黒夜行

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疾風ガール(誉田哲也)

さて9月になってしまいました。今日はウチの店は営業終了後に棚卸しでして、まあだからどうってことはないんですけど、ようやくバタバタしたり調整したりというようなことから解放され、また棚卸しがあるから出来ないということからも解放され、通常通りな感じに戻れそうです。
さて、8月の売上ですけど、文庫に限って言えばかなり健闘したのではないかなと思います。前年8月と比較してほぼトントン、というぐらいでした。去年よりも少し落ちましたけど、でもそれは、もし昨日台風じゃなかったらクリア出来ていたんじゃないか、というぐらいの差なので、まあいいかな、と。
店全体の売上が前年8月と比較して93%ぐらいなので、その落ち込みと比較したら文庫はかなり頑張っていると思います。
ただ、確かに数字的にはトントンなんで悪くないんですけど、内容があんまりよくないかなと思うんです。理由は二つあって、一つは売れ筋の作品がかなり出たということ、そしてもう一つは棚からあんまり売れていないということです。
売れ筋の作品というと、東野圭吾「赤い指」、伊坂幸太郎「終末のフール」、上橋奈穂子「守り人シリーズ最新刊」「獣の奏者」、栗本薫「グインサーガ最新刊」、塩野七海「ローマ人の物語シリーズ」などなど。新刊ではないけど世間的に話題になって売れている既刊だと、「金のゆりかご」「思考の整理学」「向日葵の咲かない夏」みたいなものが売れていました。
去年の8月どんな作品が売れていたのか覚えていないんで単純に比較は出来ないけど、これだけ売れる作品が出ていてあの売上というのはちょっとよろしくないかなという感じがあります。それぞれが売れていないということは決してないんだけど、もっと売り伸ばせるのではないかなという気がしています。
そしてもう一つ、棚から売れていない感じがするということ。僕は毎月、出版社毎にどれだけ棚から売れているのかという数字を出して売上の推移を見ています。まだ8月分の数字は出していないんだけど、実感としては棚から売れている冊数が減っているなと思います。
棚から売れないというのは二つの意味で危険です。一つは、平積みばっかりから売れると、売れる新刊・既刊がない月には売上を維持出来ないということ。もう一つは、固定のお客さんが減ってしまうということです。本屋に行く人はわかると思うんだけど、書店の棚まできちっと見る本屋ってそう多くはないと思うんです。どっか初めていく街で本屋を見つけて入った場合、基本的には平積みをメインで見ることになると思うんです。棚まできちっと見る本屋は、普段自分がよく通っている本屋に限られることが多いんじゃないかなと思うんです。
そういう意味で棚から売れるというのは、僕の売場にお客さんがついているということで、逆に棚から売れないというのはお客さんがついていないなと思うわけなんです。
僕は棚から一日60冊、一月で1800冊売りたい、という目標があるんですけど、なかなかこれが達成できません。僕が棚から売れる冊数を計測し始めてから、一月で1800冊という数字をクリアできたことはありません。ちょっと前まではあと少しというラインをずっと維持出来ていましたが、ここ最近はかなり苦戦していて、一月1800冊というラインはちょっと遠ざかっています。
どうしたら棚からたくさん売れるようになるか、というのはまだまだ模索中ですけど、恐らく起死回生のアイデアみたいなものはないでしょう。細かなことを積み重ねていって、少しずつ棚から売れる冊数を伸ばしていこうと思います。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、「ストロベリーナイト」や「ジウ」などの警察小説で一躍ブレイクした著者の、警察小説ではない作品です。
かつてはバンドマンであり、そのバンド時代の先輩に誘われて芸能事務所「フェイス・プロモーション」に入社した宮原祐司は、巨乳・童顔という社の方向性に反して、バンドガールばかり漁っていて先輩に怒られていた。
そんなある日のこと。ふとしたことで見ることになったライブで、まさにホンモノだと確信できる逸材を見つけることになった。
柏木夏美19歳。
ロックバンド「ペルソナ・パラノイア」のギタリストで、その腕前は女性とは思えないほど天才的。巨乳ではないけど、ルックスも素晴らしい。周囲の人間を巻き込んでしまうそのスタイルに惚れこんだ祐司は、夏美をプロデュースしたいと近づいていくことになる。
バンドの他のメンバーとも知り合い、初めは拒絶されていた夏美とも少しは話せるようになった頃、突然バンドのボーカルだった城戸薫が自殺してしまう。薫の横で歌いたいがためにバンドに入った夏美は落ち込み、しかも「城戸薫」という名前が偽名だったと知らされ、夏美は薫のことを何も知らなかったことが分かる。
夏美は、よくわからないまま死んでしまった薫の本当の姿を追い求めるため、そして自分を納得させるために、宮原を引っ張り回して薫の過去を追いかける旅に出るのだが…。
というような話です。
というような平凡な内容紹介だと何だかつまらなそうな作品ですけど、そうではないですね。本書の最大の魅力はなんと言っても柏木夏美のキャラクターで、とにかくこの柏木夏美の魅力だけでも十分グイグイ読ませる力のある作品です。
夏美は周囲の視線を気にしない。薫のことは気になってるんだけど、それでも目に見えて分かるような態度も取らない。自分のやりたいことをバリバリやって、興味のないことは適当にやる。才能があるんだけど、あんまり自覚的ではない。破天荒で無茶苦茶なのに、知らない人の前では借りてきた猫みたいになる。素直じゃない。とかまあそういう変わった女の子なんだけど、変人好きの僕としては大好きなキャラですね。とにかくこういう、人の目をあまり意識しないという人が僕は好きなんです。誉田哲也の作品は女性の描き方に定評があるけど、まさに本書も女性を見事に描いている作品だなと思います。解説氏も書いていましたが、本書の中で本当にチラッとだけ出てくるマキというキャラクタ-がいるんだけど、このキャラも実にいいですね。これは惚れます。ラスト近く、マキが啖呵を切るシーンはなかなか圧巻で素晴らしいなと思います。
一方宮原祐司の方は割と平凡なんだけど、その平凡さがうまいこと夏美の才能を引き立てているし、夏美に振り回されるという役どころをうまくやっているんで、特に特徴があるというわけでもないんだけど、それなりの存在感はあります。
ストーリーは、正直割と平凡だったりしますね。要するに、薫が自殺して、薫のことを何も知らなかった夏美が過去の薫を追い求めるってストーリーで、まあよくある話かな、と。でもやっぱりキャラクターが活き活きしてるんで、読ませるんです。特に、ちょっとそれは無茶なストーリー展開だろ、というような部分もあるんだけど、それも夏美の強引なキャラクターをうまく使って押し切っている。もし本書に夏美のようなキャラクターが出ていなかったら、正直ストーリーは綻びだらけじゃないかと思うんだけど、夏美という破天荒なキャラクターがその綻びだらけのストーリーをきちんと小説という形に昇華しています。それぐらい、女性キャラクターがかなり良く描かれている作品です。
あと本書のもう一つの特徴は、その描写力です。「ストロベリーナイト」や「ジウ」のような警察小説を読んだ時には、読みやすい文章だなとは思ったけど、特別描写力に優れているなんて風には感じなかったんだけど、本書はなかなか凄い。疾走感のあるライブシーンとか、ライブのメンバーのとのやり取りとか、夏美の破天荒さとか、そういうのをまるで映像でも見ているかのようにテンポよく描写している。名文、という意味で文章がうまいというのではなくて、その情景を一瞬で感じさせかつ読んでて邪魔にならない文章という意味で実に文章がうまい。僕は音楽とか全然知らないし、ライブとかも行ったことがないんだけど、それでもまるでライブ会場にいるかのような熱気や雰囲気をそのまま感じることが出来ました。音楽をやってる人がどう感じるかは分からないけど、とにかくものすごい描写力を持つ作家だなと思いました。
ストーリー自体は平凡ですが、夏美というキャラクターが最初から最後まで全開でストーリーを引っ張っていくんで楽しい小説です。夏美というキャラクターにはかなり惚れると思いますよ。誉田哲也の、警察小説作家とはまた違った面を見てみてください。その内、「武士道シックスティーン」なんかも読んでみようと思っています。

誉田哲也「疾風ガール」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)