黒夜行

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廃墟建築士(三崎亜記)

というわけでそろそろ内容に入ろうと思います。
本書は四つの短編が収録された短編集です。

「七階闘争」
ある町で、殺人事件や火事などが相次いだ。それ自体はお互い何の関連性もないニュースで、すぐ忘れてしまうような類の事件だった。しかしそのすべてが、建物の七階で発生していたという事実が、おかしな議論を引き起こす。
建物すべての七階を撤去しよう。
そういう話が持ち上がった。マンションの七階に住んでいた森崎は、これはちょっと自分にも関わりそうだぞと思いはしたが、まさか七階で事件が頻発したからと言って七階すべてを撤去なんてことはありえないだろうと思っていた。
しかし、仕事の関係で知り合った並川さんという女性が、七階護持闘争、という運動に関わっていることを知り、さらに状況は奇妙な様相を呈していくことになり…。

「廃墟建築士」
国の文化度を見極める基準の一つに廃墟が挙げられるほど、廃墟文化は全世界的に成熟している。廃墟とは、魂の安らぎの空間なのだ、と。
しかし残念ながら日本は、諸外国に比して廃墟文化が立ち遅れている。そこで、廃墟専門の建築家だった関川とその師匠は、廃墟に関する国の法律が変わり、廃墟の認定要件が緩和された際、一つの決断をした。依頼をすべて断り、廃墟建築士の育成に取りかかったのだ。
その弟子の一人である鶴崎が、税金200億を掛けた大規模な廃墟を完成させたのだが…。

「図書館」
日野原は、ハヤカワ・トータルプランニングという会社で、夜の図書館を開放するための『調教』を生業としている。かつて「本を統べるもの」と呼ばれ、世界の空を回遊していた図書館は、今ではかつての野生を収め、地に繋がれるようになった。しかしその野生が失われたわけではなく、夜になると解放される。人気のない図書館で本たちが自由に図書館内を舞い飛ぶのだ。
それを一般開放したいという依頼に対して、図書館を『調教』するのが日野原の仕事だ。かつてのどの現場よりも順調にことが進んだのであるが…。

「蔵守」
蔵守は、蔵を守る存在だ。蔵の中に何があるのか、何から蔵を守っているのか、それは知らない。蔵があるから蔵守がいる、そして蔵守は守りつづけることに存在意義がある。
蔵は人間が存在する以前からあったとも言われている。何を守っているのかもわからないまま、日々蔵と寄り添い、どこへも行くことなく、ただ蔵を守り続ける。その人生の先に、一体何が待ち受けているのかわからないまま…。

というような感じです。
相変わらず変な話を書く作家だなと思いました。
三崎亜記の作品というのは、するりと非日常の世界に入り込む。舞台はどれも日常的な世界に見えるのだけど(少なくともファンタジーのような舞台ではない)、でも三崎亜記の描く世界では何かがどんどんズレていく。建物の七階が神聖なものであったり、廃墟が国の文化の成熟度を測るものさしになったり、夜の図書館で本が舞ったり、という感じだ。そしてその奇妙な世界観の中で、その奇妙な価値観を細部に渡り突き詰めていく。だからどんどん奇妙な世界が出来上がっていく。それをさも、普通の世界ですよ、これが当たり前なんですよ、みたいな文章で書くもんだから、余計に変な世界観が出来上がるわけです。ホント変な作家だなと思います。
「七階闘争」と「廃墟建築士」は面白かったな、と思います。どちらも、奇妙なものに価値が置かれ、それを巡って争うというストーリーで、現実の世界をうまく皮肉っているような印象がありました。
「七階闘争」では、建物の七階は神聖な存在なのだ、という主張が出てきます。世界最初の七階は、地面の上に作られたんだそうです。意味不明ですよね(笑)。七階護持闘争のメンバーが行う抗議行動も何ともアホっぽいし、そもそも七階が神聖なものだという主張は全然意味が分からない。主人公の森崎にもさっぱり分からないんだけど、何となく活動に参加することになってしまう。
「廃墟建築士」でも、廃墟というものに価値が置かれます。いろいろ理由はつけているけど、まったく意味が分からない(笑)。そもそも、廃墟が国の文化成熟度を測るものさしになっているというのが訳が分からないし、「みなし廃墟」だの「偽装廃墟」だのといった意味不明な言葉を作り出すし、廃墟というのが大きなマーケットになっているんだけど、何でやねん!という感じです。でもそんなことを言ったら、絵画とか彫刻だって、どう美しいのか、どう素晴らしいのかを説明しろと言われたら難しいかもしれません。であれば、廃墟に価値がある、という価値観だって、あながちおかしくないのかもしれない、と思います。
廃墟は最近ブームになっているけど、あくまで趣味の範囲でしょう。本書では、廃墟というのが経済的にも大きな市場を形成している、それほど大きなマーケットが出来ている、というところが面白いですね。
「図書館」もまあまあ悪くないと思います。真面目くさった顔をして、図書館に野生があるなんていう話を滔々としている辺り、ただものじゃないですね。ただ、「七階闘争」や「廃墟建築士」のように価値観の対立みたいなものがそこまでメインではなかったので、そこまで面白いというほどではないかなと思います。
「蔵守」はちょっとどうかなという感じがしました。僕はあんまり好きにはなれませんでした。他の3作と比べて、設定が非常に曖昧で、よく分からない。他の3作では、もっともらしい言葉を作って奇妙な世界観をどんどん補強していくんだけど、「蔵守」は最後の最後まで抽象的な話しか出てこなくて、イマイチよく分かりませんでした。最後の最後で謎的なものが明かされるけど、それもなぁ、という感じ。僕はあんまり好きではありません。
しかしまあ、全体としてはよく出来た作品だと思います。こういう、日常から非日常へとトリップさせる作品を書かせたら、三崎亜記に適う作家はいないんじゃないかなと思います。っていうか、三崎亜記みたいな作家がまずなかなかいないんですけどね。ただ、ずっとこういう作風でやっていくと、飽きられるだろうなと思います。まだ大丈夫でしょうが、そろそろ別の何かを見つけ出さないと作家として厳しくなっていくんじゃないかなと思ってしまいます。
面白い作品だなと思います。普段僕らが『当たり前だ』と思っていることがどんどん崩されていく感じです。ぜひ読んでみてください。

三崎亜記「廃墟建築士」




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Comment

[3543]

こんばんは。いよいよ梅雨入りのようですね。
せっかくのコメントが消えて、残念でしたね。パソコンも万全ではないということで…(泣)。私も何度か経験済みですが、書いたはずの文章が一瞬にして消えてしまうと、モチベーションが下がりますよね。新たに再度書いてみようとは思えなくなります。お気の毒でした。私は別に保存して、書き込むときはコピー・貼り付けという方法も消えた当初はしましたが、段々それも億劫になり、今はいつも通りに戻りました(笑)。
職場の悩みは尽きないようですね。仕事に対する真剣さが各人違うと思いますので、通りすがりさんのように自分の持ち場の売り上げを伸ばすぞ!と張り切っていらっしゃる方にとっては、いい加減な働き方をする人は許せないでしょうね。でも、そういう方はいずれ辞めるのではないでしょうか。好きでもないことはそんなに長続きしませんよ。そうすれば、通りすがりさんの天下(?)です。それまでは、まぁ我慢しましょうよ。
三崎さんのこの作品、お読みになりましたね。相変わらず、荒唐無稽な話ばかりですが、おもしろいですよね。
「七階闘争」は建物(七階)と殉死(?)する女性が登場しましたし、~八階や五階や一二階より200年ほど遅れて七階ができた~という論理は算数的にも??です。が、何となく納得させられてしまいます(笑)。そこが不思議ですよね。
「廃墟建築士」など廃墟は結果であり目的ではないのでは…と思いつつ、風化促進剤などという奇妙な薬ももしかしたら存在するような錯覚に陥りますね。廃墟に抱かれるように亡くなる姿も、妙に心に残りました。
「図書館」はちょっと想像力が付いていけません(泣)。ただ、長いこと書架に固定されたまま身動きがとれない本たちも気の毒だなぁ、と同情はします。
「藏守」はこの職業がどんなものか分かりませんが、あくまでも藏を守り通そうとする信念が凄いですね。
全編を通して、建物と運命を共にする話が多いですね。やはり建物には霊が宿るのはこういう事情があるからでしょうか(笑)。私はそんな気持ちになって読みました。
昨日、熊谷達也さんの『マイ・ホームタウン』と『七夕しぐれ』を読みました。続きになっていますが、なかなか好かったです。別々に読んでも支障はありません。自分の出自(被差別部落)についてイジメられる話が出てきますが、子供の世界では大人は当てにならないものなんだなぁ、とつくづく感じました。
では、この辺で。遂に『1Q84』が100万部突破ですね。職場で話題にしましたが、忙しいらしく誰からも反応がなかったです(泣)。次男は読むつもりらしく「借りるよ!」と言っていましたので「あくまでもフィクションだから、間違えないでね」とつい余計なことを口走ってしまいました(笑)。

[3544]

こんばんわです。ホント、雨が続くと本が売れなくなるんで、困りものです。
昔のパソコンの時は、とにかく不安定で、ウェブプラウザがすぐにフリーズしてしまっていたんで、ちょっと書いてはワードに貼り付けたりしてたんですけど、新しいパソコンに代わって安定してるんで、そういうのをやらなくなっちゃったんです。だから時々こういうことが起こるんですね。ホント消えると憂鬱ですよねぇ。
好きではないことのはずなんですけど、これがなかなか辞めそうにはありません。恐らく辞めないでしょうね。基本的に、他の小売店の社員より遥かに仕事をしていなくて、それで特に誰からも怒られないんで、楽なんでしょうね。社員の一人はずっと本屋で働きたいと思っていたらしんですけど、その社員が担当しているコミックはまあ酷いもんです。悩みは尽きないですよ、ホント。
三崎亜記はどこからこんな荒唐無稽な話を考えつくんですかね。五階や八階や十二階より200年遅れて七階が出来たなんて、普通は思いつかないですよね。以前に「バスジャック」って短編集にあった、二階についているドアの話でもそんな風に思いましたけど、発想が凄いなと思います。
食べ物の例になるんでちょっと違うかもですけど、納豆みたいに敢えて発酵させる、みたいなイメージかもしれませんね、本作で描かれる廃墟は。偽装廃墟っていうのが言葉としては一番凄いなって思いましたね。普通の感覚では、廃墟なんか偽装したって意味ないですからね。
「図書館」に出てくる能力者は、確か「バスジャック」って短編集でも出てきましたね。作中でも描かれていましたけど、動物園で動物になりきる、みたいな短編です。本に擬態しているのに、固定した後は動ける、みたいなところはなかなか想像力がついていかなかったです。
蔵守は何だかものすごく悲しい存在ですよね。何のために死んでしまうのか、という気がします。
「七夕しぐれ」が、たぶん明日文庫になります(笑)。部落差別を扱った作品だということだったから、講談社文庫の「被差別部落の青春」って本を売場に置いています。どっちかっていうと、「被差別部落の青春」って本に興味があります。
「1Q84」は12日間で100万部突破っていうニュースを僕も見ました。信じられないですね。今ウチの店でも、1巻は品切れ、2巻は1冊のみ、という状況です。また近い内に入ってくるとは思いますけど。
「あくまでもフィクションだから…」ってつい言葉を掛けてしまうというのは面白いですね。大丈夫ですよ、そんなに気にしなくても。たぶんですけど(笑)。息子さんの感想もぜひ聞かせてくださいね。

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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
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14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
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11位 中脇初枝「きみはいい子
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16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

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