黒夜行

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ミッキーマウスの憂鬱(松岡圭祐)

さてしばらく更新が空いてしまいましたが、というかGW中はもう少しこんな感じかもですが、しばらくしたらまた通常通りになりますのでまたよろしくお願いします。
さて今日の話は、出版社への発注の仕方のあれこれについて書こうと思います。
普段から僕は出版社にいろんな形で本を発注しています。大きな書店の場合本部というのがあって、その本部がまとめて発注を管理したり、あるいは商品課みたいなところがあってそこで発注を行うなんてところもあるかもしれませんが、しかし現場にいる担当者がまったく発注をしないということはないと思います。僕なんかは、まあ本部的な役割をするところもあってそこから入ってくる場合もありますが、大抵はすべての本を自分で発注しています。
発注のやり方にはかなりいろんな種類があります。出版社によって、このやり方の方が入ってきやすい、これは全然ダメみたいなことが結構あったりします。つい最近ですが、文芸書の担当にサブみたいな人がつくことになって、その人が今文芸書をメインでやっているんだけど、その人がどこにどういう風に発注したら入ってきやすいのか知りたいというのでリストアップしました。それでこんなことでも書いてみようかなと思ったわけです。
発注の仕方は、5つぐらいあると思います。
まず出版社に電話する方法。受注センターと呼ばれるところに電話することになります。基本的に全国すべての書店からの電話注文が、この受注センターというところでやり取りされることになります。
次はWEBで注文する方法。これはすべての出版社ではないですが、一部の出版社は書店注文用のHPを持っています。そこから注文を出すというのがあります。
書店に送られてくるFAXで発注するというのもあります。書店には常に、店の規模や売上ランクなどによって様々なFAXが送られてきます。全国どの書店にも送られてくるような普通のFAXでの発注だと他の発注方法とさほど大差はありませんが、特約店や上位店(呼び方は出版社によって異なる)などその出版社において上位の売上を占める店にのみ送られてくるFAXなんかで発注すると割と優先的に入荷してきます。
取次に発注するというやり方もあります。取次というのは書店と出版社の間にいて流通を行うところですが、その取次ももちろん在庫を持っているのでそこに発注します。
最後に、出版社の営業担当者に注文するというのがあります。基本的には、営業の人が店にきてくれて、その場で注文をするという形になります。もちろん、営業部に直接電話をしたり、あるいはFAXやメールでやり取りするという形もあります。
出版社によって、上記5つの発注方法の内、どれが入ってきやすいのか(特に新刊・話題作について)というのがかなり違うので感覚を掴むまでに苦労しました。もちろん基本的には、営業担当者に直接発注するのが一番確実です。個人的に知っている営業担当者が多いというのは強みになります。ただ僕は出版社の営業の人と仲良くなるというのがとてつもなく苦手で、営業の人が店に来てくれる場合には普通に大丈夫なんですけど、電話・FAX・メールなんかはすごく苦手です。だからどうしても他の方法に逃げてしまうことになります。
基本的にはどの出版社も、電話注文で受けたものはそれなりの優先順位で出しているように思います。やはり書店の発注の基本は電話だと思います。他の小売店がどうかは知りませんけど。
例外もいくつかあって、講談社なんかは珍しくWEBで注文したものが優先、という風に言っていました。僕の感覚では、WEBで発注したものが優先というのは講談社ぐらいではないかなと思います。また角川書店なんかは、どういう発注方法をしてもさほど大差がないと思っています。電話だろうがWEBだろうが営業担当に直接だろうが、すべて注文が同じシステムで処理されているようなので、どういう形で発注しても変わらないような気がします。また幻冬舎は、電話で発注したものはほとんど入ってきません。幻冬舎の場合は、上位店に優先して送られるFAXで発注するのが一番入ってきやすいです。
取次が在庫を持っているかどうかというのも出版社によって大分差があります。これは出版社のスタンスの問題です。どの書店にどれぐらい送るのかというのを、自分のところで管理したい出版社は取次に在庫があまりないし、取次任せにしたい出版社は取次に在庫があります。自分のところで管理したいというのの代表格は幻冬舎でしょうか。逆に取次に任せたいというのは光文社ですね。
WEBもいろいろパターンがあります。新刊・話題作はWEBでの注文を受け付けていないところとか、注文は受けるけど相当数を調整されるところとか、在庫なしという表示なのに注文を受け付けるところとか様々です。
担当者の最も重要な仕事の一つに、新刊・話題作を売場から切らさないというのがあります。売れる新刊や話題作にアンテナを張っていくのは当然ですが、さらにそれらを確保しないと話になりません。そういえば大型連休中は売れ筋の在庫が切れやすいですが、頑張ってやっていこうと思います。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、恐らく世界初ではないかなと思うんですけど、ディズニーランドを舞台にした小説です。しかも、オンステージ、つまりアトラクションがあるようなところではなく、バックステージ、つまりスタッフが裏方仕事をしているところが舞台になっています。
本書の存在を知った時一番初めに思ったことは、ディズニーランドの(というか運営会社であるオリエンタルランドの)許可みたいなものは取っているのかな、ということでした。権利関係には死ぬほどうるさいディズニーが、小説とはいえ裏側を暴露された小説なんかを認めているのだろうか、ということでした。しかし一方で、もしディズニー側が何も言ってきていないんだとすれば、本書は本当にフィクションで内容と実情は大幅にかけ離れていると考えればいいのかもしれません。しかしこんな邪推も出来ます。ディズニー側としては到底認められない小説だけど、しかしもし下手に圧力を掛けたりするとその内容が真実であると認めているようなもので余計に始末が悪い。だからここはそっとしておくしかない、というような判断です。さて真実はどうなんでしょうか。
主人公は、ディズニーランドの準社員として採用された後藤大輔、21歳。ずっとフリーターだったのだけど、ふと見つけたディズニー採用の派遣の仕事。夢を与える王国であるディズニーランドで自分も働きたい、あの夢の世界の住人になりたい、そう思い飛び込んだ。
しかし現実は厳しかった。というか、すべては後藤の勘違いだった。バックステージも夢の世界だと勘違いしていた後藤は、そこがまさに現実そのものであることをまざまざと見せつけられるのだ。
ヴィソーブという響きのいいところに配属になりどんな仕事をするのか期待が膨らんでいたのにそれが一気にしぼむ。勝手が分からず怒られる。無用な口を出して怒鳴られる。仕事のやりがいが感じられなくて嫌になる。社員と準社員の違いにキレそうになる…。
しかしそれでも後藤は日々の仕事を何とかこなしていた。嫌なことは多い。でも自分は今あの憧れのディズニーランドで働いているんだという気持ちが後藤を奮い立たせるのだ。
しかしそんな折、ディズニーランドを根底から揺るがす大事件が勃発し…。
というような話です。
千里眼シリーズなどで有名な人気作家が描くディズニーランド小説です。何で松岡圭祐がディズニーランドを舞台にした小説を書いたのかという疑問はあるけど、しかし相変わらず面白い作品を書く作家だなと思いました。
まず、どこまで本当の話なのかというのはものすごく気になります。ディズニーランドのバックステージなんて、そこで働く人間以外にはまず知りえないので、本書で描かれていることがどこまで本当なのかという確認する手立てはありません。でも割と真実が描かれているんじゃないかなぁと僕なんかは想像してしまいます。きっと現場は、本書で描かれているような人たちによって支えられてるんだろうと思います。
しかしバックステージの現実はなかなかすごいものがあります。社員と準社員の軋轢や、着ぐるみの権力争い、責任のなすりつけ合いなど、夢の世界とはかけ離れた出来事がどんどん展開されて行きます。もちろんこれは当たり前のことです。ディズニーランド(オリエンタルランド)だって普通の会社なわけで、その中では普通の会社と同じようなあれこれが展開されていくことになるでしょう。ただ普通の人は、バックステージも夢に満ち溢れているのではないか、という幻想をどうしても抱いてしまうでしょう。そこに夢なんかないと分かっていても見たくないというか。だから本書ではごく当たり前のことが描かれているのに意外という感想が浮かんでくるんです。
しかし、そういうバックステージの出来事を読んでも、そんなに夢が壊れるということはないような気がします。まあ僕がディズニーをもんのすごく好きというわけではないからかもしれないけど、でもこういう頑張りがあるからこそオンステージではあれだけすばらしい幻想の世界が展開されるのだなということが分かって、僕は結構いいじゃんとか思いました。そりゃあそうだよ、バックステージではいろいろあるさ、でも何があろうともオンステージでの幻想を守り切る、というその姿勢が素晴らしいじゃないか、と思いました。
しかし、中盤で勃発する、ディズニーランドの屋台骨を揺るがす大事件というのは凄かったですね。まさかこんな些細なことがそんな大騒動になりますか、というような展開でびっくりでした。上層部の人間の議論なんかは相当とんちんかんで面白いんだけど、焦っている部分の大半はアメリカのディズニー本社との契約に関することなんだけど、それでも夢を壊さないように全力を尽くさなくてはいけないという姿勢がここにも発揮されていてよかったと思います。
後藤が働き初めてからたった3日間の話で、その割にはトラブルだらけで不自然なんですけど、まあそういう部分には目をつむりましょう。たった3日間だけど、後藤はもう目覚ましいくらいに成長していきます。初めと終わりではもう別人と言っていいくらいです。そんな後藤の変化も面白いと思いました。
ディズニーランドに詳しいかどうかというのとは無関係に、誰が読んでも面白い小説だと思いました。別に夢が壊れるなんていうこともないでしょう。ミッキーマウスの中に人なんか入ってないと心の底から信じている人は読まない方がいいかもしれませんが。ちょっとPOPでもつけて売ってみようと思います。

松岡圭祐「ミッキーマウスの憂鬱」




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2013年の個人的ベストです。

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3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
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6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
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12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)