黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

ファミリーポートレイト(桜庭一樹)

今日は恐ろしく時間がないので、申し訳ないけど本屋の話はなしで、そのまま内容に入ります。
本作は、マコとコマコの話。マコが母親で、コマコが娘。コマコの一番初めの記憶は、5歳。
コーエーと呼ばれる住宅に、帰ってこないマコを待ちながら一日中ボーっと過ごすコマコ。マコは女優で、キレイで、コマコはマコのことを愛している。ずっとマコと一緒にいたいし、っていうか親子だからそれは当たり前だと思っている。
ある時、マコは突然言う。足元に、何か真っ赤なものを滴らせながら。
「コマコ、逃げよう」
それからマコとコマコは放浪者になる。名も知らぬ、日本のどこかにあるどこかの町を転々としながら、時折追っての影を感じてはまた逃げる。
初めは、城塞都市のような山奥の村だった。老人ばかりで、足が悪いわけでもないのに皆電動車椅子に乗っている。病院に連れて行かれたマコとコマコは、そのまま病院の手術室に寝泊りすることになる。マコは病院で働き、コマコはそこで字を覚える。本を読むことを覚える。本の存在はそれから、コマコにとってマコに次いで重要なものになる。
海沿いの町にも行った。そこでマコは芸者として働き、コマコはいない存在としてひっそりと隠れていた。
豚を殺して成り立っている町にも行った。そこでマコは、暴力的な男に養われる。
元有名人が集まる町にも行った。そこでマコは、生活を立て直すためにミシンを踏み、コマコは読書に耽った。
金持ちのために隠遁者にもなった。二人は外界とは隔てられた世界の中で、現実とは思えない日常を過ごしていた。
そしてコマコは一人になった。一人になって、一人で生きて、一人で女になって、一人で愛して、一人で有名になって、コマコはそれでも生きた。
5歳から34歳までの、少女の人生の軌跡を追う物語。
直木賞受賞後初の長編と言っていいでしょう。実際「荒野」という作品を出していますが、これは昔出した本をまとめて書き下ろしを加えたという体裁なんで、純粋な新作長編とは言いがたいです。
相変わらず桜庭一樹は少女をテーマに物語を描いていきますが、この作品は正直なところピンとこなかったなぁと思います。
読んでて、すごい作品だなとは思うんです。こんなに重厚で、繊細で、狂気に溢れていて、どこにも行き着かない物語なんか、確かに桜庭一樹じゃないと書けないだろうな、と。
そんな風には感じるんだけど、でもどうも僕にはそんなに合わない作品だなとも思いました。どこがダメというわけではなくて、相性の問題でしょう。「私の男」とか「少女七竈」なんかが好きなんだけど、そういう作品を読んだ時みたいに、この作品が好きですとはどうしても言えないというか。作品自体が悪いとかそういうわけではないと思うんで、是非読んで欲しいんですけど。
ストーリーは、大きく第一部と第二部に分かれています。第一部は、マコとコマコの放浪を、そして第二部では孤独なコマコの成長を描いています。
僕は、第一部の方が好きですね。第一部では、コマコは常にマコの手下で、ボスであるマコに絶対服従。何をされても、どんな状況に追い込まれても、コマコはマコに一生懸命ついていきます。それでいてコマコは、マコのことを全力で愛している。初めて「愛」という言葉を教わった時、どうして他人同士なのに愛せるのか、とコマコは疑問に思う。コマコにとっての愛とはマコに向けられるもので、それは親子だから存在しうるのだと考えている。それくらい、コマコはマコのことを愛している。
一方のマコは、どう贔屓目に見ても、いい母親とは言えない。コマコのことは愛しているらしいし、可愛がりもするのだけど、ただ母親らしく愛情を注ぐっていうことが出来ない。マコも母親からきちんと愛情を受け取れなかった人で、そういう負の連鎖が続いている。そういう、明らかに以上な母娘の関係というのがすごく濃密に描かれていて、非常に面白いと思います。
また、ストーリーはコマコの語りで進んでいくんだけど、このコマコの思考っていうのもなかなか面白い。結局コマコは、まともな形で学校に行くことはついぞないわけで、世間的な常識とか一般的な考え方というものがよくわからない。コマコの中にあるものは、マコから教わったこと、そして5歳から転々としてきた様々な町の環境から感じ取ったことだけ。コマコの周囲の環境というのは、どこにいても一つとしてまともなものなんてほとんどなかったから、物事の考え方とか感じ方も勢い変なものになる。そういうところが、実に面白いなと感じます。
第二部は、あっさり言ってしまえば、コマコの再生の物語。つまり、これまで無茶苦茶な生き方をしていたコマコが、どういう形で人生に折り合いをつけていくのか、という話。自分の中に常識をそのまま当てはめたり、やりたくないことを我慢してまでやるみたいなことにはならないんだけど、やっぱり少しずつコマコは落ち着いていく。なんかそれが寂しくて、あんまり好きになれなかったかなぁ。第一部ではほとんど他人とは関わらなかったコマコが、第二部ではかなり積極的に関わるようになって、そうやってコマコがどんどん変わっていくのが嫌だったような気もします。マコのことを狂熱的に愛していた子どもの頃のコマコの方が僕はいいです。
本作では第一部にしても第二部にしてもいろんな脇役達が出てきます。マコたコマコがありこち放浪する先で関わる人達がメインになるんだけど、こういう人々の描写もかなり面白いと思います。確かにどこかにはいそうで、でも自分達の周りには決していない、そんな感じの人々です。それに、かなり変わった母娘であるマコとコマコを受け入れてくれるわけで、そういう人達もかなり変わっています。変わった人が好きな僕としては、そういう人たちの描写はなかなか面白いなと思いました。
僕としては、どういうわけかそこまでのめり込むことが出来なかったんだけど、傑作であるということは間違いないと思います。すごい作品です。桜庭一樹っていうのは、本当にどんどん成長していく作家だなと思いました。これからもどんどん突っ走って、少女の物語を書いていって欲しいなと思います。

桜庭一樹「ファミリーポートレイト」




関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/1381-09f75b4a

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
11位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
9位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)