黒夜行

>>2017年08月10日

廃校先生(浜口倫太郎)

学校の先生とは、あんまり相性が良くなかったなぁ、と思う。今振り返ってみれば、その理由ははっきり分かる。

僕は今でも、決められたこととかルールみたいなものが嫌いだ。自分の中でしっくり来るような内容であっても、それが「ルール」として定められているということに対してイライラしてしまうことさえある。

そして、まさに学校というのはルールの宝庫だ。「しなければならないこと」も山ほどあるが、「してはならないこと」も山ほどある。

そういう環境が、僕には窮屈だったなぁ、と思う。

子供の頃は表向きとても優等生だったので、ルールに対してさほど抵抗するようなことはなかったような気がする。ただやはり内側では、おかしいと思っていたし、時々どうにも我慢が出来なくなって爆発することもあった。

ルール、というのとはちょっと違うのだが、未だに覚えていることがある。

確か中学の合唱コンクールだったと思う。その時の担任の教師は、僕の中で「先生がなんでも決めてしまう」という見え方をしていた。それに対する反発があったのだろう。教師が、合唱コンクールで歌う歌はこれです、と勝手に決めてきた時に、それはおかしい、と言って反発したことがある。

正直僕にとっては、合唱コンクールで歌う曲なんかなんでも良かったのだけど、やはり「勝手に決められている」ということが凄く嫌だった。それで、選曲を一からやり直すことにしたのだ(まあ、結局、クラス全員で決めた結果、教師が最初に提示した曲に決まったのだけど 笑)。

そういうルールに対する嫌悪感は、やはり教師に向いてしまう。今なら、教師だって「やらされている」のだということは分かる。教育現場のことは詳しく知らないが、恐らく「こうしなければならない」「こうしてはならない」という様々な規則でがんじがらめにされているのだろう。教師にもよるだろうが、必ずしも生徒に押し付けているルールに賛同しているとは限らない。

とはいえ、その辺りのことは子供の頃はよく理解できていなかったのだと思う。ルールを押し付けてくる人=教師、と図式ですべての物事を見ていたのだと思う。だからどうしても、教師という存在を受け入れることが難しかった。時々、この先生はいいな、と思える教師もいたのだけど、数は決して多くはない。

その後僕の人生には、教師の側から子供を見る、などという経験はなかったわけだけど、教師を主人公にした物語を読むことで、少なくとも子供の頃よりは教師のことが理解できるようになったと思う。そうなった今思うことは、やはり教師も迷いながら教えているのだろうなぁ、ということだ。

『やっぱり先生って情熱持った人しかなったらあかん仕事やと俺は思うぞ』

作中にそんなセリフが出て来る。

教師になる理由には様々なものがあるはずだ。全員が、教育に対する情熱を持ち合わせているわけでもないだろう。とはいえ、そういう見られ方をされる、というのもまた一面の事実ではある。特に、子どもを預けている親はそう願ってしまうだろう。自分の教師としてのあり方と、教師の見られ方のギャップに、多くの人は苦労するのではないかと思う。

とはいえ、教え導くことに喜びを見いだせるのなら、天職なのだろう。本書の「よし太」のように。

内容に入ろうと思います。
里田香澄は、面積の96%が山林という、奈良県の十津川村にある谷川小学校の新米教師だ。創立143年の歴史を持つこの学校は、しかし今年度で廃校が決定している。2年生2人、4年生2人、6年生3人に教師が4人という非常にこじんまりした学校だが、生徒への目が行き届き、地域で学校を中心に行事を盛り上げる、という形が悪くないと思っている。しかし一方で香澄は、自分が教師に向いているのかどうか分からないという悩みをずっと抱えている。
香澄は4年生を受け持つが、同僚の仲村よし太が受け持つ6年生の副担任もやっている。地域の代表者であり、よし太の同級生でもある古坂一護の息子で絵の上手い十夢。曾祖母、母の女三人で暮らしながら、アイドル(NMB)に入ることを夢見る美少女愛梨。災害で母を亡くし、家具職人である父と二人で暮らしながら、中学受験を目指している優作。廃校の決定した小学校において、彼らのスタンスはばらばらだ。十夢は、この素晴らしい校舎、そして学校が無くなってしまうなんてあり得ないと考えている。しかし愛梨と優作はそうでもない。どちらも、スカウトされて、受験に受かって、この村を出て行くことを第一の目標としている。
よし太は教師で、当然大人だが、大人とは思えないほどアホだ。子供たちだけで遊んでいるといつも仲間に入りたがるし、いつも鼻をほじっている。勉強だって特別出来るわけでもないから、中学受験を目指している優作には不満だ。香澄にとっても、なんでこんな人が教師をやっているんだろう?と思うような人だったが、しかし子供たちからは絶大な人気がある。
ある意味で地域の中核を成す存在である谷川小学校が無くなることが決定している中で、そこに住む者たちの想い、そこを出たいと思う気持ち、誰かを思って行動する勇気などが丁寧に描かれていく作品。

これは良い物語だったなぁ。スイスイ読めてしまうような結構軽いタッチで描かれている作品なのに、中身はそこまで軽々しくはない。重厚なわけではないけど、穏やかな日常の物語の中に、小学校を中心とした人々の人生が屹立し、どっしりと張られた根っこのたくましさみたいなものをじっと眺めるような、そんな力強さを感じさせる作品だなと思いました。

物語の中心になっていくのは、やはりよし太です。彼はこの物語のキーパーソンだと言っていいでしょう。よし太がいるのといないのとでは、本書はまったく別の物語になってしまうだろうと思います。それぐらい、物語の根幹に関わってくるキャラクターです。

とはいえ、アホであることには変わりありません(笑)。作中でほぼずっと、よし太はアホなことばっかりやっています。まったく教師らしくないですし、教師らしく見せようという気も本人にはないでしょう。

それでも、よし太がやっていることは、まさに「教育」なんだろう、という感じがしました。

本書では、対比の意味を込めてでしょう、香澄が東京の小学校に研修に行く、という場面が描かれる。全校生徒が7人しかいない学校から、生徒数1000人以上の小学校に研修に行くのだ。そのギャップたるや。しかし、その現場は疲弊していた。そこに「教育」と呼べるものがあるのかどうか、判断は難しい。何を持って「教育」とするのか、というのは人それぞれではあるのだろうが、多くの人が最終的に求めてしまう「教育」というのは、よし太が実践するようなものなのではないか、と僕は思うのだ。

よし太の教師としてのあり方を真似するのはかなり難しいだろう。鼻をほじればいいのか、子供にバカにされるような振る舞いをすればいいのか、というとそれは全然違う。形だけ真似してもダメなのだ。そこには、よし太なりの想いと情熱がある。よし太は、それがとても強いのだ。想いや情熱だけでは乗り越えられないものもたくさんある。実際によし太は、教員免許は持っているが教員試験には何度チャレンジしてもダメで、講師という立場で教師をやっている。それでも、想いや情熱で届けることが出来るものもあるのだ、とよし太を見ていると思わされるのだ。

メインで描かれる3人の6年生も実に良い。三者三様であり、村での生活や学校への思い入れなど様々な部分で違っている。関係性がうまく行かなくなってしまうこともあるし、お互いのことが理解できなくなってしまうこともある。それでも、たった3人しかいない同級生との関わり、そしてあらゆるものがない村での生活は、彼らに良くも悪くも様々な経験を与えることになるのだ。

彼らを取り巻く大人たちも良い。大人たちにも物語があり、その多くは「何故十津川村での生活を選択したのか」だ。子供たちには、村での生活に不満がある。しかも親たちは、村での生活から離れられる機会があった、ということさえ知ることもある。じゃあ何故ここでの生活を選んだのか―。それぞれの家族のそれぞれの物語は、「生きる」ということについて大事な何かを伝えてくれるように感じられるのだ。

不覚にも、随所で泣きそうになってしまった。物語の展開としては、かなりベタではある。何度も、先の展開を予測出来た。しかしそれでも、予測通りの展開であることが分かって泣けてくる、という状況さえあった。正直、優しい人間が出て来る優しい物語はそこまで好きではないのだけど、本書はそういう部分に対する抵抗をほとんど感じることなく読むことが出来たし、ベタな展開であっても読ませる力には感心させられた。

こんな学校も、こんな生き方もいいかもしれないな、と思わせてくれる作品だと思います。

浜口倫太郎「廃校先生」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)