黒夜行

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100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影(春日真人)

今「エドウィン・マルハウス」という本を読んでいるんですけど、時間が掛かりそうだったんで先に本作をサクッと読んでみました。
その前に今日の本屋の話。今日はちょっと時間がないので短めに。早川文庫の新刊について書こうと思います。
つい先日発売された早川文庫の新刊なんですけど、文庫の大きさが変わってました。
早川文庫というのはもともと二種類の大きさの文庫があります。一つは、他の出版社の文庫と同じ「普通サイズ」、そしてもう一つは、epi文庫やクリスティー文庫と呼ばれるような「ちょっと大きなサイズ」です。
これまでは、SF文庫やミステリー文庫なんかは「普通サイズ」の大きさだったんですけど、つい先日出た分のSF文庫やミステリー文庫はちょっと大きさが違っていました。いつも通りカバーを掛けようとしても、どうしても入らなかったんです。
初めは、店で作っているカバーの中に不良品が混じっててカバーの方が小さいのかと思ったんですけど、カバーを何度変えてもダメ。ようやく、なるほどサイズが変わったんだなと理解できました。
ネットでちょっと調べたところによると、あるサイトに同じようなことが書かれていました。そのサイトの人は出版関係(恐らく書店員?)のようで、早川書房の営業の人からサイズが大きくなるとという話を聞いたとか。何でも、字が小さいという声がこれまであったからフォントを大きくしようとしたんだけど、そうするとページ数が増えてしまう。さてどうしようかと考えた時に、じゃあサイズを大きくすればいいじゃないか、という発想になったとか。
これまでは「ちょっと大きいサイズ」の文庫は、全文庫レーベルの中でも本当に一部で、早川epi文庫やクリスティー文庫などの早川文庫の一部と、後は徳間edge文庫みたいな名前の文庫ぐらい。どれも全体からすればシェアは恐ろしく低いので、そういう「ちょっと大きいサイズ」の文庫カバーはあまり用意しておかなくても問題はありませんでした。せいぜい10枚ほどストックがあれば余裕で対応出来てしまう程度でした。
でも早川文庫すべてのサイズが大きくなるんだとすれば(上記のサイトによれば、現在「普通サイズ」の大きさのものも、重版分からはサイズを大きくしていく、みたいなことが書いてある)、「ちょっと大きなサイズ」のカバーを結構用意しておかなくてはいけなくなりますね。それがめんどくさい。
あと文庫のサイズが縦に長くなると、従来のままの棚の高さだと取り出しにくくなるので棚を高くしなくてはいけないというめんどくささがあります。
まあ文庫のサイズが変わることでそこまで大きな影響があるわけではないんだけど、やっぱりちょっとめんどうなことは増えます。まあ大きくしたいというならすればいいと思うんだけど、これは成功するかなぁ。縦にサイズをデカくするより、ページ数を増やした方が明らかにいいと思うんだけど、どうだろう。結構不評という結果になりそうな気がするんだけど、どうだろうなぁ。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、「NHKスペシャル」という番組の、ポアンカレ予想について扱った回を書籍化したものです。数学についてさほど知識のあるわけではないスタッフが、世紀の難問と言われたポアンカレ予想やそれを解決したペレリマン博士を追うという内容です。
ポアンカレ予想は数学史上特に有名な問題ではありますが(フェルマーの最終定理やリーマン予想と同じくらいの知名度があると思う、たぶん)、しかし何故このポアンカレ予想だけで一つの番組になってしまうのかと言うと、それはポアンカレ予想を解決したペレリマン博士の存在が非常にセンセーショナルだったからです。
かつては普通に人と交流をし、明るい青年であったペレリマンは、しかしアメリカから故郷ロシアに戻るちょっと前頃からおかしくなっていきます。自分の研究を明かさず、ひたすらストイックに数学と向き合う。人と交流をせずに、かつ数学界からも距離を置くようになっていきました。
誰もその消息を知らなくなって久しいある日、数学界に一つの噂が駆け巡りました。インターネット上にポアンカレ予想の証明がある、というのです。これまでポアンカレ予想を解いたと言う話は聞いてきたので数学者も半信半疑でしたが、その証明を書いたのがペレリマンだと知り色めき立ちました。それほどペレリマンというのは信頼されている数学者だったのです。
最終的にペレリマンの証明は正しいことが確認され、四年に一度しか与えられない数学界のノーベル賞(ノーベル賞より価値があると言われますが)であるフィールズ賞を受賞します。
しかしペレリマンは、そのフィールズ賞の受賞を拒否します。長い歴史の中で、フィールズ賞を辞退した数学者はペレリマンを除いて一人もいません。このニュースは世界中を駆け巡り、一躍ペレリマンは超有名人になります。
しかしその後もペレリマンは数学の世界から距離を置き、現在はキノコ獲りをしながら日々を過ごしている、と言われています。ポアンカレ予想には1億円の懸賞金が掛けられていて、もちろんペレリマンにその権利があるのだけど、その受け取りも拒否したとか。ペレリマンの恩師が会いたいと言っても会おうとしないという頑なさで、誰もペレリマンに近づくことが出来ないでいます。
そんなドラマがあるからこそ、ポアンカレ予想だけで一つの番組が成り立つわけです。
本書は一応数学の本ではありますが、数学的な記述についてはかなり浅いです。なんて言うことを、数学の理解力の浅い僕に言われたくないでしょうが、本書はとにかく、ポアンカレ予想なんて一度も耳にしたことがないというような人向けに、ポアンカレ予想がどんなものなのか、そしてペレリマンは一体どういうようなことをしたのかというようなことを何となく分かった気にさせるようなそんな感じの作品です。どちらかと言えば、ペレリマンというのはどういう人なのかとか、あるいはポアンカレ予想というのはどういう歴史を持つ予想なのかというような背景的な部分がメインになる作品です。
しかしポアンカレ予想それ自体についての説明は非常に分かりやすかったです。以前「ポアンカレ予想」というタイトルの、数学者が書いた一般向けの本を読んだことがあるんですけど、結局ポアンカレ予想というのがどんな予想なのかという部分がきちんとは理解できませんでした。しかし本作を読めば大体分かります。
ポアンカレ予想は四次元の表面に関するものなんだけど、四次元というのは想像しにくいので三次元で考えることにしましょう。
地球を考えてみてください。地球は三次元の球です。であなたが原始人だとしましょう。原始人にはもちろんロケットなどのテクノロジーは何一つないわけで、地球の形について何か情報を得ることは不可能に思えます。
しかし、ロケットなんかのテクノロジーを持たない原始人でも、一本の長いロープ(と船)さえあれば地球の形を知ることが出来る、というのがポアンカレ予想なんです。
ここでまず、球である地球ではなく、南極から北極に掛けて穴の空いた地球を考えてみることにしましょう。原始人はまずロープの一端をある場所に結び、もう一端を船に載せて海へと出ます。そうして地球を一周してまた元の場所に戻ってくるとします。
さてここでロープの端っこを引っ張ってロープを回収できるかどうか考えてみましょう。今地球には南極から北極を貫く穴が空いていることに注意してください。ロープはその穴の中も通るのだから(地球を一周するというのが条件なので)、ロープの端っこを引っ張ってもロープを回収することが出来ないというのはすぐに分かると思います。
さて一方、僕らが住んでいる球形の地球の場合はどうでしょうか。同じく原始人がロープの一端をある場所に結び、地球を一周して元の場所に戻ってくるとしましょう。その場合、ロープの端っこを引っ張れば、ロープをすべて回収することが出来るというのは分かりますよね。
つまりこういうことです。
『地球を一周させたロープをすべて回収できるなら、地球は丸いと言えるだろう』
ポアンカレが考えたのは宇宙の形についてです。僕らは宇宙の外に出ることが出来ないから、外から見て宇宙の形を知ることは出来ない。地球にいる原始人と同じですね。でも、上記と同じように考えた時、同じようにロープを回収することが出来れば宇宙の形は丸いと言えるのではないか。
これが大雑把に言ったポアンカレ予想の概要です。この説明は非常に分かりやすかったので、前に別の本で読んだときにはよくわからなかった部分が非常にクリアになりました。
本書は、もちろんペレリマンを追うというのがメインの話ではありますが、それまでにポアンカレ予想に挑戦してきた様々な人々の話も書かれています。
その中で、これはすごいアプローチだなと思ったものを二つだけ。
一つは、高次元でのポアンカレ予想をまず解こうと考えた数学者。ポアンカレ予想は四次元の表面に関する予想なんだけど、まず五次元の表面、六次元の表面…という風に次元の高いポアンカレ予想を解こうという発想をしたわけです。しかもそれはものすごく簡単に証明できるんだそうです。まず高次元からという発想はすごいなと思いました。
そしてもう一つ。ポアンカレ予想では、「宇宙にロープを一周させてそのロープを回収出来れば宇宙は丸井と言えるはずだ」と言っているのだけど、ある数学者は、「じゃあもし宇宙が丸くないとしたらどんな形がありえるだろうか」という発想をしました。それが最終的に「幾何化予想」というものにまとめられ、宇宙はたとえどんな形であれ、それは必ず最大で八種類の断片から成り立っているはずだ、という主張をしました。この「幾何化予想」はポアンカレ予想を内包していて、幾何化予想が証明できればポアンカレ予想も証明できたことになる、ということが示されます。実際ペレリマンが証明したのがこの幾何化予想の方のようです。
すごいですよね。高次元という発想もすごいですけど、宇宙が丸いかどうかと聞かれているのに、じゃあ丸くなかったとしたらどんな形がありえるか、という発想はそうそう出来ないだろうと思います。実際この幾何化予想は、数学者に驚きをもって迎えられたそうです。この数学者はマジシャンと呼ばれるほど発想がすごいようです。
まあそんなわけで本書は、ポアンカレ予想の基本の基本という感じの本です。数学は全然得意じゃないけどポアンカレ予想はちょっと興味あるという人はまず本書を読みましょう。逆に、数学が得意だという人には物足りない作品だろうなと思います。僕は割と面白かったですけどね。ポアンカレ予想そのものの説明が非常に分かりやすくて助かりました。是非読んでみてください。

春日真人「100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影」





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2013年の個人的ベストです。

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10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
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6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

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1位 千早茜「からまる
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
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8位 笹本稜平「天空への回廊
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新書
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