黒夜行

>>2017年08月09日

君を一人にしないための歌(佐藤青南)



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内容に入ろうと思います。
本書は、一風変わったバンド小説です。何せ、楽器を弾くことも歌を歌うこともなく物語が終わるからです!この小説のテーマは、「バンドメンバー探し」です。
まずは全体の設定から。
中学の頃、ブラスバンド部でドラムを担当していた森尊(通称:モリソン)は、三年間の集大成となるコンクールでドラムスティックを放り投げてしまい、すべてを台無しにしてしまった。そのことがトラウマとなってドラムから遠ざかっていたが、ある日いきなり状況が変わる。同じ学年の見知らぬ少女が、突然モリソンのクラスにやってきて、「おめでとう」と言うのだ。
「選ばれたから。あたしのバンドのメンバーに」
台風のようにやってきて唐突にモリソンをバンドメンバーに引き入れたのは、石塚七海。このバンドのボーカルでありリーダーだ。他に、ベースギターを担当する緒方凛がメンバーとして決まっている。凛のロックに関する知識はかなり深いが、何故かリーダーの七海は、ロックのロの字も知らないようなド素人。何故バンドをやろうと思ったのかもよく分からない。
しかし、とにかくバンド活動を始めるには、あとギタリストを探さなければならない。彼らは、あの手この手でギタリストを探そうとするが、その度に「人助け」のような状況に巻き込まれることになり…。

「Track.1」
インターネットのバンドメンバー募集掲示板で勝手に七海がギタリスト募集を掛けていた。それを見てやってきたのが「ショーン」、本名「宮前匠音(ショーン)」という高校一年生だ。彼は、前のバンドを追い出されそうになっていることに気づいて自分から辞めてやった、と話をした。聞くと、前のバンドのメンバーがこそこそと集まり、別のバンドのギタリストと接触しているのを目撃してしまったのだという。確かにそれは怪しい。とはいえ、彼が本当に辞めさせられるところだったのだとすれば、何か彼に問題があると言うことも出来る。その辺りの事情を彼らは探ろうとするが…。

「Track.2」
応募してきたのは、高校生の志度道康。シド・ヴィシャスのようなパンクロッカーの格好をして、見た目こそバンドマンっぽいが、ギターは最近始めたばかりだという。しかし七海は、技術よりも魂の叫びが大事なんだ、とか、ついさっき凛が講釈した言葉を使って志度を加入させようとする。しかし、志度の加入にはモリソンがまったを掛けた。実はモリソンは、志度のことを小学生の頃から知っている。昔はあんなパンクロッカーみたいな格好はしていなかったし、もっと大人しい奴だった。すると、志度から驚くようなことを聞かされる。もうギターは弾けない、というのだ!

「Track.3」
小林さんは、27歳。高校生バンドに応募してくるにはちょっと年齢が高すぎるが、60万円もしたというヴィンテージギターをいじる手つきは流石で、いっきにバンドのレベルが上がったような感じだ。顔合わせを済ませ、今日は初めて音合わせをする日。入念に音を作る小林さんのこだわりにじれながらも、彼らは待つ。しかし、驚いたことに、トイレに行ってくると言ったきり、小林さんは戻ってこなかったのだ!なんでそんなことをしたのか…。

「Track.4」
初めて女の子の応募だぞ―。七海がそう言った時、誰も予想していなかった。ユウコちゃん(栄村由布子さん)が、まさか42歳のオバサンだなどとは。栄村さんが奢ってくれるというスイーツに釣られている七海と凛を横目に、モリソンは一人栄村さんの話を聞く。なんでも、これまでも高校生バンドに応募しては、断られてきているのだという。探せば同年代のバンドなどいくらでも見つかるだろうに、何故高校生バンドにこだわるのか…。さらに話を聞いていくと、どうも別居することになってしまった娘との関係修復を願ってのことだったようだが…。

「Track.5」
応募してきたのは、一つ年上の倉戸絵理。絵理がやってくる前、七海とモリソンはバンド名で揉めていた。自分の名前から取った「セブンシーズ」で押し切ろうとする七海と、4人を目指しているのに3人しかいない状況を模した「メヌエット」という名前にこだわるモリソンが険悪な雰囲気になっていた。絵理のロックに対する知識が深いために、凛と話が合うのが助かった。七海はいつもとは違って、絵理に対して敵意を剥き出しにするかのような態度を取っていた。音合わせにクラプトンの「いとしのレイラ」を選んだ絵理。その真意は、絵理から一人連絡をもらったモリソンはすぐに知るところとなったが…。

というような話です。

これはなかなか面白い作品でした。大粒な小説なわけではないですが、小粒ながらキラリと光る部分があるという感じの小説で、全体的にとてもうまくまとまっているような印象を受けました。

まず、全体の設定が面白いですね。バンドに限らずですが、スポーツ小説なんかでも、仲間を集めるところから話が始まっていくものは結構あると思います。でも本書の場合は、最後の最後まで、仲間を集めるだけで終わってしまう、というところがなかなか斬新だなと思いました。

連作短編集であり、全編バンドメンバー探しを貫くためには、毎回バンドメンバー探しに失敗しなければなりません。その点をミステリにする、という発想は、非常に面白いと思いました。募集を見てやってくる面々は、何かしら抱えている。彼ら三人は、自分たちのバンドのメンバーを探したいという気持ちは常にあるものの、しかしその一方で、相手の懸念を払拭してあげたい、という思いにも駆られてしまいます。そこがミステリになっていく。

やってくる人たちは、その人なりの理由があって彼らのバンドに応募してくる。小林さんのように、「ギターを弾かずに帰ってしまう」というのであれば話にならないのだけど、そうでもなければ、とりあえずバンドメンバーが決まったということでバンド活動をどんどん進めちゃえばいい。しかし彼らはそうしない。彼らは、その人たちが何故自分たちのバンドに応募することになったのか、ということが何だか気になってしまう。だから、その人たちが抱えている懸念を掘り下げ、あまつさえ解決に乗り出してしまう。しかしそうすることで、その人たちが彼らのバンドに応募してきた理由までなくなってしまうのだから、結局バンドメンバーが決まっていない状態に後戻りしてしまう、ということになる。この物語の構造が、うまく出来てるなぁ、と思いました。

何故彼らは、その人たちの事情を気にしてしまうのか。その詳しい理由は是非本書を読んでほしいのだけど、大きく言えば、彼らもまた傷ついてきた者たちだからだ、と言えるでしょう。モリソンの傷は、冒頭ですぐに描かれる。しかし、七海や凛もまた、それぞれ傷を抱えている。しかもそれが、物語の中でうまいこと絡んでくるのだ。実によく出来ている。七海の傍若無人さも、七海の背景を知れば多少は理解できるようになる…かもしれません(笑)

個人的に好きなのは、やはり「Track.4」と「Track.5」。この二つで、凛や七海の過去の話が明らかにされ、それが物語全体の骨格となっていく。全体的にだが、それぞれの個別の物語が何か突出して良いということはない。登場人物たちのそれぞれの問題は、有り体に言えばよくある話ではある。しかし、その組み合わせ方がなかなか上手いなと思う。

傷ついてきた者たち同士だからこその物語はとても優しい。僕が一番好きなセリフはこれだ(一応誰の誰に対する発言可伏せておく方がまだネタバレにはならないかなと思うので、セリフ中に出てくる名前は伏せてみます)。

『◯◯は私たちにすべてを話すことこそが誠意と思っているのかもしれませんが、それは違います。すべてを告白して相手に判断を委ねることは、相手に負担を強いるということです。私たちは◯◯を好きでいたいのです。だから、そのために必要な情報を与えてくだされば、それでいいのです』

これは凄く好きだなぁ、と思いました。僕の中にも、これに近い感覚があります。
僕の中では、「謝る」というのは、相手に「許容」を強要する行為だな、という感覚があります。謝ってしまえば、状況や相手との関係性にもよりますが、相手は許すしかなくなってしまう。許したくない、と思っていても、表向き許したことにしないわけにはいかない状況に追い込むことになる。だから僕は、どうも「謝る」というのが苦手だ。たぶんこのセリフも、感覚的にはそれに近いことを言っているのではないかと感じる。

傷ついてきた者たちだからこそ他人に優しく出来る。他人に優しく出来るからこそ、自分たちの現状を脇に置いて相手のために行動できる。しかもその優しさは、決して善意の押し売りのようには見えない(七海が傍若無人に振る舞うからこそ、彼らの優しさが100%純粋な優しさに見えない)。そこが良いと思う。

音楽やバンドのことに詳しくなくても、必要な情報は凛が詳しく説明してくれるし、たぶん読者以上に何も知らない七海をベースに物語が展開していくので、誰でも安心して読めます。バンドメンバー探しとミステリをうまく組み合わせた、なかなか読ませる作品だと感じました。

佐藤青南「君を一人にしないための歌」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)