黒夜行

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永遠のジャック&ベティ(清水義範)

今日は返品の話を書こうかなと思います。
書店というのは、仕入れたものをほぼすべて返品できるという小売店としてはなかなか特殊な仕組みがあるんだけど、まあその必要性云々はどこかで書いたような気がするから省略。
問題は、どうしても最近返品が多くなってしまう、という点です。
基本的には売れなかったもの、あるいは売れそうにないと思ったものを返品するので、返品はなるべく少ない方がいい。そうでなくても、返品に掛かる人手も馬鹿にならないので、返品は減らすべきである。理屈はよく知らないんだけど、返品が増えると取次が困るらしい(出版社が困るのは当然だけど)。というわけで、出版・書店業界的に、返品は出来る限り減らすべきなのである。
しかし、売上が上がってくるにつれて、どうしても返品も増えていく。何故なら、パターン配本のランクが上がっていくからである。
パターン配本について説明をしましょう。出版社が書店に新刊を配本する際、どこに何冊送るのかということを各店ごとに決めていたらとてもじゃないけど大変な作業量になる。だから出版社は、各店にランクをつけ、そのランクに応じて新刊を配本するという仕組みを取っているのである。例えばAという新刊は、ランクが「1」の書店には50冊、ランクが「5」の書店には10冊、というような具合である。これがパターン配本です。
このパターン配本のランクというのは、基本的に年一回更新されることになっている。その更新は、前年度その出版社の本をどれだけ売ったか(新刊に限らず既刊も含めて)に依存することになる。なので、売上を上げれば上げるほど新刊の配本ランクは上がっていくことになる。
しかし、昔からその傾向はあったけど、ここ最近新刊がとにかく売れなくなってきている。また僕は、意識的に既刊を売ろうと思っているので(他の本屋が売っていないような本をたくさん売るというのが好きなのだ)、よりその傾向が強くなる。つまり、売上は上がるけど、それは既刊の売上が増えたことによる影響が大きく、新刊はビッグタイトルでもない限りそうそう売れないのである。
ここに返品が増えていく原因がある。新刊が売れているわけでもないので既刊が売れるので売上実績が上がる。そうなるとパターン配本のランクが上がる。売れない新刊がよりたくさん入ってくる。すると返品がどんどん増える、という仕組みである。
また返品が増える別の要因に、新レーベルの創刊がある。これは特に新書が厳しい。
ウチの店の新書売場はそこまで広くない。かなり限られたスペースで売場を作らなくてはいけない。もちろん、その売場で上げることのできる売上も限界がある。
しかし、新書は次から次へと創刊されるのである。売場が増えるわけでもなく、またそこで上げることの出来る売上にも限界があるのに、新創刊されることによって入荷数だけがどんどんと増えていく。新創刊される度に店の売上が増えてくれるならいいけど、そんなことはない。どのため返品が増えてしまうことになるのである。
もちろん返品が多くなってしまう原因には、僕がちゃんとした仕入れが出来ないという面ももちろんある。けど、上記のような構造的にそもそも返品が増えてしまう状況になっているというのも事実だと思います。
取次でも返品を減らそうといろいろやっているようです。詳しいことは知りませんが、僕のいる本屋が取引している取次では、コミックの新刊を適切に配本するみたいな仕組みを今実験中みたいです。成功しているのかどうかはよく分かりませんけど。ただ、返品が多い原因を書店だけに求めないで欲しいとも思います。新刊を作りすぎだったり、新レーベルを創刊しすぎだったり、あるいは新刊のパターン配本のシステムがもううまく行っていないという現実があったりと、出版社の側にも多分に問題はあると思います。
業界全体で返品を減らす取り組みをしなくてはいけないんでしょうが、どうしたもんでしょうね。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、8編の短編が収録された短編集です。

「永遠のジャック&ベティ」
かつて英語の教科書でおなじみだったジャックとベティが50歳で再会した。二人とも突然、英語訳のようなぎこちない会話に逆戻り。
「あなたはベティ・スミスですか」
「はい。私はベティ・スミスです」
というような奇妙な会話で、お互いの近況を語る。

「ワープロ爺さん」
75歳になって初めてワープロに挑戦。漢字にうまく変換できなかったり、漢字にするべきでないところが漢字になったりするような文章で、長男宛ての手紙を書く。

「冴子」
元旦から日記を書くことにした。初めは孫や息子夫婦の話や老人会など他愛もない話ばかりだったが、その内アイドルや銀行の女子行員などに興味があることを告白し始め、あまつさえ息子の嫁である冴子さんについても…。

「インパクトの瞬間」
「インパクトの瞬間、ヘッドは回転する」や「ジンクピリチオン配合」など、意味は分からないが聞いただけでひれ伏しざるおえないような言葉について、論理的に、そして非論理的に追究する。

「四畳半調理の拘泥」
古文みたいな文章で読みにくかったので飛ばした。

「ナサニエルとフローレッタ」
映画のパンフレットそのものという小説。解説や物語の説明から始まって、スタッフやキャストの紹介、撮影秘話など一本の映画についてのパンフレットのみで構成されている小説。

「大江戸花見侍」
テレビの時代劇1時間分を丸々小説にしたような作品。遠山の金さんみたいな人が出てくる感じ。時代ものはあんまり好きではないので流し読みした。

「栄光の一日」
定年退職してから20年書き溜めた短歌を息子が本にしてくれた。すると、息子の嫁の弟でテレビ局に勤めているという男が取材に来るという。老人はそれで舞い上がり、周囲にその話ばかりしてうんざりされる、という話。

という感じです。
本作はちょっと全体的に微妙だったなという感じがします。清水義範らしい作品ではありますけど、ちょっと面白くない作品が多かったです。
冒頭の「永遠のジャック&ベティ」は傑作です。これはマジで面白い。僕はこのジャックとベティの出てくる英語の教科書を使っていたわけではないんだけど、まさしく英語の教科書に載っているような堅苦しい会話文のみで会話が進んでいくという斬新な小説です。しかも、会話は英語の教科書風なのに、その会話の内容はなかなかヘビィなものばかりで、そのギャップが面白いです。

「あなたの息子は野球をしますか」
「いいえ、彼は野球をしません」
「彼はフットボールをしますか」
「いいえ、彼はしません」
「彼はピアノをひきますか」
「いいえ、ひきません」
「彼は何をしますか」
「彼は時々麻薬と強姦をします」
気まずい沈黙が流れた。

なんていうようなのばっかりです。この馬鹿馬鹿しさは素晴らしいものがあります。面白かったです。
ただ残りの作品はちょっとなぁというようなものが多かったです。
まだ面白いかなと思えたのは、「冴子」と「インパクトの瞬間」。「冴子」は、まともなんだかまともじゃないんだかうまく判断できない老人が秘密の日記を書くという話で、どんどんエロくなっていくところが面白い。妄想的なものも膨らんできて、何だかよく分からないことになる。
「インパクトの瞬間」は、最後までまったく意味不明な小説なんだけど、これだけ意味の分からない話を大真面目に書けるというのが凄いと思った。「遠赤外線」だの、「コクがあるのにキレがある」なんていう言葉だけで話を作ってしまうわけで、凄いなと思いました。
後の作品は、うーんという感じ。なんとも言えない。正直面白くはないなぁという感じでした。
というわけで、もし書店で見つけたら(なかなか棚に置いているところは少ないでしょうが)、冒頭の「永遠のジャック&ベティ」だけ立ち読みしてみてください。これはオススメ出来ます。残念ながら、買うほどの本ではないかな、という感じです。

追記)amazonでは本全体の評価も割と高いです。年配の人の方が受けがいいのかもしれない、と勝手に思ったりします。

清水義範「永遠のジャック&ベティ」




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2013年の個人的ベストです。

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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
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8位 更科功「化石の分子生物学
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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2011年の個人的ベストです
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1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
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12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
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7位 「自分探しと楽しさについて
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)