黒夜行

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みじかい眠りにつくまえにⅡ(金原瑞人選)

今回はいいタイミングなので、ゲラについて書こうと思います。
ゲラという言葉はまあ一般的ではないでしょう。僕も本屋で働いてしばらくするまでたぶん知らなかったと思います。書店で働いていても、ほとんど関わらないですからね。
ゲラというのは、出版社が本を製本する前に、誤字脱字をチェックしたりするために読む用のものです。ただA4サイズのプリンター用紙が重なっているだけの代物です。
元々このゲラというのは、出版社の人しか読んでいなかったはずです。出版社が製本する前のチェックのためという本来の機能しか持っていなかったはずです。
ただ最近の書店員は(と言っても、一部の有名どころの書店員に限られますが)、出版社から次から次へとゲラが送られてくるんだそうです。先日書店員が集まる場で紀伊国屋書店の方と話をする機会があったんですけど、その方もゲラばっかり読んでると言っていました。
これは、本屋のあり方が昔とは大きく変わったということを示している一つの例だと僕は思います。
昔の本屋というのは、新刊さえきっちりと置いていれば売上はきちんと取れたんだそうです。どこの書店も似たりよったりだっただろうけど、そもそも交通機関がそこまで発達してなくて遠くの本屋にちょっと出かけるなんてことはなかっただろうし、インターネットがないだろうから他の本屋がどうかなんて情報が回ることもない。そんな世界が狭い時代には、それでよかったのかもしれません。
ただ最近ではそれは大分変ってきています。とにかく、新刊が売れない売れない。アホみたいな話ですが、昔と比べたら新刊の点数は増えてるんです。正確なデータではないかもしれないけど、ある時点と比べると新刊点数が二倍になったとか、そんなのをどこかで読んだような気もします。とにかく、うんざりするほど新刊は出るくせに基本的に売れないというのが今の書店の現状です。
ただ漫然と新刊を並べてたんではそもそも売上が立たないのに、さらに新刊点数が多いんだからあまり売れそうにないものを絞って売れそうなものを大きく展開するという流れになっていくのはまあ当然かもしれません。
そうなると、何を基準にそれを選ぶのかということになって、それで出版社はどこも書店員にゲラを送るようになったんだろうなと思います。発売前に読ませて、よかったら大きく展開してくださいね、ということだ。
大きな書店の書店員にしかゲラがいかないのは、とにかくベストセラーを牽引するのはどうしても大きな書店だという現実があります。もちろん、小さなお店だって面白い本を発掘して売ることは出来るけど、それを全国的な規模に波及させるにはどうしてもメジャー級の書店の牽引が必要になってきます。ゲラだってそんなに刷ってるわけにもいかないので、畢竟大きな書店の限られた書店員の元に渡っていくことになるわけです。
僕はこれまで、献本も含めれば7冊もらったことがあります。献本というのは、書店で売っている形の完成された本を出版社がくれるというものです。あとはまた別に、仮綴じ本みたいなものもあります。これは、普通の本みたいな形になっているけどきちんと製本されているわけではないという、やはりお試し読み用のものです。昔、本多孝好の「正義のミカタ」が出る前に、書店にその仮綴じ本が配られたのを覚えています。
話を戻すと、その7冊の内訳は、ゲラが4冊と献本が3冊です。ゲラは、今回の「みじかい眠りにつくまえにⅡ」と、蒼井上鷹「俺が俺に殺されて」、雫井脩介「犯罪小説家」、池田浩明「さおだけ屋はなぜ潰れたのか?」、献本は、エリザベス・コストヴァ「ヒストリアン」、田中真知「孤独な鳥はやさしくうたう」、藤谷治「船に乗れ!Ⅰ」となります。こうやって覚えていられるぐらいだから少ないものですね。何か忘れてたら申し訳ないけど…。
この内、「ヒストリアン」と「さおあけ屋はなぜ潰れたのか?」は、書店員としてではなく、黒夜行のブロガーとしてもらいました。ブログを通じて連絡があったものですね。それ以外のものについては、営業の人がくれたり、いろいろちょっとした関係があってもらったりというような感じです。
基本的にゲラというのは、文芸書が発売になる前に出回るものです。というか、判型はどうでもいいんだけど、初めて本になる時(つまり文庫化とかではない時)に出回るわけで、それはやっぱり文芸書が多いです。僕は文芸書の担当ではないので、そもそもゲラなんか読んでも仕方ないんですよね。それでも、もらえるものはもらっておきましょうといつも思っています。ゲラはとっても読みにくいですけど、なんか嬉しい気分になるので好きだったりします。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、翻訳家である金原瑞人が選んだアンソロジーです。この前この出版社の営業の方が初めてきまして、で僕は「みじかい眠りにつく前にⅠ」を結構売ってたんです。だからⅡのゲラをくれたというわけなんです。ついでに「船に乗れ!Ⅰ」って本もくれましたけど。これは近いうちに読む予定です。
内容紹介は僕が読んだ順(つまりゲラに乗っている順番)で書きますが、それが製本された時どうなっているかは知りません。

あさのあつこ「真菜の来た夏」
母親が入院したとかで、従姉妹の真菜がひと夏うちにいることになった。無愛想でつんけんしているよくわからない奴だったけど、その内笑うようになった。ある日飛び出して行った真菜を追いかけていくと…。

山尾悠子「月触」
従姉妹からの電話で、その一人娘を一日預かることになった。一人でやってきた娘を誰かに押し付けようと女友達に片っ端から電話をするもまったく捕まらず。仕方なく京都の街をうろうろすることになるのだが…。

森絵都「フェスティバル」
有名な予言者が、明日世界は滅亡すると予言して、それが学校で話題になっている、というショートショート。

石井睦美「連帯のメールを送る」
隣の隣に住んでいるおばさんが何だかいつもと違った。別に俺には関係ないけど。母親がまた夕飯のお金を置いていかなくてむすっとしていると、そのおばさんがおでんを持ってやってきて…。

大島真寿美「げた箱は魔法のクスリ」
体育の時間の前になるとどうしてもお腹が痛くなる。神経性のものらしく、最近自分が飲んでいたのが偽薬だということを知ってショックを受ける。
近所の友人に、げた箱は魔法のクスリだからねと教えてもらって、ある日お腹が痛くなったら時げた箱に行ったけど…。

加納朋子「白いタンポポ」
夏休みの終わりに小学校でやるミニキャンプみたいなものの手伝いの行くことになった。友人が教員免許取得を目指していて、今からあれこれ準備に余念がないためだ。
そこで、真雪ちゃんという女の子に出会う。とある先生からは、タンポポを白く塗っちゃったんで、情緒がないんじゃないかという話を聞く。一緒にいててあげてくれないかな?

川島誠「愛生園」
孤児院での話。そこを出ていったある少年の一人語りと、そこで生活するある少女の日記と、最近入ってきたある少年の話。

松村栄子「窓」
予備校で窓の外ばかり見ていたら、同じクラスの男子に気に障るから止めてくれと言われた。私だってマズイと思ってる。それでもどうしても目を離せないのだ。予備校の窓から見える病院の屋上にいる一人の少年のことを…。

壇一雄「花筐」
初めの方を読んでダメそうだったので読むのを諦めました。

芦原すなお「雨坊主」
知り合いに連れていかれて釣りに出かけた。釣りに行くのにゴム長靴を借りたおばあちゃんのところの孫が、雨坊主がいるんだよという話をするのだが…。

というような感じです。
正直なところ、僕の琴線に触れる作品はほとんどありませんでした。なんと言うかどの話も、すごく平坦に感じられるんですね。これは僕の好みの問題だと思います。僕は、エンターテイメントやミステリーが好きで、そういうジャンルでのなくてもストーリーに起伏がある小説の方がいいです。本作は、青春小説という括りで大体いいと思うんだけど、こういう感じの小説はどうも僕には平坦に感じられてちょっと退屈な感じはあります。どちらかというとやっぱり女性向けでしょうね。
僕が面白いと思ったのは、「白いタンポポ」と「窓」かな。「白いタンポポ」は、さすが加納朋子、うまく話をまとめるなぁと思いました。「窓」は、そのあっさりしたところが僕はいいと思いました。あとは「連帯のメールを送る」かな。これも悪くなかったと思います。
他の作品は、うーんどうでしょうか。僕には何とも言えないなぁと思いました。スラスラ読めるんですけどね。まあ作品自体の問題ではなくて、僕の好みの問題でしょう。
しかし、突然壇一雄が出てきた時にはびっくりしましたね。何でこのラインナップで壇一雄なんだろう、と。よくわからないものです。後やっぱり昔の作家の文章は僕はちょっと苦手なんで飛ばしてしまいました。
まあそんなわけで、基本的には女性が読んだら良さそうな気はします。「みじかい眠りにつく前に」というタイトルはなかなかセンスがいいなと思います。


金原瑞人選「みじかい眠りにつくまえにⅡ」




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Comment

[3446]

面白かったので、トラバさせていただきました。
ゲラで発売前に読めるってのは、本好きとして非常にうれしい話ですね。ただ、店の売り上げを決めるような役目なので、仕事と割り切って読むと実際には大変そうだと思いました。

[3447]

ありがとうございます。トラックバックをしてくれた人に何をしたらいいのかイマイチよくわからないので、コメントも一緒にしてくれると助かります。
ゲラは大半の書店員はもらえないですから、ある意味特権といえば特権です。僕も、たまたまラッキーでもらったみたいなものばっかりですしね。
実際ゲラばっかり読んでいるような大手書店の書店員が、ゲラを読んでそれをどう活かしているのかわかりませんが(僕はそもそも文芸書の担当ではないので、ゲラなんか読んでも売場に反映のさせようがないんですけど)、仕事と割り切ってというか、あまり趣味ではない作品のゲラも読まないといけないのが辛いというようなことを聞いたことがあります。

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[ネタ]本屋の店員さんになると、発売前にゲラを読ませてもらえるらしい。

面白かったので、なんとなくのクリップ&&ツッコミ。ゲラをもらえるって、書評ブロガーとして光栄なことですなぁ。 黒夜行

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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
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11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)