黒夜行

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the TEAM(井上夢人)

今日は、最近あった出来事についていくつか書いてみようと思います。
まずはマガジンハウスの文庫の新刊から。マガジンハウスという出版社は、割と最近文庫レーベルを創刊したんだけど、つい最近佳川奈未という作家の新刊を一気に12点出しました。
佳川奈未というのは、「○○になる100の方法」とか「あなたの恋が叶う~」「運が良くなる人の~」みたいな感じの本をたくさん書いている人なんですけど、僕はとにかく、一気に12点も新刊を出してどうするんだ、と思うわけなんですね。出版社は頭が悪いのではないか、と思ってしまうんです。
確かに、一気に12点出して売場に置いてもらえれば、ものすごく目立つだろうし、売れるかもしれません。しかし問題は、『売場に置いてもらえれば』という部分なんです。確かに今僕は、この12点をすべて平積みにして置いています。しかし、この12点の平積みをいつまで続けられるかは正直言って分かりません。あまり売場が広くない書店はどこもそうでしょうが、常に売場が足りない状態で、売れていない本を長いこと置き続けるということはかなり難しいです。
もちろんこの佳川奈未の新刊が12点とも順調に売れていけばそのまま残す可能性はあります。しかし考えてもみてください。例えば佳川奈未のファンであるお客さんがお店に来たとして、売場に12点並んでいるのを見て、やったなんて思ってまとめて買うなんてことがあるでしょうか?僕はないと思うんですよね。最終的に全部買うつもりのお客さんでも(そんな人はかなり少数だと思うけど)、1冊か2冊ずつぐらい買っていくのではないかと思います。
そうなると、12点平積みにしているのに、売上の効率みたいなものが悪い気がするんです。12点置いてても、その内の1・2点ずつしか買ってもらえないんだから、売れていくスピードはどうしても遅くなります。そうなれば、1か月か2か月ぐらいして、そろそろ売場から外すしかないな、という判断になってしまうのではないかなと思います。
12点出す予定があるんだったら、一月に1冊出すようにすればよかったのに、と思います。お客さんだって、一月に本に使えるお金はそう多くないだろうし、だったらそれを一年に分散した方がいいと思うんです。確かに12点一気に出すというのは目立つかもしれないけど、長い目で見た場合、この戦略は失敗なんじゃないかなと僕は思うんですが、どうでしょうか?
別の話。とある出版社からなかなか不思議なFAXが来ました。文庫の新刊に付けている販売台を着払いで送ってくれ、というんです。
販売台というのはPOPみたいなもので、大抵直方体を斜めに切り取ったような形をしているものです。その上に本を置くと、POPをつけているように見えるようなものです。
出版社は、『都合により回収することになった』と書いていました。まあそれはいいです。どこが問題なのかは分からないけど、何か回収しなくてはいけない事情が出来たんでしょう。しかし、着払いにして送るというのが謎なんです。捨ててくれとか、使うのを止めてくれというのなら分かるんだけど、わざわざ着払いにして送らなければいけないほどの事態というのが全然想像できないんです。
今僕は、売場で使っていたものを止めにしてバックヤードに置いているんだけど、わざわざ着払いで送ることもないだろうと思って放置しています。ちゃんと送り返している書店ってあるのかなぁ。着払いだから金銭的な負担はないけど、何かめんどくさいからこのまま放っておこうかなと思うんだけど、どうしようかな。
別の話。最後はお客さんからの問い合わせです。
あるおばあさんから、「売場のこの辺に東京タワーについての文庫があったと思うんだけどね」と聞かれました。東京タワーが出来た当時からその傍で暮らしていたという女性のエッセイなんだそうです。ちょっと立ち読みしたことがあるようで、冒頭の文章も覚えていました。
しかし、それ以外のことをまったく覚えていないんです。タイトルの一部も著者名も表紙の色も分からない。「この辺で見た」と言われた場所にそれらしき文庫を置いた記憶があるかどうか懸命に思い返してみたんだけど、どうしてもそんな場所にそれらしいものを置いた記憶がない。結局その人が探していた本が何だったのかは分かりませんでした。
しかし僕がすごいなと思ったのは、冒頭の文章を暗唱できるのに、タイトルや他の情報についてはまったく覚えていないんだな、ということです。まあ僕も記憶力については人のことは言えませんが、人の記憶力というのは面白いものだなと思います。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、8編の短編が収録された連作短編集です。
まず全体の設定だけ書きます。
テレビの霊能番組で大活躍する、盲目の霊導師能城あや子。彼女は招霊木(オガタマノキ)を振りかざすことで霊視が出来るという触れ込みで、これがまた滅法当たる。霊視によって社会的な事件さえも解決に導いてしまうほどで、個別の相談は30分8万円なのに5か月待ちという盛況っぷり。能城あや子は凄腕の霊導師なのだ…。
というのは真っ赤な嘘。本当は能城あや子は霊の存在なんかこれっぽっちも信じていない。彼女のバックには、超強力な調査チームが控えていて、「マル対」と呼ぶ相談者についての情報を片っ端から洗い上げていくのだ。
弱き者を助けるために、今日も彼らはマル対の調査に勤しむ…。

「招霊 おがたま」
どこにでも不法侵入し情報を探し当てるプロである草壁賢一は、今回のマル対である桂山博史を尾行していた。奇妙なことが立て続けに起きていることを相談にやってくるらしいが、どうもおかしい。桂山は、能城あや子の霊視がインチキであると暴こうとしているジャーナリスト、稲野辺俊朗と会っていたのだ。
桂山の自宅に侵入すると、心霊写真が見つかった。なるほど、この心霊写真を使って能城あや子の霊視がインチキであることを暴く腹らしい。さらに調査を続けると、桂山のスケジュールには毎年必ずある日に特別な印がつけられていて…。

「金縛 かなしばり」
凄腕のハッカーである藍沢悠美は、あることがきっかけで才能が開花することになった。大学時代、知り合いにパソコンを使ってイタズラをしていた男を懲らしめてやったのだ。
今回の相談者は杵淵珠絵。毎晩金縛りに遭い、しかも起きると体にアザが出来ている。どうしたらいいのか、という相談だが、この相談で藍沢は思いも掛けない過去と出くわすことになる…。

「目隠鬼 めかくしおに」
能城あや子のマネージャーである鳴滝昇治は、相談者松原美智子の集録に立ち会っていた。恐らくスタッフは捨てネタだと判断するだろうが、鳴滝が一番手ごたえを感じている案件だ。
一か月前、草壁が調査を開始した時、松原美智子については何も出てこなかった。戸籍も住民票も何もないのだ。しかし、草壁がようやく子供と写った写真というとっかかりを掴み、藍沢がそれを膨らませ、福岡出身であることが分かった。他の調査もあって身動きの取れない二人の代わりに、今回は鳴滝が福岡に飛ぶことにしたのだが…。

「隠蓑 かくれみの」
フリーのジャーナリストである稲野辺俊朗は、何とかして能城あや子の化けの皮を暴きたいと思っていた。以前も桂山という男と組んで罠を仕掛けたのだけど、完全に返り討ちにあった。能城あや子本人に取材を申し込んでも断られるばかり。それなら、と5か月待って偽名で相談者として能城あや子と会うことにしたのだ。
稲野辺の正体はすぐバレたが、稲野辺にはネタがあった。以前能城あや子の相談を受けた品田澄子は、能城あや子の助言を受けて輪島に行ったが、そこで毒物の混入事件に遭い命を落としたのだ。能城あや子の託宣が完全に間違っていたことを示すことが出来るはずだった。
しかし能城あや子はなんと、その事件の真相について話し始めるではないか…。

「雨虎 あめふらし」
草壁は、次の収録のマル対である主婦の自宅にある地下のワインセラーにいた。ここで幽霊の声が聞こえるという。どうせ気のせいだろうと思っていたら、何と草壁にもその声が聞こえてしまったのである。これは徹底的に調べるしかない。
家中を調査して回ったが、音源になりそうなものは一向に見つからない。ふと思いついた。音源が家の中にあるとは限らないのではないか…。

「宿生木 やどりぎ」
次の相談者であったはずの恩田光枝が自殺したという話を草壁が拾ってきた。若い頃に一人子供を堕ろしていて、そのせいで一人息子がよくないことになっているのではないか。出来れば水子の霊の供養をして欲しい、という話だった。
一人息子を残して自殺してしまったことが腑に落ちなかった藍沢は、休みの日を利用してこの件を調べてみることにした。恩田は、薬の瓶詰めという内職をしていたが、それがどうも怪しい…。

「潮合 しおあい」
能城あや子のかつての仲間である五十嵐匡弘という男が現れた。かつて同じ劇団で経理をしていた男だ。五十嵐は、ビデオテープを3本持って金を要求してきた。そこには、偶然映ってしまった、マル対の自宅を捜索する草壁の姿が映っていたのだ。
鳴滝は、かつての劇団の頃のことを思い出しながら、能城あや子の危機に対処していくが…。

「陽炎 かげろう」
稲野辺俊朗は、能城あや子についてのとある内部告発を入手した。とあるビデオに、能城あや子と関わるかもしれない不法侵入者の男が映っていたのだ。これをネタに今度こそ能城あや子の正体を暴くことが出来るかもしれない。
さっそく稲野辺は罠を張り、能城あや子を追い詰めるべく策を練るのだが…。

というような話です。
非常に面白い作品でした。短編集として相当レベルが高いです。井上夢人の作品を読むのは久し振りですが、やはり実力の高い作家だなと改めて思いました。
全体の構成が、京極夏彦の「巷説百物語」シリーズに近いなと思いました。「巷説百物語」シリーズというのはこんなシリーズです。あるトラブルが起こる。そこには謎もあるんだけど、その謎はストーリーの半ばで分かる。しかし、その状況をいかにして解決に導けばいいのかが分からない。そこで主人公たちは、あやかしの仕業ということにしてにっちもさっちもいかなくなってしまった状況を丸く収めるという話です。
本作もかなり似ています。まず相談者がいる。相談者がどんな謎を抱えているのかはすぐに明かされるし、他にもいろんな情報をどんどん吸い上げていく。それらを元にして、霊視によって視えたということにして、どうしようもなくなってしまった状況を解決に導くのである。
どの話も、基本的な構造は同じはずなのに、非常にバラエティに富んでいてうまいと思いました。最終的には能城あや子の霊視によって解決するという構造はほとんど同じなんだけど(違うものもあるけど)、それぞれ展開がかなり違うんですね。下手な作家が本作と同じような作品を書いた場合、扱っているネタだけが違って展開はほとんど一緒みたいな感じになりがちだと思うんだけど、それをうまく回避しています。さすがベテラン。うまいものです。
インチキ霊導師という胡散臭い人間をメインに据えているのに、もちろん作品は全然胡散臭くない。もちろんそれは、霊視なんて嘘っぱちだとチームの誰もが思っているからで、でもその霊視によって救われる人がいるならという思いで皆必死に頑張っているのだ。
草壁や藍沢のやっていることは明らかに犯罪である。草壁は不法侵入を繰り返しているし、藍沢はハッカーまがいのことをやりまくっている。しかしそれによって誰に迷惑がかかっているかというと、被害者はほとんどいない。彼らは、悪人に手を下す時には卑劣になるが、それ以外の時にはただ情報収集のために犯罪を犯している。しかも、その情報収集によって人助けをしているのだ。稲野辺のような、インチキを暴こうとする人間もいるが、稲野辺の奥さんの言葉がいいと思った。「どこに被害者がいるの?」
どの話も、ストーリーも見事でした。些細に思えるような相談内容から驚くような真実を引っ張り出して来てしまう辺りはなかなか見事なものでした。最後の方では能城あや子の過去が描かれたり、またラスト潔かったりする終わらせ方で、全体としてレベルの高い作品でした。視点人物が草壁→藍沢→鳴沢→稲野辺という一巡が二度繰り返されるという構成も綺麗でよかったです。
どの話もかなり好きなんですけど、一番よかったのは「目隠鬼」でしょうか。これはラストかなりいい展開になります。調査対象者にあまりにも情報がなさ過ぎて難航するというのもいいですね。「招霊」も、一番初めに読者をグッと掴むなかなかいい展開の話だったなと思います。
かなりレベルの高い作品だと思います。それでいて、ものすごくスラスラ軽く読める作品でもあります。短編集なんで、少しずつ読み進めてもいいかもしれません。通勤読書なんかには最適かもしれません。是非読んでみてください。

井上夢人「the TEAM」




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3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

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6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
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13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
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9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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