黒夜行

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魔女の1ダース 正義と常識に冷や水を浴びせる13章(米原万里)

昨日の営業終了後棚卸しだったわけなんですけど、その関係で通常の仕事がほぼ出来ませんでした。通常書店には、翌日の日付の荷物が入ってくるんだけど、それを出しちゃダメなんですね。というわけで通常の仕事がほぼまったくない状態だったんですけど、しかしこれがまあ忙しい。
常にやりたいこと・やらなければならないことが山積みで、普段は通常の仕事をやらないといけない関係で後回しにしてしまうようなことを結構いろいろ終わらせることが出来ました。バックヤードを整理したり(大分汚かったなぁ)、1月から8月までの文庫と新書の累計の売上データを出してみたり(特に新書の方は相当他の書店とは違ったランキングだと思います)、仕掛けようと思っている本からフレーズを抜きだしたり(それで小冊子みたいなものが作れたらいいなぁと思っているところです)、万引きされているかもしれない本をリストアップできるかもしれないデータを出して抜けているものを発注したりというようなことをいろいろやっていました。
何だかんだで時間は過ぎていくもので、まだまだやらないといけないことはたくさん残ったままです。それに棚卸しが終わるということでまたいろんな本を発注しまくったので、それが入荷する頃にはまた忙しくなるでしょうか。
基本的にレジに入っている以外の時間は、どんな仕事をするのかすべて自分の裁量で決められます。他の店ではどうか知らないですけど、ウチの店では誰かに何か言われるようなことはないですね。だから、やろうと思えばサボるのなんて楽チンですけど、もちろんそんなことはしません。誰に何をやってもらって、自分では何をしなくてはいけないのか。優先順位の高い仕事は何で、これはちょっと無理そうだから諦めようとか、そんなことを考えて効率的に動けるように頑張っています。まあ、その辺りがやっぱり面白いですよね。誰にも何の指示もされずに、自分のやりたいように仕事が出来るというのは楽しいものです。それで売上についても文句を言わせないレベルを保っていますからね。
書店員というのは、何もしなくても勝手に本が入ってくるので、正直なところ入ってくるものを適当に並べていれば一応体裁としては整ってしまいます。恐らくいろんな本屋に、そういうただ入ってきたものを並べるだけという書店員はたくさんいることでしょう。もちろんそういう本屋は実につまらない売場になっています。僕が作っている売場が面白いかどうかはまあ何とも言えませんが、少なくとも僕は、ただ入ってきたものを漫然と並べているだけの仕事は絶対にすまい、と思っています。まあ僕のやり方だと、どうしても返品が多くなってしまうんで、そういう意味ではダメなのかもしれませんけど、入ってくるものを並べるだけでは金太郎飴みたいな書店になってしまいますからね。いかに他の本屋とは違う売場を創りだすか。そればっかり考えています。
それはやっぱり、年間の売上ランキングにも反映されていきますね。恐らく他の書店では上位にランクインしないだろうという本結構入ってくる。そういうのが僕は楽しいなと思うわけなんです。これからも、他の本屋が売っていない本をいかに売るか(もちろん前提として、他の本屋が売っているものは売らないといけませんが)をメインに売場を作っていこうと思います。
あと全然話は変わりますが、書店というのは通常日曜・祝日は荷物が入ってこないんです。本も雑誌も入荷しない。ただ今年の9/23(祝)だけは例外だそうで、雑誌の新刊だけは発売されるようです。その辺りで出る女性誌をいつも買っている方、お気をつけください。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、翻訳家だった著者が(著者は既に故人)、様々な国の文化や常識を知るにつけ、いかにそれが国によって違うのかという部分を様々集めて一冊の本にまとめたものです。よく分からないでしょうから、後で具体例をたくさん挙げようと思います。
まずはタイトルの意味から。「魔女の1ダース」というのは数字の13を指しているようで、不吉なことを意味するようです。1ダースは通常12ですが、魔女の1ダースは13という意味になるようですね。
この13にしても、欧米では不吉な数字だと言われますが、日本や中国では逆にいい数字だと言われるようです。そういう国同士のギャップについていろいろ書いています。
たとえば、アダムとイブは何人だったのか、という議論が文化人類学の会議で起こったらしい。
イギリス人は、
「イギリスは紳士の国だ。林檎が一つしかないとき、何はさておき、まずレディーにお譲りするとは、これぞジェントルマンシップ。アダムはイギリス紳士だったはずです」
フランス人は、
「たかが林檎一個で男に身体をまかせる女なんてフランス人ぐらいしかいないはずだ」
そして誰も反論できなかったというソ連人の意見。
「ろくに着るものもなく裸同然の暮らしをしていながら、食い物ときたら林檎一個ほどしかないのに、そこを楽園と信じ込まされていたなんて、ソビエト連邦の市民以外に考えられますか」
面白いことを考えるものですね。
著者が、キルギスタン共和国という国に、とある日本人を訪ねて行った時のこと。
その日本人がここで一番うまい中華料理屋と言って連れて行ってくれた店があるのだけど、その店のあらゆる料理は羊の油の海に浸かっていて食欲がなくなった。
二度目に行った時別の中華料理屋に連れていかれたが、そこでも同じ。そこで著者はこう言って厨房に入ろうとしたらしい。
「キルギス人って、からっきしチャーハンというものが分かってないのね!チャーハンのごはんは、パラパラ、サラサラっというほど乾いていなくちゃ。あたし、断然厨房に行く。行って、コックさんに本当のチャーハンってのを作って食べさせてみせるわ」
するとその日本人は笑ってこういうのだった。
「ハハハハハ、このあいだキルギスの銀行家を日本に連れていき、東京の中華料理屋に案内したら、あんたの今の台詞とそっくり同じことを言ったよ。『日本人は全くチャーハンというものがわかっていない!チャーハンのご飯は、タップリとした油の中にひたひたに浸っていなくちゃならんのだよ。断じて油をケチっちゃいかん!オレを是非とも厨房に入れてくれ。コックさんに本物のチャーハンってのを作って食べさせてみようじゃないか』ってね」
常識というのはところ変われば、という感じなんですね、ホント。
アフリカのU国は経済的自立のために綿花を栽培している。これからの課題は、国内さんの綿花から作られる木綿製品に対する国内の需要が伸びていくことでだった。
そういう状況の中で、突如若い日本人ボランティア女性が脚光を浴びる。日本から古着をドッサリ持って来て無料で配ったとのこと。こういうほどこし型の支援は常にある。
じゃあこれが喜ばれるのかというと微妙なところ。せっかく綿花を作って国内消費を高めようとしているのに、質のいい古着が無料で手に入るとなればやる気は出ない。そういうわけで、この国の綿花プロジェクトは絶滅の危機に瀕しているとか。
正しいことというのは難しいものですね。
イラクに住んだことのある日本人のこんな話。
「イラクに住んだことがあります。面白いんですよ。イラクの方を自宅の昼食会に招くとしますでしょう。そのイラク人の客が高価な皿を割ってしまったとする。すると、この客は決して謝らないばかりか、
『マーレッシュ=気にすることはない』
と平然と言ってのけるんです。日本人のホストはカンカンに怒ってしまいます。
『じ、じ、自分で皿を割っといて、な、な、何が気にすることはないだ』
そうなるのは分かりますでしょう。まあ、イスラム圏に行くと、そのあたりでムスリムとイスラム文化に反発して大嫌いになってしまう人が、結構多いんです。でも、それは発想法の違いなんです。
『割れてしまった皿は、元に戻らない。その皿をあなたが割ったということならば、どれだけ責任や悔恨の念に苦しめられるだろう。ところが、神は、その皿を割ってしまうという不幸をわたしの身に振りかけた、だから、気にすることはない。あなたは幸福者だ』
という論理展開になるんですね。」
これはなかなか凄いですね。なかなかこの発想にすぐに賛同できる人はいないんじゃないかと思います。しかし皿を割ったぐらいのことで神が出てくるのか。大げさだなぁ。
あと、文化というのとはちょっと関係ないのかもしれないけど、本書で紹介されていた子育ての話が実に面白かった。とにかく子供の頃はほっとけ、ということらしい。危険を身にしみて実感させたり、風邪を引くからと言って厚着させない方がいい、ということのようです。詳しくは「ニキーチン夫妻と七人の子ども」という本が出ているらしいんでそちらをどうぞ。
いろんな文化の違いというのが具体例で説明されるんでなかなか面白いですね。時々、政治とか情勢とか社会の話になったりして、僕はそういう話はお手上げなんで難しい部分もあったんだけど、基本的には楽しく読めます。著者お得意の下ネタ話もたくさんありますしね。ロシア語の通訳だった方ですが、ロシアの話だけじゃなくそれはもういろんなところの話が出てきます。僕は日本から出て生きていくつもりはまったくありませんけど、出たら出たで面白い経験が出来そうだなとは思います。まあ僕はゴメンですけど。
エッセイとしてもなかなか質の高い作品だと思います。確か講談社エッセイ賞を受賞してるんだったかな。米原万里の作品って、読んだことのない人にはハードルが高そうに思えるけど(僕がそうでした)、かなり親しみやすい作品だと思います。興味がある人は読んでみてください。

米原万里「魔女の1ダース 正義と常識に冷や水を浴びせる13章」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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7位 「ぐろぐろ
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)