黒夜行

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すごい本屋!(井原万見子)

昨日も同じことを書きましたが、体調不良のため変な時間に寝ていたため、すっかり夜寝れなくなってしまいました。このまま起き続けるか、早朝から昼に掛けて一旦寝るか、どうしようか迷っています。
先週だったと思いますが、あるお客さんにこんな事を聞かれました。
「今売れてるビジネス書を紹介してください」
こういう聞かれ方は、たまにしかありませんが、時々あります。しかしこう聞かれたら、ちょっと困ってしまうなぁというのが正直なところです。
僕は文庫と新書の担当なので、文庫と新書について聞かれれば、何が売れているのか答えることは出来ます。でも、世間的に売れているものと、僕の売り場で売れているものというのは必ずしも一致しません。しかもその時点で売り場にないのだけど世間的に売れているものというのも出てくるはずです。そういうものについて、紹介すべきか否か…。
しかも先週聞かれたのは、僕の担当外であるビジネス書。聞かれた時点でビジネス書の担当は上がってしまっていたし、正直ウチのビジネス書の担当に聞いたところで何が売れているのかなんて把握していないと思うのでいてもいなくても同じなんですが、さてどうしたものか。
もちろん、担当外だからと言って知識がなくていいわけがありません。実際僕は、文芸書・ビジネス書・サブカル本・実用書辺りまでなら、多少世間で何が売れているのか把握しています。他の書店のランキングを見たり、メールやFAXで送られてくる情報をちゃんと見ているからです。正確な知識はないながら、うろ覚えの情報をフル活用して、そのお客さんにはいくつか本を紹介しました。
しかし、じゃあそれが例えば工学書や資格参考書だったら同じような対応が出来たかと言うと、もう僕には無理です。工学書なんか、パソコンの知識がほぼ皆無に近い僕にはチンプンカンプンだし、資格参考書にしても似たようなものがありすぎてどれが売れているのかなんて覚え切れません。カリスマと呼ばれるような書店員は、一体どの程度の情報を通常ベースで持っているのだろうか、と気になってしまいます。
先ほどのビジネス書の話に戻りますが、ある程度見繕った本は、どうもお気に召さなかったようです。詳しく話を聞いて見るとその方は、会社経営者にこれから取材をするつもりのようで、そういう経営者の方が書いた本を知りたかったようです。僕が売れているビジネス書として選んだもののほとんどが、自己啓発と言われる類の本でした。
こういうケース、つまりお客さんの問い合わせ内容がどうもピンポイントではない、という経験は本当によくあります。例えばこの間も、『山田悠介の本はどこにありますか?』と女子高生に聞かれました。『何か特定のタイトルをお探しですか?』と聞くと、『「8.1」って本』だと言います。僕はどうしても不思議なんですけど、じゃあ何で初めから『山田悠介の「8.1」っていう本はどこですか?』と聞けないのだろうか、と思ってしまいます。これは女子高生だからというわけではなく、多くのお客さんでそういう傾向があります。
またつい最近こういうこともありました。電話での問い合わせでしたが、『息子に頼まれたんだけど、えーと、ドラゴンクエストブイの大空の花嫁っていう攻略本ってありますか?』という問い合わせだったんですが、調べるまでもなく「ドラゴンクエストV(ブイ)」ではなく「ドラゴンクエストⅤ(ファイブ)」だと分かるし、また僕はゲームに詳しくないので調べないと分からなかったけど、「大空の花嫁」ではなく「天空の花嫁」でした。電話はおじいちゃんからのもので、まあそのおじいちゃんは悪くないんですけど、自分で欲しい本ぐらい自分で問い合わせられないかねぇ、とその息子に対して感じました。
とりとめのない内容になりましたが、お客さんからの問い合わせというのは本当に色々あります。お客さんからこんな問い合わせを受けたことがある、という話でしばらく書けるかなぁ。
そろそろ内容に入ろうと思います。
この本は、和歌山県の山村にある「イハラハートショップ」という本屋の一人店長である著者が書いた、人口100人の村でいかに本屋を続けてきたのかという奮闘気です。
元々著者の父が大阪で本屋を開業したのだけど、これまで本屋がない環境で育った地元民から是非この地に本屋を作って欲しいと要望があり、大阪の本屋の支店として開業しました。その後、大阪の本店の方を締め、また経営を娘である著者に譲り、今では日用雑貨なども売る、村で唯一の小売店としても活躍しています。
著者はとにかく、子どもにもっと本と触れ合って欲しい、そしてその環境を提供したい、という強い思いを持っています。そこには、幼い息子を亡くしてしまったかつての同級生の存在があるようです。
著者はあらゆる試みによって、子どもと本とを繋げようと努力してきています。絵本の読み聞かせは様々な場所で継続的に行われているし、また学校にたくさんの本を持っていき、そこで子ども達自身に学校図書を選んでもらうという試みもしています。また、様々な出会いと著者の努力によって、絵本の原画展やサイン会なども実現できました。そのお陰もあってか、イハラハートショップ近隣の村から、読書感想文の最優秀賞受賞者が何人もいます。
今書店は厳しいと言われているけど、イハラハートショップは元々人口の少ない山村という厳しい環境で始まりました。この場所で経営を維持するには、ただ待っているだけでは成り立たないという気持ちで、昔から様々な取り組みをしてきています。現在では、和歌山駅から電車とバスを乗り継いで1時間半掛かるこの本屋に、多くの県外者がやってくるんだそうです。
ホントにすごい本屋だなと思います。何せ取材で、『この店のロングセラーは何ですか?』と聞かれた時、『ちゃいなマーブルというあめ玉です』って答えるような、そんな店と店主です。日本には変わった本屋が全国津々浦々にあるでしょうが、その中でもトップクラスに変わった本屋だと言ってもいいでしょう。
この本を読んで、僕も昔のことを思い出しました。僕の地元は別に山奥にあったわけではないですけど、やっぱり小さな町で(しかも最近隣の市に合併されて、町名は消えてしまったみたいだけど)、本屋は駅から5分くらいのところにある20坪くらいなのかな、とにかく小さな本屋だけでした。小中学生の頃は、よく学校帰りに立ち寄りました。どんな本を見ていたかは覚えていないんだけど、楽しかった記憶があります。
ただ親に本を買ってもらえるのはまたちょっと違う本屋で、隣町(と言っても僕の住んでたところが隣町の境みたいなところだったので、そんなに遠くなかったけど)にあった小さなスーパーみたいなところの中にある本屋でした。そこで、「ズッコケ三人組」シリーズをよく買ってもらったなぁ。あれは本当に面白かった。
高校生になると、高校が隣の市にあったので、やっぱり多少は栄えていて大きな本屋もありました。学校の近くにもあったし、商店街の中にもありました。参考書なんかをよく買ったりしたなぁ。それに、古本屋もあったりして、そこでもよく本を買いました。
もし地元に本屋がなかったらと思うと…、というかそんな想像はなかなか出来ないですね。僕の場合、どうなってたんだろうなぁ。昔から結構本が好きだったから、どうしても本のない生活というのが想像できないですね。
今の子どもというのは、本を読む以外にも楽しいことがたくさんあるんだと思います。主にゲームでしょうかね。ゲームだって熱中できればまあいいのかもしれないけど、やっぱり本作を読むと、本っていいよなぁと思えてきます。
本屋で読み聞かせをやったり、サイン会をやったりなんていうところはあると思うけど、それでもこのイハラハートショップのあり方に叶う本屋はなかなかないでしょう。読み聞かせにしてもサイン会にしても、普通本屋は来客数や売上をアップさせようと思ってやっているのに対して、著者は子ども達の笑顔を見たい、という一心でやっているんですね。勝てるはずがありません。その熱意に、多くの出版社・著者・マスコミがほだされて、いろんな協力を申し出てくれるんです。すごいものだと思います。
書店の経営が苦しい中、本書を読めば何か参考になる…、とはやはりいえないですね。真似しようと思って真似できるものではありません。元来書店というのは、何か大きく攻めるような業種ではないと思うんだけど、イハラハートショップはその立地ゆえ、開店当時から攻め続けなくてはいけかったわけです。もうその覚悟とか経験とかの違いですよね。勝てるわけがないし、真似しようと思っても真似できないと思います。
日本にこんなに凄い本屋があるんだ!というのを、是非読んでみてください。

井原万見子「すごい本屋!」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)