黒夜行

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スメラギの国(朱川湊人)

今日は時間がとってもないので、本屋の話はほんの少しだけ。
昨日、かなり年配のサラリーマンに見えるおじさんが、「ガテン」という肉体労働系の求職雑誌を買っていきました。そんなにガタイのいい人には見えなかったし、そもそも普通に仕事がありそうな人だったけど、やっぱりこの不況でリストラされちゃったりしたのかなとか思いました。ここ最近、「ガテン」って雑誌に限らず、割と年配のサラリーマンみたいな人が求職雑誌を買っていくことがよくあるので、やっぱり大変なんだろうなと思います。
そんなわけでそろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、基本的に短編作家だった朱川湊人の、久しぶりの長編です。確か、デビュー作に近い、ホラー小説大賞の佳作かなんかを獲った作品が長編だったような気がするけど、それ以外長編ってほとんどなかったと思います。
普通のサラリーマンである香坂志郎は、会社の寮を出て、F市神音町のアパートに引っ越すことになった。結婚を考えている麗子と将来一緒に住むことを考えて選んだ部屋だ。これまで辛く厳しい人生を歩んできただけに、ようやく訪れた幸福の予感に、志郎だけでなく麗子も喜びを隠せない。
超大金持ちの大家さんに、隣の空き地にはあんまり近寄らないでくださいねと言われた以外、不安らしい不安は何もない生活が始まった。ふらりとやってきた猫を飼うことにしてみたり、休日に麗子と過ごしたりと順風満帆。結婚祝いと称して、会社の同僚が安く車を譲ってくれることにもなり、幸せは続いた。
しかし、不運な事故を境に、志郎の生活は一変することになり…。
志郎と同じ会社の上司である村上は、失意の底にいた。交通事故で息子を亡くし、一時精神を病んでいた。復職したものの、以前のようには働くことが出来ない。今は、息子との約束を叶えてやりながら復讐を考える日々だったが…。
チョコは、古い猫だった自分のことをほとんど覚えていない。オウさまに会って、あの歌を聞いてから、自分は新しい猫になった。頭の上にこんなに広い空が広がっていることも知ったし、仲間と会話だって交わせる。何だって出来る気になってくる。
アイスは僕のことをまだ子供だって思ってるみたいで何かとうるさいことを言うんだけど、一人で出歩いてみたいと思う。何とかアイスを説き伏せて外をぶらぶら一人で歩いていると、アイスからも聞いていた『テキ』の姿を目にすることになり…。
というような話です。
全体的に朱川湊人の雰囲気が出ているし、ストーリーも面白いと思うんだけど、やっぱり短編の方がいいかもと思ってしまいました。本作がダメなんてことは全然ないし、十分面白いんだけど、ちょっと冗長な感じはしました。もしかしたら、短い話でピリッとしたストーリーを読ませるというイメージがかなり強くこびりついているからかもしれないけど、ちょっと長いなぁという感じがしました。
ストーリーの展開のさせ方は、さすがに上手いです。志郎と麗子の日常を描きながら、さりげなく後々重要になる要素を盛り込んでいく。それに、本作は実際には相当ありえない設定なんだけど、朱川湊人の緻密な描写のお陰で、もしかしたらこういうことだってありえるかもしれない、と思わせるところがありました。そもそも猫って、犬なんかより全然得体のしれないようなところがあるし、何やってるか分からないところもあるから、もしかしたら本作に出てくるような<新しい猫>なんてのがいて、一つ間違えれば自分も志郎みたいになっちゃうんじゃないか、なんて思わされますね。そういう、読者を引き込んでいくストーリー展開はさすがだなと思います。
また、志郎が段々と追い詰められていくその過程を描くところなんかはなかなか凄いです。確かに、こんなことされたら心が壊れちゃうだろうし、朱川湊人はそんな志郎を丁寧に描いていくんですね。多少冗長に感じられるところもないではないんだけど、その丁寧な描写が恐怖を誘う感じもします。
志郎と麗子の関係の描き方も絶妙だし、また頻繁には出てこないものの、会社の同僚である仲本や、大学時代の友人で作家の佐久間なんていうキャラクターも、出番が少ないくせに妙に存在感があっていいですね。交通事故で息子を失った村上の描写が、全体に対して非常に少なかったというのがアンバランスな感じもするけど、ラスト村上のストーリーの展開はなかなかよかったと思います。
また本作では、猫視点の描写っていうのも結構出てくるんだけど、この部分も結構面白かったりします。特に絶妙なのが、ジンゴローです。ジンゴローは色んなところにちょいちょい顔を出すんだけど、何者なのかイマイチよくわからない存在で、デブで不細工と言われるんだけど愛嬌のある猫です。本作で一番存在感のある猫はスメラギとルイだと思うけど、その次がジンゴローかもしれないですね。なかなかいいキャラクターだと思います。
僕としてはどちらかと言えば短編の方が好きかもと思ったりしますが、本作も朱川湊人っぽさが全開に出ている良作だと思います。猫vs人間というありえないけどありえそうなストーリー展開はなかなか面白いです。読んでみてください。

朱川湊人「スメラギの国」





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Comment

[3452]

こんばんは。
昨夜は凄い風でしたね。安眠妨害、絶対反対!です(笑)。築年数が長い我が家は震えっぱなしでした。おぉ、怖~~い!
ところで、やっと通りすがりさんと読んだ本が重なりましたが、残念なことにもう私の記憶には残っていません(泣)。しかも、読書メモもありません。猫が出てくる話でしたっけ? 確か王女猫? その程度しか無理です(泣)。ただ朱川さんらしいホラーで、ファンタジー要素も…という作品だったと思います。
話は変わりますが、今日私は朱川さんの『本日、サービスデー』を読みました。短編集ですが、なかなか好かったですよ。シリアスな内容ではなく、ちょっと笑える話が多いですが、登場する幽霊も「押入のちよ」風の可愛い者です。脱力系の作品ですが、充分楽しめました。重い作品を読まれた後に、いかがでしょうか?
それからもう一冊、伊集院さんの新刊『少年譜』も読みました。こちらはちょっと渋めの短編集です。お若い方には、余りお薦めしません(笑)。
『悼む人』と『ボックス』を読むと、本屋大賞ノミネート作品を全部クリアできますので、もう一息頑張りたいと思います。まずは『悼む人』から始めます。『包帯クラブ』は、ちょっとダメでしたので、こちらに期待したいと思います。
春の花も咲き始め、気配だけは春ですが、なかなかのどかな天気にはなりませんね(泣)。もうしばらく辛抱しましょう!

[3453]

こんばんわです。
昨日はほんとすごかったです。金曜から土曜にかけては、遅番→朝番という流れになるので、風の強い深夜に家に帰り、さらにまた風の強い早朝バイトに出かけて行きました。鉢植えとは普通に飛ばされてましたからねぇ。
猫が出てくる話ですね。そうです、女王みたいな猫が出てきます。人間とバトルすることになるって感じですね。朱川さんらしい作品ではありましたけど、やっぱりちょっと物足りない感じがしました。
なるほど、「本日、サービスデー」は知りませんでした。でも最近、ホントに何となくなんですけど、短編集にあんまり手が伸びなくなりました。嫌いになったなんてわけでもないんですけどね。バイト先に、短編集は基本的に読まない、という人がいますが、気持ちが少しだけ分かるかもです。
伊集院さんというと、「静」の方ですよね?間違っても「光」の方じゃないですよね(笑)。伊集院静と言えば「羊の目」という作品がちょっと気にはなっています。
「包帯クラブ」は若い人に早く届けなくてはいけないと思って「悼む人」を中断して書いた、なんてコメントが帯に載っていましたよ。「悼む人」の方は大丈夫だろうと信じて読みましょう。
もうすぐ桜が咲く季節なんですよね。なのにこの寒さはちょっと異常ですね。はやく暖かくなって欲しいものです。体調には気をつけていきましょう!

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
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10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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6位 「バタス 刑務所の掟
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8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)