黒夜行

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できるかな(西原理恵子)

今日は、担当を持っている書店員なら皆体験したことがあるだろう不思議な現象について書こうと思います。
それが、「外した途端に聞かれる」あるいは「外した途端に売れる」というものです。
少し説明が必要でしょうか。「外した途端に聞かれる」というのはまあ分かるかと思います。売り場から外してすぐ、その本がないか聞かれる、ということですね。「外した途端に売れる」というのもほとんど同じようなものです。僕の場合、売り場に平積みにしている本はほぼすべて棚にも入れています。つまり、平積みを外した途端に棚から売れる、という意味です。
これはホントみんな体験するはずなんです。書店系のブログを読んでいても結構書かれますしね。ホントに不可思議な現象なんですよね、これ。
ついこないだもそんなようなことがありました。3週間ほど1冊も売れていなかったある文庫を売り場から外したんです。その文庫の場合、たまたま平積みで置いている期間は棚に入れていなかったんですけど、平積みを外した時に、まあ棚に1冊残しておくかと思い棚に入れておきました。するとその1時間後ぐらいに、その本が売れたんです。3週間平積みで置いていたのに1冊も売れなかった本ですよ。しかもこの本は、3箇所ぐらい場所を変えて展開していたんです。それでも動きは鈍かった。それなのに、平積みから外した途端棚で売れるんです。
昨日は、「売り場から外した途端聞かれる」というパターンもありました。昨日は新潮文庫の新刊が出ました。新潮文庫の新刊は点数が多いので、どうしてもたくさん外さないと置ききれません。そこでいろんな文庫と共にある文庫を外したんですけど、外して本当にすぐに問い合わせがありました。その本も、2週間ぐらい前に新刊が出た時に1冊売れたきり全然売れていない本だったんです。ずっと、文庫の売り場としてはトップクラスにいい場所に置いていたにも関わらずです。本当にこういうことは日常茶飯事なんです。書店員の皆様、経験ありますよね?
こういうことに対応するのに、僕がやってきた売り場作りというのは多少効果があります。僕は以前どこかで書きましたけど、出版社の棚の前にその出版社の文庫を平積みにしていません。例えば多くの書店では、新潮文庫の棚の前に新潮文庫の平積みがありますが、僕の売り場では、出版社に関係なくいろんな本がバラバラに並べられています。だから僕のやり方だと、ある一つの文庫を何箇所にでも移すことが出来ます。実際、自分が売ろうと思っている本は、売り場から外す前に5,6箇所くらい場所が変わることもざらです。
こういう売り場だと、こういうことが起こります。ある場所から別の場所へと文庫を移動させた時、お客さんは売り場からなくなったと思って棚から買います(これまでずっと書いてきた、「外した途端に売れる」というパターンです)。しかし実際には売り場からは外していないので、平積みになっているものから棚に再度補充し直すことが出来るし、また移動先でもまた本が売れるということになります。書店員を悩ませる不可思議な現象にうまく対応できている売り場ではないか、と自分では勝手に思っています。
何でこんなことが起こるんでしょうね。普通に考えればこうなるでしょう。お客さんは売り場にある本を認識して、買おうかどうしようか悩んでる。来店する度その本を見て買おうかどうしようかと悩んでいるんだけど、ある時売り場からその本がなくなってる。そうなると、逃した魚は大きいみたいな心理(?)で、よし買おうという気になるのかもしれません。あるいは、平積みになっている状態ではいつでも買えると思って先送りにするんだけど、平積みからなくなると手に入らないかと思って棚を見るとある。よしじゃあそろそろ買おうかということになるのかもしれません。まあ基本的にはこういうようなことだろうなとは思っています。
しかしかつて僕は、この仮説に反する事例にも出会ったことがあります。僕はバックヤードに、売り場に平積みにしている本のストック(これ以上積んだら高くなりすぎるというところまでしか積めないので、それ以上の在庫はストックになる)を持っているのだけど、ある文庫はたくさんストックを抱えているにも関わらずそんなに売れていない。これは仕方ないと思って、そのストックの分だけ返品したんです(売り場の在庫は一切変化なしです)。でもそれからその本がまた売れ出したんです。もちろん、ただの偶然でしょう。僕がストックを返品したタイミングで、何か話題になったとか何とかそんなことでしょう。でもそういうことがこれまでに2,3回はあったと思います。だからたまに、ストックを返したらまた売れるようになるかもしれないと思って返品してみますが、まあそううまくはいかないですね。今は、東野圭吾の「探偵ガリレオ」「予知夢」
の売れ行きが鈍り始めてきたので、ストックを返品しようかどうしようか悩んでいますけど、どうしようかなぁ。
まあそんなわけでですね、書店員としては平積みになっている時に是非お買い上げいただきたいものだ、と思うわけなんであります。いつ売り場からなくなってしまうか、分かりませんからね。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、西原理恵子がいろんなことに「できるかな」と思いながらも挑戦していく企画をマンガにしたものです。まあ何ともアホらしい企画ばっかりで、凄いです。西原理恵子の作品はこれで三作目ですが、西原理恵子って昔は結構大変な方だったんですね。今では「毎日かあさん」みたいな非常に幅広い読者層を対象にした作品を書いていますが、昔はそれこそ一部のコアな人間しか食いつかなそうな微妙なことばっかりずっとやっています。なんつーか、とんでもない人だな、と。
冒頭の話からして無茶苦茶ですよ。偽テレカを作るところから何故かガイガーカウンターを自作。その効果を確かめるために、放射能漏れで有名になったもんじゅに行く、という企画です。ありえないくらい無茶苦茶です。
その他にも、性に乱れているらしい新島にナンパされに行く話とか、鴨ちゃん(西原理恵子の元夫)と一緒にタイをうろうろする話とか、岸和田のだんじり祭りに参加してみるとか、まあとにかくそんなことばっかりやっている話なんです。
しかし、タイの話はすごかったです。テレビ番組で今日の死体というコーナーがあるとか、金玉マッサージがあるとかって話もすごいですけど、鴨ちゃんが買ったというマンションの話がまたすごい。未完成のマンションを買ったのだけど、とにかく全然完成しない。施工を担当している職人の家族が、未完成の建物の中で家族を呼んで寝泊りしてしまう。しかも仕事が酷い。欠陥だらけ、っていうかどうやったらこんな仕事になるのってな具合。タイ人はすごい。
しかしそんなタイ人をも上回るのがインド人で、とにかく最強。タイ人に勝つことが出来る唯一の人種として西原理恵子の中でインプットされる。西原理恵子自身もインド人とバトルするも、虚しく完敗。インド人と喧嘩をしても無意味であると体で実感するのである。
まあそんなわけで、かなりハチャメチャな話の多い本です。体張ってます。ロッキンオンって雑誌で連載されていただろう音楽の話はあんまり興味がもてなかったんだけど、まあ全体的にはそれなりに面白い話でした。興味があったら読んでみてください。

西原理恵子「できるかな」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)