データ(工場の設立過程や歴史などと言ったもの)で構成されているんだけど、そういうものの配置がなんかしっくり行っていない感じがしました。まあうまく説明できないんですけどね。
イタイイタイ病が確認されたにも関わらず住民はその存在を否定し続け、しかし数年後には内部告発によって企業を非難する運動が高まる、なんていう過程は実に興味深いし描きようによっては面白い作品になったと思うんだけど、どうも本書は構成や文章その他によって損をしているような感じがしました。
テーマは魅力的なんですけど、僕にはダメでした。内容がどうというより、読みにくくて仕方ありませんでした。著者の力量の問題なのか僕に合わないだけなのかはよく分かりませんが、僕としてはあんまりお勧めできません。

鎌田慧「ドキュメント隠された公害 イタイイタイ病を追って」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)