黒夜行

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明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法(佐藤尚之)

さて本日二つ目。割と時間がなくなってきたのでなるべく急ぎ目に。
というわけで今回は、レジにやってくる親子連れの話を書こうかなと思います。
小学生とか中学生ぐらいの子供が母親なんかと一緒に買い物に来てる時、いつも気になってしまうやり取りがあります。でも思い返してみると、もしかしたら自分もそうだったのかもしれないなぁとも思うんですけど。
子供が買いたいものをレジに持って来て、母親は近くにいるという状況。僕が例えば「カバー掛けますか?」と子供に聞くと、子供はとりあえず母親の方を見るんです。そして母親が「カバー掛けるの?」と子供に聞く。子供は母親に向かって「うん、掛ける」と答える。そして母親が僕に向かって、「カバーお願いします」と伝えるわけです。
これは非常によくあるやり取りなんだけど、いつも気になってしまいます。僕としては子供に直接話しかけているつもりなんだけど、子供は僕に直接返事をくれない。一端母親に返事を迂回するという形で返すんです。
まあでも分からないでもないです。僕も昔は(というか今でもですが)引っ込み思案な人間だったんで、、同じようなシチュエーションだったら同じことをしていたかもしれません(あんまり覚えていないんですけど)。ただ自分が接客する側に回ってみると、やっぱり不思議なやり取りだよなぁという感じがします。まあ別に不都合があるわけではないんで全然問題ないんだけど、でも時々高校生ぐらいの人でも同じような光景を目にすることがあります。おいおい、高校生は自分でちゃんと返事しようよ、と突っ込みたくなります。
それとは対象的にものすごく元気に返事をしてくれる子供もいたりするんで、まあ面白いとは思いますね。あんまり子供は好きになれないんですけど。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、正確には覚えてないんですけど、どこかの書店チェーン(青山ブックセンターだったと思うんだけど忘れた)の2008年最も売れた新書として一時話題になった気がします。あ、違うかも。青山ブックセンターが、2008年最も面白い本(?)に選んだ、みたいな感じだったかな。まあちょっと忘れちゃったけど、そんな感じの作品です。
僕が本書を読もうと思ったきっかけは、広島で書店員をしている方の「尾道坂道書店事件簿」という作品で紹介されていたからです。その本の著者は、勤めている書店の社長から本書を勧められたそうで、以後折に触れて読み返しているということでした。
本書の著者は広告の世界でクリエイティブ・ディレクターをしている人です。広告の世界で有名な人なのかどうかは分かりませんが、でも「スラムダンク1億冊感謝キャンペーン」を手がけた人らしいんで、きっと有名な人なんでしょう。インターネットが始まった頃にホームページを作り、そこで書いていた文章が「さとなお」という名前で何冊か本になっているようです。
本書は、タイトルや著者の略歴なんかから「広告」についての話だと思われるでしょう。いや、まあその認識は基本的に間違ってはいないんですけど、もっと本質的な部分として「消費者」の話だと言った方が正確です。本書では、昔と比べていかに消費者が変化したのか、という部分に力点を置いて話を進めています。これまで広告というものと関わってきた経験を踏まえて、どれだけ大幅に消費者が変化したのか、ということを捉えています。そしてその中で、広告はいかに変わらなければいけないかという提言もしている、という感じです。
なので本書は、「消費者」に関わるすべての人にとって読む価値のある本でしょう。僕が書店で本を売っている人間ですが、僕も「消費者」と直接関わっている人間なのでなるほどと思わせる部分がたくさんありました。本書で読んだことを実際売場作りや接客なんかに活かせるかどうかはいろいろ考えないといけないでしょうが、「消費者が変わったのだから今までのやり方ではダメだ」ということはものすごくよく伝わりました。
本書はまず冒頭で、ラブレターの比喩を使って消費者がいかに変化したのか、という説明がされます。よくある比喩なんでしょうが、僕のように広告に関して無知な人間には分かりやすい説明でした。昔は書いたラブレターが相手に渡りやすかったし、他に楽しいことが少なかったのでラブレターは喜ばれたし、渡したラブレターをちゃんと読んでくれていた、つまりモテモテの状態だった。でも今は、ラブレターが届きにくくなったし、楽しいことがたくさんあってラブレターが届きにくくなったし、読んでくれたとしても口説き文句を信じてくれなくなったし、さらにラブレターを友達と仔細に検討し友達に判断を任せたりする、という風に変わってきています。広告はこの変化に対応できていますか?という問題提起。
じゃあどうすればいいのかという部分で著者は、コミュニケーション・デザインの重要さを説くことになります。消費者がどう変化したのか、という点と合わせて、このコミュニケーション・デザインの重要さというのも本書の柱になっています。
コミュニケーション・デザインというのは、簡単に言ってしまえば「消費者本位」ということです(たぶん。違ってたらごめんなさい)。これまでもマーケティングなどはしていただろうけど、しかしコミュニケーション・デザインとは元々の発想が違う。これまでは、「今度の広告のターゲットは○○だ」→「だからとりあえず○○についてのマーケティングやリサーチをしよう」という感じだったけど、コミュニケーション・デザインの場合違う。コミュニケーション・デザインの場合は、「この商品はどんな人が買いたがっているのか」「消費者はこの商品をどんな風に使うだろうか」「消費者は何をしたら喜んでくれるだろうか」というところから入るのだ。つまり、ラブレターを渡す相手である消費者について徹底的に研究をするのだ。そしてそれに合わせて広告をデザインする。
本書ではこんな例が載っていた。ある商品を高校生向けにアピールするという話で、じゃあ携帯をメインにしようということになった。いろんなリサーチ結果を見ても、高校生に最もアピールするのは携帯だというのは明白だったからだ。携帯を使った広告の準備を進めていた。
しかし他の企画のために高校生に話を聞く機会があった時、ついでに携帯についての質問も加えたところ、高校生が実は携帯をあまり使っていないということが分かったという。メインはメールで、あとは一部の無料コンテンツのみ。女子学生はともかく、男子学生はほとんど使っていないということが判明したという。一番接触するメディアを聞くとコンビニの店頭だということが判明したので、急遽やり直しを決めた、という話である。
これまでだったら、型どおりのマーケティングで通用したかもしれない。F1層M1層なんていう括りで通用したかもしれない。でももうそんな時代は終わった。ラブレターが届きにくくなったんだから、確実に届かせるために消費者についてとことんまで調べるのがまず先決。そこでの結果を元にどういう風にアピールするのかを決めていく。そういうようなやり方がコミュニケーション・デザインだ。
その後著者は、自らが手がけた「スラムダンク一億冊突破感謝キャンペーン」を例に、さらにコミュニケーションデザインの重要さについて説きます。このキャンペーンは確かに特殊な例かもしれないけど、でもコミュニケーション・デザインの重要さが広告の素人の僕にでも分かった気になれるようないい例だと思いました。
6章と7章は広告の技術的な話が多いので、僕のような広告の世界にいない人間にはちょっと興味の薄れる感じでしたが、しかし「コミュニケーション・デザインは既存のマスメディアをもう一度魅力的にする」という話は面白いと思いました。
最近、新聞広告やテレビCMがヤバイというような話がありますが、著者は「コミュニケーション・デザインが定着すれば」という前提つきではありますが、新聞やテレビが廃れていくことはないだろうと言っています。というのも、コミュニケーション・デザインというのは、消費者のリサーチを元に、それぞれのメディアのいい点を利用していくという手法だからだ。例えばあるリサーチの結果、ターゲットとなる消費者の多くがラジオを聞いているということが分かれば、その広告にはラジオが最も有効なメディアとなるわけです。消費者はいろんなメディアに分散してしまっているけど、逆に考えれば確実に伝えたい相手に伝えるための強力な手段となりえる。まだコミュニケーション・デザインというのが一般に広まってはいないけど、広まっていけば4大メディアと言われるものもそこまで衰退しないのではないか、というような話だと思います。
本書では、最大の広告はクチコミだという風に言っています。それは僕も書店の店頭で非常に強く実感します。確かにテレビで紹介された本がベストセラーになることは多いです。しかしそれは、テレビを直接見た人が買いに来ているだけでは説明できないぐらいの売上だったりするわけです。恐らくネットなんかで広まっているんだろうなと思ったりします。また最近では、書店発のベストセラーもたくさん生み出されているんだけど、恐らくそういうものもクチコミによって広がっているんだろうなという感じがします。
僕は最近、売場につけるPOPのフレーズはどんなものがいいんだろうと考えることがあります。本書を読んで、また重要なポイントを理解できたような気がします。どんなフレーズがいいのかという問題に直接まだ答えはないんですけど、とにかく、これを買うのはどんな人なのか、あるいはどんな人に買って欲しいのかというのをリアルにイメージしなくてはいけないんだろうなということは分かりました。まあ当り前のことなんだろうけど、本書を読んで再認識したという感じです。
書店では、POPやポスター、あるいは本の帯なんかが広告と捉えることが出来ると思います。でもそれだけじゃなくて、何をどこにどう並べるか、ということも一つの広告になりえるんだと思います。本書で著者は、どんなものでもメディアになりえる、というようなことを書いています。本屋でも、これまでなかった発想というのはきっとまだまだあるはずだと思います。こう売りたいからこうする、ではなく、消費者がこう望んでいるからこうする、ということをもっと洗練していけたらいいなと思います。
そんなわけで、初めの方でも書きましたが、本書は「消費者がいかに変化したのか」ということがメインの作品です。広告に関わる人だけではなく、消費者に関わるすべての人に読んで欲しい本です。本書をただ売場に置いてもビジネス書っぽい感じがしてしまうんで、上記のようなことをPOPに書いてアピールしようかなと思うんですけど、なかなかフレーズが決まらないですね。フレーズを考えている時間がそう取れないというところも問題ですが、まあ何とか頑張ってみようと思います。
広告の部分に関する記載については評価できませんが、消費者の変化という部分については非常に面白い作品だと思います。ぜひ読んでみてください。

佐藤尚之「明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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8位 「自閉症裁判
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10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)