黒夜行

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2005年のロケットボーイズ(五十嵐貴久)

今日は、昨日は大変だったんですよ、という話を書こうと思います。
何度も書いていますが、僕は文庫と新書の担当をしているんですが、昨日は人を殺せそうなほど、まあつまり殺人的に忙しかったわけなんです。
とにかく、新刊出すぎ。
全国の文庫担当の皆様、昨日はなかなか大変じゃなかったでしたか?まあもちろん、昨日よりもさらにたくさんの新刊が出たこともありましたが、昨日の新刊の量もなかなかのものだったと思います。
文春文庫・幻冬舎文庫・ちくま文庫・早川文庫辺りの新刊がまとめて入ってきましたからね。これは厳しい。他にも、ロマンス系の文庫だとかだいわ文庫だとか細かなものもついてきて、新刊を出すのに一苦労でした。発売日が重なるのはまあ多少仕方ないとは言え、もう少しなんとかならないものでしょうかね。日によって新刊の量がまったく違うので、それによって仕事量も激変します。今日辺りはたぶんそんなに新刊は多くないと思うんだけどなぁ。
あと困ったのが、新書の創刊です。またかよ!って感じです。最近いろんな出版社が新書レーベルに参入してきて、比較的新しいところだと、小学館101新書とか朝日新書とかPHPビジネス新書とかがあるんだけど、新しいラインナップが加わりましたよ。今度はアフタヌーン新書、だそうです。マンガ雑誌のアフタヌーン発、らしいんだけど、これ売れないと思うんですよね。昔2ちゃんねる新書っていうのが出てたけど(今もあるのかな?ウチにはもう入ってこないけど)、あれと似たような雰囲気を感じます。創刊のラインナップが、
「僕秩プレミアム! 」「なぜ、腐女子は男尊女卑なのか?  オタクの恋愛とセックス事情」「ヤリチン専門学校 ゼロ年代のモテ技術」「がっかり力」
という感じなんだけど、どうでしょう。僕は、売れないような気がします。というか僕は新書の売場をビジネスを中心にまとめているので、そこに置いても無理かなと。サブカル系の売場に置いたらまた違うかもしれませんけどね。
その創刊した新書に加えて、別の出版社の新書の新刊も大量にあって、これも出すのに一苦労でした。正直なところ、昨日はよく仕事が終わったな、という感じです(まあかなり残業しましたが。というか最近残業しないで仕事が終わることはないんですけどね)。
まあそりゃあ、入ってきたものは出すしかないわけで、まあそりゃあ頑張って出しますけど、あんなのはごくごくたまににして欲しいと思うのでした。
最近話題の「Ayuのデジデジ日記」はウチには入荷がありません。ネットのニュースで、初版分はすべて予約で埋まってしまったので、発売前に重版が決まった、というようなのを見た気がします。すごいですね。昨日もあるスタッフがお客さんに聞かれていたようですが、どこに行っても品切れだ、と言っていました。店頭にモノがないのに、渋谷でゲリライベントとかやってどうするんだ、とか思いましたけど。
あとたぶんそろそろ(今日かな?)、「スラムダンク「あれから10日後ー」完全版」が発売になります。さて売れますかどうか。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、一言で言ってしまえば高校生がキューブサットを作る、というストーリーです。
キューブサットとは何か。それは、10センチ四方の立方体で出来た人工衛星です。宇宙工学技術の底上げのために、このキューブサットを作るコンテストみたいなものが実際に開かれていて、大学や高校が参加しているんだそうです。
主人公は、文系なのにとある事情で工業高校に行かなくてはならなくなった高校生・梶屋信介(カジシン)。数学や物理はまったくダメ。授業も何を言ってるんだかさっぱり分からない。別の事情があって学校でも浮きまくっている状態で、毎日積もるほどの溜息をつきながら学校生活を送っている、そんな男です。
さてそんな彼が、これまたいろんな事情があってキューブサットを作らなくてはいけなくなった。キューブサットを作らないと退学、という事態に追い込まれたのだ。しかし、数学や物理の知識なんかカケラも持ち合わせていないカジシンに、んなこと出来るわけがない。
そこでやってくれる人間を探すことに奔走することになる。どうにかこうにか設計を引き受けてくれる人間を探し当て、そしてコンテストでもいい評価をもらったのだが、何の因果かカジシンはさらにキューブサット作りに励まなくてはいけない状況に追い込まれるのである。
何をやらせてもダメな幼馴染みのゴタンダ。同じく幼馴染みでパチスロのプロであるドラゴン、中学時代の元彼女の彩子と、その彩子に命令されるのが無上の喜びという変態大学生オーチャン、自分の能力に絶大な自信があって人を馬鹿にした尊大な態度しか取れないために嫌われている大先生、「ああ」と「おお」以外言葉を一切発しない翔さん、引退してはいるが町工場の一流技術者であるジジイと、現在は引きこもりの親父。引きこもった親父と離れてくらす母親。そんなトリッキーな面々で、すったもんだありながらキューブサット作りに励んでいくのだが…。
というような話です。
本書はキューブサットなんていう理系の素材が扱われていますが、難しいところなんてほぼありません。そもそも著者が文系の人みたいだし、主人公も数学や物理についての知識はゼロというのだから、なかなかすごい小説だと思います。結局主人公は将来、月に人類を送り込むというプロジェクトのリーダーになるんですが、しかしその時点でも数学や物理の知識は受付嬢よりないかもしれない、というレベル。なんで、キューブサットって何?物理とか数学とか全然分かんないんですけど、みたいな人でも全然問題なく楽しめる作品です。
本書を読んで僕は、大学時代にやっていた四大を思い出しました。四大とは何なのか?という部分については詳しく説明はしないけど、三か月以上に渡ってひたすら木を切ったりボンドでくっつけたりし続け、時には重いものを持って走り回り、しょっちゅう徹夜をし、金も吐き出し続けながら、皆で一つのものを作る、というような感じです。これを大学時代に計3回やりました。
本書で描かれるキューブサット作りと四大が非常に似てるなと感じたんですね。本書でも彼らは、別に誰のためになるでもなく、別に周囲に自慢できるわけでもないことのために、一日の休みもなく動き続け、金をかき集め続け、自分を限界まで追い込んでいくことになります。その気持ちが僕にはすごくよくわかる。僕らも四大で、周囲から見ればなんでこんなことを喜々としてやっているんだろう、というようなことをひたすらやり続けていました。もちろん、辛いこともたくさんありました。僕より辛い思いをした人もたくさんいたことでしょう。空中分解しそうになったこともあります。それでも皆、何だかんだ言って集まっては、大変な作業を日々こなしていくわけです。やっている当時は辛いこともたくさんあったでしょうが、今となっては本当にやってよかったと思います。別にその経験が何かに活かされているわけでもなんでもないんだけど、あの時あの空間にいられたことがよかった。僕の中ではずっと思い出深い記憶になることでしょう。もう今後僕の人生には、あれほど熱中できるような場は生まれないと思います。
本書でキューブサット作りに専念する面々は、正直言ってみんな変人で、しかもキューブサット作りに関わる部分で秀でている能力を持つ人間は本当にわずかです。キューブサット作りに関わる能力を持っているのは、筺体(外側の箱)を作る技術を持つジジイと、内部の設計を担当する大先生くらいなものでしょう(あと一人いるんだけど、まあこれは秘密です)。他の面々はさほどこれと言った能力を持っているわけではありません。彩子がパソコン関係に強いというくらいかな。
しかし、本書を読むと、この中の誰一人が欠けてもキューブサットは完成しなかっただろう、ロケットに載せて飛ばすことは出来なかっただろう、と断言できるんですね。何をやらせてもダメな男であるゴタンダでさえ、その存在価値を認められることになるわけです。
僕も大学時代にやってた四大では、まあ僕がいなくてもどうにでもなっただろうけど、でもいた方がよかったかなとは思っています。そんな風に思わせてくれる場所というのはそう多くはないと思うんで、よかったなと思います。
そもそも大学の研究室なんかが2年以上掛けてやることを三か月でやろうとしていたわけで(初めからそれを知っていたらやっていなかっただろうけど)、とにかくありとあらゆる部分で無茶があります。そういうキューブサットの技術的な側面の他にも、金銭面での問題も多数出てきます。こういう技術に関わらない部分に関してはカジシンが一手に引き受けてやっていくことになるんだけど、この金銭面の確保というのも本当に大変だったわけです。何せ、キューブサットをロケットに載せて飛ばすのに400万円掛かるんですからね。高校生に400万円揃えるのは、現実的には不可能。しかしそれを何とか潜り抜けて、彼らはプロジェクト完遂を目指すわけです。あらゆる部分で無茶苦茶だし、理系の視点で読んだらもしかしたらダメな部分も多々あるのかもしれないけど、面白い作品だと思います。
それにしても、これは五十嵐貴久の作品の感想では毎回書くんだけど、本当に上質なエンターテイメントを書く作家だなと思います。本書も、ただキューブサットを作るっていうだけの話なんだけど、ストーリーにきちんと波があるし、盛り上がる部分も多々ある。これはヤバいという場面をいくつも用意しては、それを解消するミラクルを発動させたり(しかも伏線がきちんとしているからトリッキーにはならない)、しかも何よりも、数学とか物理がまったく分からないという主人公の設定でここまでのストーリーを書けてしまうんだからすごいと思う。
本書は青春小説という分類でいいと思うんだけど、五十嵐貴久は本当にどんなタイプの小説でも一定の水準以上のものを書ける。デビュー作の「RIKA」はホラーだったし、「交渉人」はサスペンス、「誘拐」はミステリで、「TVJ」はちょっと無理がある分類かもだけど冒険、「年下の男の子」は恋愛だし、「1985年の軌跡」と本書は青春、で僕は読んでないけど「安政五年の大脱走」は時代ミステリと、本当に幅広い作品を書く。どれもずば抜けて面白いという作品にはならないけど、どんなジャンルも水準以上の作品だし、というかどれもエンターテイメントとしてものすごく面白いと思う。なかなかこういうオールラウンダーな作家というのはいないです。何でも書けるという意味で、非常に息の長い作家でいられるんじゃないかなと思ったりします。
本書は、毎日退屈だよ、生きてても楽しくないよ、変わらなきゃいけないかもしれないけどめんどくせぇよ、なんて思っている人に読んで欲しいですね。まあ本書を読んで何か変わるということはないかもしれないし、こんなん小説でしかありえねーよ、とか思うかもしれないけど、でもきっと彼らのことが羨ましくなるんじゃないかなと思います。僕も、また四大をやりたくなりました。正直、今やれって言われたらちょっと無理かもしれないけど。やっぱり学生の時の勢いみたいなものって必要ですよね。
まあそんなわけで、五十嵐貴久は非常に良質なエンターテイメントを書く作家です。本書に限らず、どの作品を読んでもまず外れることはないでしょう。本書は文庫で450ページを超える作品ですが、とにかく読みやすいのでスイスイ読めてしまうと思います。何か軽く読める小説を探している人にはうってつけです。是非読んでみてください。

五十嵐貴久「2005年のロケットボーイズ」




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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
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5位 笹本稜平「遺産
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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18位 中脇初枝「わたしを見つけて
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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1位 千早茜「からまる
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