黒夜行

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愛しの座敷わらし(荻原浩)

そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は荻原浩が新聞連載をしていた小説です。
晃一の転勤により、引っ越すことになった高橋家。都心に住んでいた彼らが向かったのは、牛がその辺りにいるような、ドをつけたくなるような田舎。晃一が、どうせ引っ越すなら一軒家がいいだろう、と言って探し当てた物件だ。とりあえず下見を、ということで家族全員でやってきたものの、既に史子は不安で一杯だった。一番近いスーパーはどこ?
晃一が見つけてきたのは、築103年というまさに古民家と呼ぶのが相応しい物件。かつて外国の芸術家が住んでいたらしいのだが、どういうわけか突然引き払ってしまったらしい。史子にはその経緯も大いに不安を感じるのだが。
小学四年生で好奇心旺盛な弟の智也は大丈夫かもしれないが、中学二年生の梓美はここに住むことは決してオーケーしないだろう。トイレが水洗ではない時点でたぶんNG。ちょっと夜道が暗いのが不安だけど、やっぱり街中のマンションにしよう。こんなところにはやぱり住めない。
しかし結局一家はここに住むことになる。駅まで自転車で頑張って通うと言っていた晃一は一日で根を上げ、取っても取っても次の日にはまた出来ているクモの巣を史子は嫌々ながら取る。前の学校でクラスメートとうまくやっていけなかった梓美は新しく通う学校にも不安を感じているし、飼い犬のクッキーは人気のないところに向かって無駄に吠えることが多くなってきた。
智也と晃一の母親澄代だけが初めに気がついた。
智也は初め、近所の子供だと思った。小さな子で、コミュニケーションを取るのが酷く難しそうだったけど、何とか頑張って仲良くなった。頭のてっぺんで髪を結んだ、着物を着た変な子だ。
澄代はその子を初め、六助だと思った。口減らしのために東京の親戚にもらわれることになった末の弟の六助が、新しく移り住んできたこの家に何故かいる。
それは、座敷わらしだった…。
というような話です。
さすが荻原浩、実に面白い。家族小説では、重松清の牙城を崩せる作家はそうそういないだろうと思うけど、荻原浩だったら重松清に匹敵するだけの力はあると思う。荻原浩の方がユーモア的な部分が多いんで、作風は大分違いますけどね。
高橋一家は、そこそこうまくやっているように見えて、実は結構問題がある。まあこの問題って言うのは、こういう家庭には一般的によくあるような話だと思うんだけど。晃一は、仕事で実績を出していると思っていたにも関わらず、実質的に左遷となる転勤の辞令を受け取り、もはや出世の道もない。それなのに、まだ会社や上司におもねるような仕事をしてしまう、根っからのサラリーマンだ。あと、男親と娘という宿命なんだろう、梓美との関係が芳しくなく、何とかしたいと思っているけどどうしたらいいか分からない。
史子は、そんな仕事人間である晃一に不満を持っている。家庭を顧みることなく、家族との約束も仕事のせいで反故にして、あまつさえ新居についても勝手に決めてしまう。夫の母親である澄子がボケ始めているような感じがあって、その義母との同居も少しストレスになっている。
梓美はとにかく、学校での対人関係がうまく行っていない。昔は面白いキャラとして周囲の溶け込むことは出来たんだけど、最近はどうしても周りの空気を読もうとしてしまって、いろいろ考えた挙句何も出来ないということが多い。新しい学校で心機一転、人間関係をやり直そうと思っているんだけど、やっぱりいろいろ考えてしまう。あとオヤジがうざい。
智也は、恐らく家族の中で一番問題を抱えていないかもしれない。だから真っ先に座敷わらしを見つけ、仲良くなれたのかも。子供の頃喘息を患い、母親から過保護に育てられた以外は、特に問題はない。ただ家族の変化や雰囲気なんかには敏感で、冷静な観察眼を持っている。
澄子は、時々おかしな言動をするが、自分ではボケているわけではないと思っている。しかし、特に史子からそう思われているだろうから、言動を自重しようという風には考えている。夫の死後、長野の住処を引き払って息子夫婦と同居するようになってから、ちょっとボケの症状が出始めている。
さて、こういうありきたりだけどありきたりだからこそ解消するのが難しい問題が、なんと座敷わらしによって解決していくのである。本書は、まあ読みどころは人それぞれ様々だと思うが、その座敷わらしの存在によって家族が再生していく、というのがその一つになるのではないかなと思う。
正直なところ、座敷わらしは何もしない。そもそも喋りもしないし、姿が見えるのは時々だし、見えない人には見えない。智也にしたところで、けん玉で遊んだり、お菓子をあげたりしているだけにすぎない。
でもそんな座敷わらしの存在が、実に鮮やかに家族の問題を解決していくのだ。何もしない座敷わらしがどうやって?と思うかもしれないけど、そこは荻原浩の作家としての力量が素晴らしいというしかない。僕は、ファミレスで晃一と梓美が連係プレーを取っているシーンなんて見事だなと思うし、座敷わらしを見てしまった史子が、自分の頭がおかしくなったと思い、なるほどこれは辛いものだ、澄子さんのボケを疑ったりするのも申し訳ないことだと思って優しくするような場面もいいなぁと思います。一つ一つは実に些細なことなんだけど、そうしたことの積み重ねが、家族を立て直していく。これは面白いなぁと思いました。
荻原浩の小説が素晴らしいのは、キャラクターを生かした文章です。こういう文章が書ける作家は他にはそんなに思いつかないです。
荻原浩の文章表現は、そのキャラクターに合った表現が生かされているのが特徴です。『○○みたい』っていうような表現があった場合、その○○に当たる部分がそのキャラクターの性格みたいなものを表していたりします。ちょっとした場面でもそういう細かな部分に手抜かりがなくて、恐らくものすごくたくさんの取材みたいなことをしているんだろうなと思います。
また、『史子が自転車に乗っている時、持ち手を逆手にする』みたいな描写があります。これは、『手のひらばかりに紫外線を当てないようにするため』と説明されるんですけど、こういう細かな描写によってキャラクターの個性を描きだすのが実にうまいんですね。東野圭吾なんかもそういう部分があるけど、こういうただ取材するだけでは分からないような描写って、どうやって書いているんだろうなっていつも思います。
家族五人それぞれについてきちんとストーリーを用意し(澄代だけはそんなに出番は多くないけど)、それを家族の再生という全体の主軸に絡める手腕はさすがだし、450ページ近くある結構長い小説なのに、その長さをまったく感じさせない読みやすい文章は素晴らしいものがあるなと思います。荻原浩の作風というか作家としての真価みたいなものは、本書のような小説の時に一番発揮されるなという気がしました。実に面白い小説です。是非読んでみて欲しいなと思います。

荻原浩「愛しの座敷わらし」






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Comment

[3547]

こんばんは。
通りすがりさんとは反対に、今日は土曜日ですが出勤でした(泣)。お仕事の方も大変そうですね。楽して働きたいという人が多い職場はギクシャクしますよね。お気の毒に…。しかし、話がかみ合わないとなると、これはこれで大変ですね。考えられる理由は①理解力の欠如 ②プロ意識の欠如 ③わざと分からない(気づかない)ふりをしている ④売り上げなんて自分にとっては他人事 ⑤話し合いを持つこと自体が面倒(ウザイ) でしょうか。
相手が依怙地になっているのでしたら、何を言っても無駄でしょうね。反撥されるだけ、通りすがりさんも気分が悪くなるでしょう。しばらく静観されてはいかがですか。冷却期間ということで…
『愛しの座敷わらし』は、巧くできた作品ですよね。ほのぼの系の物語が読みたいときはお薦めです。高橋家の一人一人のキャラが詳細に描かれていて、笑える部分も泣ける部分もありました。荻原さんの筆にかかると座敷わらしも「押入のちよ」風になりますよね。可愛い幽霊でしょうか。この一家がまた転居することになり、いよいよお別れかと思っていましたら、ファミレスでのサプライズがありましたね。私はこの最後のシーンで、胸が熱くなりました。荻原さんに脱帽!という感じです(笑)。
今日職場からの帰りに、重松さんの新作『かあちゃん』を買いました。夕飯を挟んで一気読みをしてしまいましたが、この連作短篇は素晴らしいです。一話ごとに主人公が変わり、メインテーマは「償い」ですが、なかなか深い作品です。そのうち是非お読みくださいね。
では、この辺で。ふと思ったのですが、通りすがりさんの職場で働いている方は本好きではないのかも知れませんね。好きでしたら、もっと働き方が変わるでしょうし、お客に本を薦めたい(買ってもらいたい)と思うでしょう。

[3548]

こんばんわです。お仕事お疲れ様です。
話がかみ合わないというのは本当に辛いですね。僕の言っていることを理解して、その上できちんと反論してくれ、かつそれが納得できるものであるならいいんですけど、そんなレベルにはまったくいないですからね。
挙げてくれた可能性の中から選ぶと、③以外すべて、という感じでしょう。特に理解力の欠如が顕著ですが。
相手もですが、僕も大人げない人間なんで、お互いに依怙地になっています。まあここ最近はまったく何も言っていなかったんですけどね。何を言っても無駄だっていうことは十分理解していたつもりなんで。でも今回の問題は放っておくわけにはいかないんですよねぇ。難しいものです。
ウチの書店で、本好きな社員や担当者というのは基本的にいないですね。社員や担当者以外ではそれなりにいるんですけどね。そういう本が好きではない人間が上にいて適当な仕事をしているんで、本当に困りものです。
「愛しの座敷わらし」はよく出来ているなと思いました。荻原浩テイストに溢れた作品ですね。そういえば僕はまだ「押入れのちよ」読んでないんですよね。
ラストのファミレスのシーンはいいですよね!僕もあれはなかなかやるなぁ、と思いました。そうなると、座敷わらしを移住させようと頑張ってる人がちょっとかわいそうですけどね(笑)
重松清はまた新刊を出しましたかぁ。相変わらず、恐るべきスピードで本を出していますね。もはや読んでない作品が多すぎて、全然ついていけないですね。重松清の作品は、例え時間がかかってもすべて読みたいなぁと思っているんで、機会があったら読んでみます!

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
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1位 「「科学的思考」のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)