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船に乗れ!Ⅰ合奏と協奏(藤谷治)

さて、というわけで本日二つ目。
前回は、取次を通さない特殊な出版社の話を書きましたけど、今回は別の意味で特殊な出版社について書こうと思います。
それは、書店からは注文できない出版社、ということです。<注文できない>というのは語弊があるかもしれないから正確に書くと、「特殊な条件を受け入れなくては注文できない出版社」ということになります。で、そういう出版社は大抵、「お客さん自身が注文する」という形を取っています。
これは客注品によくある話です。お客さんがある本を注文したいと言って書店にやってくる。書店で受付をして、さて出版社に電話して注文するぞとなるんだけど、出版社の方から「特殊な事情を受け入れないと注文できない」と言われ、「お客様ご自身で注文していただく形になります」という風に伝えることになります。そう頻繁にあるわけではありませんが、たまに起こる例外とは言い切れないくらいの頻度ではあります。
さてでは、その「特殊な事情」というのはどういうものがあるんでしょうか。
一番多いのは、送料が掛かるというものでしょうか。つまり、書店からでも注文しようと思えば注文は出来るけど、それには送料が発生してしまう。送料が発生してしまうことをお客さんに了承してもらい、会計時に送料も一緒に支払う、なんていうやり方をすれば書店からでも注文は出来なくないけど、それならお客さんが自分で頼んで自宅に届けてもらう方がいいだろうということでお客さんに直接頼んでもらうことになります。
また、ある一定の冊数以上からの発注でないと受け付けないというものもあります。これは、「日経ビジネス」など日経が出している雑誌なんかによくあるらしいです。僕は昔は、「日経ビジネス」は書店扱いがない雑誌なんだと思っていたんですけど、実際は確か5冊以上からでないと注文を受け付けないとかなんとかっていう話を聞いたことがあります(正確かどうか分かりません)。「日経ビジネスアソシエ」や「日経ウーマン」など通常通りの取引条件で普通に入ってくる雑誌はウチの店の店頭にも普通にありますけど、「日経ビジネス」のような雑誌の場合店頭にも置いてないし、客注も受けてないです。ウチに入ってきていない日経の雑誌は、お客さんから直接出版社に注文してもらう形にしています。
またそれとほとんど同じようなものですが、ある一定以上の金額を満たさないと発注できないという出版社もあります。これは、一つ前の記事で書いた取次を通さない出版社である冬水社や、「アルネ」というバーコードもついてないようなちょっと変わった雑誌を出してる出版社なんかが該当します。どちらも新刊が入ってくるタイミングで客注品を注文すれば新刊と一緒に送られては来ますが、冬水社のコミックは20日の新刊発売の便に間に合うように注文できなければ入荷が一か月先になってしまうし、「アルネ」の場合毎月出ている雑誌ではないのでさらに入荷が先になってしまう可能性が高いです。冬水社の場合事情を説明して注文を受ける場合もありますが、「アルネ」の場合はちょっと難しいので注文を受け付けないようにしています。
冬水社と違って、同じく取次を通さない出版社であるミシマ社やディスカヴァー21は、一冊の客注品でも出庫してくれるんです。冬水社は送料を節約するために規定の金額以上の発注を最低条件にしているんだと思うんだけど、ミシマ社やディスカヴァー21が出来ているのだから何とかならないものかなと思ったりします。
あと、これは最近あったんですけど、ちょっと不思議な雑誌がありました。お客さんから「GALAC」という雑誌を注文してほしいと言われたんですけど、出版社からの回答はこうでした。
「書店への初回配本のみでそれ以降は書店からの注文は受けていないのでお客様が直接注文してください」
ウチの店には入ってないけど、一応通常書店で扱っている雑誌らしいです。でも初回配本のみでそれ以降の注文を受け付けないっていうのはよく意味が分からないなぁ、と思いました。
まあそんなわけで、出版社も本当にいろいろでよく分かりません。書店で注文したのに、最終的にお客さんから注文してくださいみたいな風に言われてもお許しくださいませ。
そろそろ内容に入ろうと思います。
この本は、ちょっと前の書いたように、出版社の営業の人がくれました。ゲラではなくて普通に売っている形の本です(献本といいます)。何でくれたのかは、よくわかりませんが、もらえるものはもらっておきましょう。
物語の形式としては、大人になった主人公が、自らの中学・高校時代のことを思い返して回想しているという感じです。
主人公である津島(僕)は、親族のほとんどが音楽に関わっているという一家に生まれた。祖父は音楽科もあるとある高校の学長で、他にも親族の中には有名な人間がごろごろいる、いわゆる上流階級である。
中学の頃から「共産党宣言」だのツルゲーネフの「はつ恋」だのを読んで分かった気になっていた僕は、自分以外の人間を見下して馬鹿にしているちょっと気取った少年だった。
そんな少年が、ちょっとした挫折の後に、祖父が学長をやっている高校に入学して以降の話がメインになる。
中学の頃チェロを選択した僕は、入学の時点で校内トップクラスのチェリストだった。他にも、フルートの伊藤、バイオリンの南など一年なのにうまいと言われているやつは結構いた。
学校の授業やレッスンは、時に厳しくもあり、時に楽しみでもあり、メインで勉強することが音楽であるということを除けば、さほど普通の高校生活と変わるところはない。
そんな中で、子供の頃から無駄に育ってきた自尊心や、あるいは経験のなさからくる不安なんかをうまくやり過ごしながら、次第に僕はある一人の少女に惹かれていくことになる。バイオリンの南のことが気になって仕方ないんだけど、自分から話しかけるなんてことは出来るわけがない…。
みたいな話です。なんか内容紹介が難しいです。
本作は、読み始めがかなりきつかったです。初めの50ページくらいは全然読み進められなくて、大変でした。主人公の回想というスタイルだからか、とにかく主人公の思考がぐるぐるしているような文章で面白くないんですよ。ウダウダしている主人公なんで、ちょっとイライラしてしまったりもするし。
高校に入ってからちょっとした辺りからストーリーが面白くなってくると僕は思いました。人づきあいが決してうまいとは言えない主人公ですが、それでも周りにチラホラと友達が出来てきます。そもそも主人公が入った高校というのが女子高で、男子はほんの僅かしかいません。その僅かな男子が結束しているというのもあるし、女子とも多少は関わりはあったりという感じになるので、話が面白くなっていきます。
ありきたりな高校生活の話が続くことになりますが、退屈ということはありません。音楽学校という特殊さはなかなか新鮮だったり、オーケストラのレッスンの厳しさに同情したり、逆に倫理社会の授業は面白くてこの授業なら受けてみたいなぁとか思ったりしました。
そんな中で、南との関係にもいろんな変化が起こってくることになります。南に起ったトラブルから、そこからどうやって親密になっていくのかという過程は僕にはなかなか自然に思えるし、恋愛をまったくしたことがなかった主人公の初々しさや、そもそも高校生の恋愛が初々しいことも相まって、結構面白く読みました。最後の方で出てくる、祖父の隠れたメッセージみたいな場面はかなり好きです。
本作は、JIVEという出版社が出していて、この出版社が出している本の傾向としては、中高生やOLなんかがメインターゲットになりそうな作品が多いです。ただ本作は、どちらかと言うともう少し年配寄りの作品かもしれないと思いました。一応高校生の物語ではあるけれども、ここで描かれているのは携帯電話がないような時代の高校生のことで、正直今の中高生が読んで共感できるのかというと微妙なところがあると思いました。冒頭で何だか小難しい話が出てくるので、そこで読むのを止めてしまう人もいるのではないかなと思います。逆に、ここで描かれているのと同じような時期に高校生だった世代の人だったら、懐かしさから共感できる作品なんじゃないかなと思います。僕が中学・高校の頃は、周りは結構携帯電話を持ってたんで、僕よりももう少し上の世代だとちょうどいいような気がします。
読んでてちょっと苦労したのが、音楽に関する専門的な記述です。著者が芸大を出ているということもあるんだろうけど、かなり描写が専門的です。もちろん理解しようとなんてしないで読んだけど、そこは結構難点かなと思いました。でもやぱりそれによって雰囲気は出ていると思うんで、必要だとは思いますけど。
全体としてはなかなか悪くない作品だったなと思います。一応「Ⅰ」とあるので続編が出るんでしょうけど、読むかどうかはまた出てから考えます。

藤谷治「船に乗れ!Ⅰ合奏と協奏」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
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12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)