黒夜行

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新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に(小林弘人)

さてちょっと時間がないので急ぎ目に。
今日は、つい最近ちょっと話題になった(はず)の雑誌のニュースを。

講談社が出している「モーニング・ツー」というマンガ雑誌があります。連載マンガで一番有名なのは、「聖☆おにいさん」でしょう。
しかしこの雑誌、発行部数が少ないのか、読者的にはなかなか手に入らない雑誌のようです。正直僕も、売場で見た記憶が一度もありません(もしかしたら入荷してるのかもしれないけど、数が少なすぎて目につかないだけかも)。
そこで講談社の編集部は考えました。発売と同時にWEB公開してやろう、と。
記事はこちら。

http://news.nifty.com/cs/technology/internetdetail/itmns-20090601029/1.htm

一年間、発売と同時にWEB公開に踏み切ることにしたようですが、それにより5月号の売上が上がった、とのことです。
WEBと雑誌で差別化したらしいんですけど、そもそも刷り部数とか増やしたんでしょうかね。刷り部数を増やしたわけでもなく、それでも売上が上がったということは、恐らく今までモーニング・ツーという雑誌が認知されていなかったのではないか、と思います。WEB公開に関するニュースや、実際WEB公開されたものを目にして初めてモーニング・ツーという雑誌を知った人々が、WEB版と差別化されているという雑誌を買い求めたのかもしれません。
しかしこのWEB公開に踏み切るまでには、「社内外の関係各所と数え切れないほどの折衝、交渉、議論、激論を交わし、すったもんだ、すべった転んだの大騒ぎの末」と表現するような大変な苦労があったようです。僕のイメージでは、大手出版社の中ではこんな試みが出来る出版社は講談社ぐらいなんじゃないかな、と思います。講談社というのはなかなかトリッキーな仕事が通る、というイメージがあって、旧弊な業界である出版業界の中でもフットワークが軽い気がします。これからも、すったもんだの末にいろんなことをやってほしいものだな、という気がします。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、僕が普段見ている書店員のサイトで、出版・書店に関わる仕事をしている人なら必読だ、と紹介されていたので読んでみようかなという気になりました。
タイトルや、その書店員の方の紹介の文章なんかを読んだイメージでは、今後紙の出版媒体はどうなっていくのか、書店はどうなっていくのか、ということに言及している本なのかな、と思っていました。僕は基本的に本屋で本を売るというのが大好きで、天職だなと思っています。ずっとこの仕事を続けられればいい、と思っています。ただ、業界全体がこうなればいいとか、こうなってほしいとか、自分ならこうするのに、みたいな意見は特にありません。正直言って、そういう広い部分についてはやる気がありません。僕は自分がちまちま本を売っている領域さえなんとか保持してもらえれば、あとはどうなってもいい、とか思っています。まあ実際その領域だけ保持されるなんてことはありえないんで、現行の出版・書店業界には頑張ってほしいと思っているんですけど、自分が何か出来るか、というと出来ないでしょうねぇ。
みたいなことを読む前は考えていたし、感想を書くときもそんな話がメインになるんじゃないかなと思っていたんだけど、全然違いました。本書には、紙媒体の出版の話なんてほぼ出てこないし、書店の話なんてまったくないです。じゃあ一体どんな内容なのか。
その前に著者がどんな人なのか書きましょう。インターネット登場以前からコンテンツ制作に携わり、雑誌「ワイアード」「サイゾー」、ウェブ人気媒体「ギズモード・ジャパン」を創刊、眞鍋かをりら有名人ブログの出版をプロデュースしてきたITメディア界の仕掛け人、だそうです。そんな著者は、自身のことを『出版人』だと考えているようですが、周囲からはまったくそう思われていないようです。
さてそんな著者の作品なんで、基本的な話はすべてウェブの話になります。では何故それが出版なのか?著者はまず冒頭で、『出版』や『雑誌』という言葉の概念を広げることから始めます。
本書で著者は、『出版』というものを『公にするという行為』、そしてその結果『メディアとして認知されたり、あるいは価値を持ち換金できるようになったりする過程』として定義します。僕を含めて多くの人は、『出版』と聞くと紙に印刷して具体的な流通経路に乗せる、ということを思い浮かべるでしょう。しかし、これからの『出版』というものを考えた時、その狭い視野で物事を見ていたらヤバイよ、とまず書きます。
また、『雑誌』についても概念を拡張します。著者にとって雑誌の本質は形にはありません。僕を含めた多くの人は、雑誌と言えば書店に並んでいる紙に印刷されたあの雑誌のことを思い浮かべるでしょうが、著者は『雑誌』の本質を、『コミュニティを生み出す力』にあると考えます。そしてその『コミュニティを生み出す力』というのは、ウェブとの親和性が非常に高い。というよりは、ウェブの方が遥かに優れている、と著者は考えます。そこで、ウェブ上でコミュニティを生み出しているあらゆるサイトは、雑誌的なものとして取り扱っています。
著者は本書でこんな風に書いています。『「紙に印刷されなきゃ、コンテンツじゃない」というドグマ(教条)をお持ちの方以外だけ先に読み進めてください』と。上記の『出版』と『雑誌』の定義を受け入れられない人は読まない方がいいかもしれません。著者は出版社の方と話をする機会があるようですが、その際「紙に印刷されていないと」という基本的な前提が邪魔をして本質的な話に行きつかないばかりか、対立した議論に発展したりすることもあるとか。本書を読んだ限りでは、紙媒体の出版を憂え、新たな時代を模索している著者のあり方の方が僕は正しいと思ってしまいますが、やはり出版業界は旧態依然とした業界なんだろうなと思います。
また著者は本書の前提として、『だれでもメディア』という言葉を頻発して説明をします。これはそのままの意味で、誰でもメディアを立ち上げることが出来る、というような意味です。ブログや、最近では個人で立ち上げているウェブラジオみたいなものがあるようですけど、そう言った誰もがメディアを立ち上げることが出来る時代の中で、いかにして『出版』という行為を捉えるのか、という部分に焦点を当てています。
さてこの、『出版』『雑誌』『だれでもメディア』という三点さえ押さえれば、本書の内容についていくことは出来ると思います。著者は現在ウェブで展開されているありとあらゆる状況を、この『出版』『雑誌』『だれでもメディア』という観点から分析し、現状で何が起こっているのか、何故これは成功したのか、どんなターゲットに目を向けるべきか、編集者のやるべきこととは何か、既存の出版社の食い込む余地はどこにあるのか、いかに発想を転換しなくてはいけないか、諸外国の現状はどうなっているのか、というようなことにして説明を加えて行きます。
本書を読み続けていると、どう読んでもウェブの話なんですけど、しかしそれはあくまでも『出版』という観点から語られています。ここで、これまでの考え方を捨てなくてはいけないと考えるか、あるいは著者はトリッキーなことを言っていると考えるかによって、これからの出版業界は変わっていくのだろうな、と思います。
一つはっきりしていることは、これからの『出版』に、書店はもう不必要だ、ということです(書店の話は本書では扱われないので、以下の話は僕の個人的な意見です)。著者が考える『出版』の未来に、書店の存在する余地はありません。すべてがウェブ上で語られてしまうので、リアルな店舗が存在する理由がなくなってしまうのです。
もちろん、僕は書店がなくなるとは思っていません。どんな形であれ、リアルな書店というのは生き残っていくだろう、と思っています。しかしまずその『どんな形であれ』という部分がどう変化していくのかというのが分かりません。恐らく、総合書店みたいなものはどんどん減っていくかもしれません。児童書専門の書店とか、旅行書専門の書店と言ったようなジャンルを限定した書店が細々と生き残っていくだけかもしれません。
あるいは総合書店は生き残るかもしれません。しかしその数は今よりもぐっと減ることでしょう。『出版』の未来が本書で描かれる通りであれば、どう考えてもリアルな書店が現状通り生き残る余地はありません。どんどん淘汰され、本書で描かれている『出版』の未来に早くから対応することの出来た書店だけが生き残るのではないかなと思います。
しかし、本書で描かれる『出版』の未来に対応できる書店の未来像とはどんなものなのだろう、と思ってしまいます。発想としては、『ウェブではどうしても手に入らないものを書店で』ということになるんでしょうが、しかしそれはどういった情報でしょうか。あるいは、『ウェブにアクセス出来ない人を書店に』でしょうか。しかしこれから、ウェブを扱えないという人はどんどん少なくなっていくことでしょう。さてそうなると、書店が生き残る余地は一体どこにあるでしょうか?まあ、所詮アルバイトの僕が考えるようなことではないし、そもそも考える気力もありませんが、やはり書店というものが生き残っていくのは相当大変だろうなと思いました。
さて本書の話に戻りますが、内容としてはすごく新鮮で面白かったです。書店員が読むのもいいですが、現在出版社で働いている人や、これから出版社で働きたいと思っているような人に読んでもらいたい本です。著者の会社で働いている社員なんかが、「本当は大手出版社に行ってメディアを立ち上げたかった」なんてことを言うので著者はずっこけてしまうようなんですが、今では誰でもメディアを立ち上げることのできる時代で、大手出版社に依存する必要はない、と。逆に出版社という大きな組織の中では通さなければいけない稟議書なんかが山ほどあって新しいことはどんどんやりにくくなっている。でもウェブであれば、そもそも少人数小資本で出来る。もちろん誰でも参入できるということは、競争率が激しいことを意味するんだけど、しかしターゲットをきちんと見据えていれば勝ち残ることは出来る。そういうような話もかなりありました。
ちなみにですが、本書では雑誌と書籍は基本的に区別して語られます。本書では、雑誌的なものについて基本的に描かれています。これまで紙で発行されていた雑誌はウェブの方が親和性がいいよ、というような感じ。でも著者は、書籍はそれ自体で完結していていてクローズドなものなので存在価値はある、というようなことを書いてありました(どこに書いてあったか探せなかったので、著者がどういう言葉で書いていたのかはっきりしませんが)。なので、書籍を作りたいという人はやはり出版社に行くのがいいでしょう。書籍を作るという点での出版については、著者は本書では触れていません。あくまでも、コミュニティを作る力を持つという意味での雑誌に力点を置き、それをウェブで展開していくにはどうすべきか、というような話になっていきます。
というわけでなかなか面白かったしいろいろ考えさせる作品でもあったんだけど、でもちょっと読みにくかったという部分もあります。僕の知らない横文字言葉が頻出するし、文章的にも昔国語の授業で読まされた評論文みたいな雰囲気があって、ちょっと意味を掴みづらい部分もありました。まあ、僕の国語力が低すぎる、と言われればそれまでなんですけど。ホント、本はたくさん読んでますけど、国語はダメなんです。基本的にずっと理系でやってきたんで、国語とかは大嫌いでしたね。何であんな授業を受けなきゃいけないんだ、とずっと思ってました。基本的にはいつも内職していましたけど(笑)。
まあそんなわけで、示唆に富んだ作品だと思います。本書の主張を受け入れられる人も受け入れられない人も、とりあえず読んでみたらいいと思います。何らかのメディアを立ち上げたいと思っている人、現在の出版業界を憂えている人、何でもいいから新しいことを始めたい人、自分のブログのアクセスが増えないなぁと思っている人、最近あんまり雑誌を買わなくなった人、あるいはまだまだバリバリ雑誌買ってますよって人。とにかくいろんな人に読んでもらいたいです。基本的に話は、ウェブで何かを展開するということはどういうことなのか、という話に終始するんで、興味ない人は興味ないと思いますけど、『出版』というものがどうなるのか、どうなるべきなのかということを考えるいいたたき台(と言っては本書に失礼かもしれませんが)になるのではないかなと思います。興味がある方、是非読んでみてください。

小林弘人「新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に」



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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

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2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
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4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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