黒夜行

>>2021年04月03日

「テスラ エジソンが恐れた天才」を観に行ってきました

【彼がいなければ世界は100年遅れていた―】

というキャッチコピーが印象的な映画。

以前、『エジソンズ・ゲーム』という映画を見た。これは、エジソンとテスラという天才科学者にして発明家である2人の有名な「電流戦争」を描いた作品だ。「電流戦争」というのは、直流電流を主張するエジソンと交流電流を主張するテスラによる真っ向勝負のバトルで、現在世界は、テスラが生み出した交流電流によって成り立っている。エジソンは、完全に敗北した。

テスラは確かに天才だったのだが、恵まれた人生だったかというとそうとも言えない。これに関しては登場人物の一人が観客に向けてこう語りかける(この、登場人物が観客に語りかける設定はちょっと特殊なので後で説明する)

【もしテスラに世慣れた相棒がいたら、どうだったでしょう?】

確かにテスラには相棒がいた。オーストリア帝国(現クロアチア)時代の同僚であるシゲティだ。しかし残念ながら彼は「世慣れた」相棒ではなかった。

テスラはアメリカにやってきて、エジソンが興した会社に入社している。しかし、意見が合わずに半年で辞めている。すでにこの時点でテスラにはモーターや交流電流のアイデアがあったのだが、エジソンは他人のアイデアに耳を貸す人物ではなく、「交流電流に未来はない」とまで言い切っている。先述した『エジソンズ・ゲーム』の中では、テスラの交流電流が危険であることを知らしめるために、交流電流で犬を殺す実験まで行っている(本映画でもその場面は若干出てくるけど、あまり詳しく描かれないから、観ても状況がよくわからなかった人もいるかもしれない)

その後テスラは自ら「テスラ電灯社」を設立するが、騙されて無一文になってしまう。そこから屈辱の一年を経て、友人がテスラを偉い人に紹介してくれ、そこから最終的にエジソンを打ち負かすまでになるのだ。

何を伝えたかったかといえば、テスラが世に現れた時点でエジソンは超実力者として知られていたし、特許の取得や資金集めなどにももちろん長けていた。そんな人物を相手にするのだから、「社会を知らない一匹狼の天才」ではなかなか太刀打ちできない。

テスラが交流電流で勝利できた背景には、鉄道の空気ブレーキで財を成し大実業家となっていたウェスティングハウスの存在が大きい。ウェスティングハウスは、エジソンに勝つためにテスラに肩入れし、その後押しもあってテスラは勝利することができたのだ。

確かにテスラの発明は世界を変えた。今我々が電気を使った便利な生活を送れているのは、テスラのお陰だ。エジソンの直流電流は、理由は忘れたけど、今のような電気社会を生み出すのには向かない(今は技術が進歩してるからまた違うだろうけど)。テスラの交流電流がきちんと普及した(つまり、エジソンの直流電流で普及しなかった)ことで、便利な社会を享受できている、ということだ。

しかし、エジソンもそうだが、テスラも常に成功していたわけではない。交流電流の後は、エネルギーを無線送電するシステムの開発に取り組むがなかなか上手くいかず。テスラの脳内には常に様々なアイデアがあったようだが、結局それらは実現することなく、テスラは孤独に亡くなることになる。

そして映画の最後で、登場人物がまたこんな風に観客に語りかける。

【私たちが住む世界は、テスラが夢見た世界なのかもしれません】
(ややこしいですが、この発言をするのはテスラと同年代の人物ですが、「私たちが住む世界」というのは、今のこの近代的な世界のことを指しています)

テスラが活躍していたのは1900年前後(亡くなったのが1943年、享年87歳)。120年以上も前に、テスラは既に、今僕らが生きているような世界(もしかしたらそれよりもさらに進んだ世界)を頭の中で思い浮かべていたかもしれません。もちろん、それを証明することはできないでしょうが。

さてここで、「観客に語りかける登場人物」について触れたいと思います。

この人物はアン・モルガンという女性で、J・P・モルガンという大富豪(テスラの事業に投資もしている)の末娘。彼女はこの映画の中で、「テスラに恋をする女性」でありながら、「映画全体の語り部」でもあります。ある場面では彼女は上流階級の服を来てテスラと関わり、ある場面では現代風の服を来てパソコンの前に座っています。そして、登場人物でありながら語り部でもあり、テスラやエジソンやサラという女優などについて補足的な情報を付け足してくれる存在でもあります。

彼女は、1900年前後にテスラに恋をする人物でもあり、2021年現在において観客に説明をする人物でもあります。こうやって文字で説明するとややこしい感じがしますけど、そもそも僕は最初、「現代パートに出てくる女性」と「アン・モルガン」が同一人物だと気付いていなかったし、途中でそれが分かってからも、特に混乱することはありませんでした。

映画の中ではテスラの人間的な部分はそこまで見えてきません。それも仕方ないようで、テスラに関する情報というのはそもそも少ないみたいです。現代パートのアン・モルガンが劇中で言うのですが、ネットで「テスラ」と検索して出てくる情報は3400万件(「エジソン」は6400万件)ですが、その検索結果として表示される写真は、元を正せば4枚しか存在しないと言います。エジソンに関する伝記は多々ありますけど、テスラに関するノンフィクションは僕は読んだことがないし、おそらく出版されている数としても少ないのではないかと思います。だから、テスラの人間的な部分を描くのは難しいのだろうと思います。

その中でも、アン・モルガンとの関わりは結構描かれます。残念ながらテスラは、アン・モルガンにさほど関心を持ちませんが、父親のJ・P・モルガンは投資をしてくれる人物だから無下にできない。アン・モルガンは会いたい、テスラは投資を受けたいという理由で、二人は度々会うことになっていたのではないかと思います。

過去パートのアン・モルガンだったか、現代パートのアン・モルガンだったか忘れたけど、彼女が、

【私には謎でした。母親と同じような形でテスラに触れられる女性が現れるのか、と】

母親を亡くしたテスラは大いに消沈したようで、おそらくそれもあって、女性との関わりを忌避していたのではないか、と受け取れるような発言でした。そう感じているアン・モルガンとしては、サラという女優の存在は嫌だっただろうな、と思います。

今の時代もおそらく、テスラのような天才はどこかにいるだろうな、と思います(発明家や科学者に限りませんけど)。しかしこういう本物の天才ほど、金儲けが上手い起業家や技術への敬意がない商人に良いようにされてしまうだろうな、と思います。ゴッホは生前まったく絵が売れず無名のまま死んだ、みたいな話も有名だと思いますけど、こういう天才ほど、死んでから名を残すのではなく、生きている内に幸せであってほしいな、と感じます。

『エジソンズ・ゲーム』が結構エンタメ全開という感じで展開するのに対して、この映画は割としっとり進んでいく感じがします。ただ、ところどころ面白い演出があって、映画の中で何度か、「と、これは史実とは違いますね」と偽りの場面を描き出します。あと、本当に一瞬だったから自信はないのだけど、ある場面で明らかにエジソンがスマホをいじっている仕草をしていると思うんだけど、見間違いかなぁ。それも、「これは史実とは違いますね」と言っている場面でのことだったので、おふざけ的にそういうシーンを組み込んだのかな、と感じました。

凄く目を惹く何かがある、という感じの映画ではないのだけど、面白かったです。

「テスラ エジソンが恐れた天才」を観に行ってきました

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
2位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
1位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

最新記事

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)