黒夜行

>>2017年06月04日

「人生フルーツ」を観に行ってきました



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良い人生だ。
そして、カッコイイ。

僕たちは、どうしても問うてしまう。
「何故?」と。
「何故?」と問い、その問いに答え続けることで、人間は進化してきたはずだし、また様々な知見を蓄積することにもなった。

とはいえ、時々、正しくない「何故?」もあるのだろう、と感じることがある。
大前提となる事柄に対しての「何故?」だ。

数学には、「ユークリッド幾何学」と呼ばれる分野がある。僕たちが学校で習う算数や数学は、基本的にこの「ユークリッド幾何学」に基づいている。これは、5つの基本的な「公理」と呼ばれるものを大前提としている。例えば、「直線の両端は無限に延長できる」「ある点と長さが与えられた時、その点を中心とし長さを半径とする円を描くことができる」などだ。誰もが、まあ当たり前だよね、と思うことだろう。「ユークリッド幾何学」は、そういう当たり前な5つの公理から成り立っている。これらの公理に対して「何故?」と問うことは、概ね正しくないと言えるだろう。

生きることも、同じようなものなのかもしれない、と思う。

何故生きるのか?と問うことで、哲学などの学問分野で様々な進展や発見があったはずだ。だから、そういう問いかけは決して無駄なものではない。とはいえ、実際に現実を生きる僕らにとっては、「何故?」と問うことはあまり意味をもたないのかもしれないと、この映画を見て思った。僕たちは、生きている理由を求めて、働いたりお金を使ったり何かを信じたりする。しかし、そういうものが何もなくても、「ただ生きる」ということに意味を見出すことが出来る。彼らの生活からは、そんなことを感じさせられる。

先程の「ユークリッド幾何学」の話には、続きがある。5つの公理の中には、「平行線公準」と呼ばれるものがある。「平行な2直線は交わらない」というものだ。これも、誰もが当たり前だと思うだろう。しかしある数学者が、この「平行線公準」を公理に含めない新しい幾何学を生みだした。それは「非ユークリッド幾何学」と呼ばれている。どれほど当たり前に思えるものでも、「何故?」と問うことの大事さを感じさせる話だろう。

「何故?」という問いに、決して囚われすぎてはいけない。問う対象が大前提に近いものであればあるほど、そこに答えを見出すことは難しくなる。しかし、「何故?」を完全に忘れてしまえば、見失ってしまうものも多い。

『自分でやれることを見つけて、時間は掛かるけれども自分でやると、何か見えてくるものがあるから』

この夫婦は、「生きること」についてではなく、「どう生きるか」について「何故?」を問いかけ続けた。答えを追い求めるための問いではなく、自分たちがどう行動すべきかを考えるための問いだ。その積み重ねが、彼らの生活を作り上げたと言っていいだろう。

だから、僕には彼らの生き方が、カッコよく見えるのだ。

内容に入ろうと思います。
愛知県春日井市に、「高蔵寺ニュータウン」と呼ばれる一角がある。このマスタープランに関わったのが、この映画の主人公である津端修一だ。映画の撮影時、90歳。87歳の妻・英子さんと一緒に、高蔵寺ニュータウン内に買った300坪の土地に住んでいる。広大な敷地には、雑木林があり、果樹があり、畑がある。二人は日々、農作業や庭仕事をして、自宅で採れた野菜を使って料理やお菓子作りなどをする。作れるものは自分たちで作る、出来ることは自分たちで出来るだけやる。そうやって、子どもを送り出した後も二人で生活してきた。
90歳にして修一はマウンテンバイクに乗り、梯子で屋根に上る。英子も、忙しく立ち振舞いながら夫のサポートをし、また農作業をする。毎日身体を動かしながらやることがあり、それでも時間に追われるわけでもなく、やりがいと穏やかさを両立させながら、お互いを思いやる生活を続けてきた。
修一が高蔵寺ニュータウンの設計に携わったのは弱冠30歳の頃。既に東京で18の団地の設計に携わってきた。高蔵寺ニュータウンの計画の発端は、伊勢湾台風にあった。5mの高潮が平地を襲い、5000人もの人命が奪われた。伊勢湾台風は、「人間はどこに住んだらいいのか」という根本的な問いかけをもたらすものだった。高蔵寺ニュータウンの計画は、高地移転に挑んだ究極のプロジェクトだったのだ。
修一は、山の尾根筋に住宅を建て、ここにこんな山があったのだという名残を残す設計を作り上げた。しかし時代は経済優先。8万戸もの住宅を作らねばならぬ大規模な計画へと変転し、結局修一のプラン通りに作られることはなかった。
その後修一は、高蔵寺ニュータウン内に300坪の土地を買い、ある挑戦を始める。

『平らになった土地に、もう一度里山を復活させるにはどうしたらいいか。新しい緑のストックを作りながら、一人ひとりでも、里山の一部を復活できるという実験だった』

自身の計画を否定された修一は、都市計画や建築の世界から距離を置き、高蔵寺ニュータウン内でのその実験に力を注いだ。その挑戦が、今に至る彼らの人生そのものだ。

『私がお父さんに反対することはない。やりたいことは何でもやって、って感じで』

『私が自由に喋れるようになったのは、結婚してから。あの人にやりたいことを言うと、「それは良いことだからやりなさい」なんて言われて。それからかな、自由に何でも言えるようになったのは』

給料が4万円の時代に70万円のヨットを買いたいと言われても、どうやって家計を回そうかしらと考えて反対しない妻。結婚した時からお金がなく、200年続く造り酒屋の娘だった英子さんが質屋に通う日々だったというが、それでも二人は幸せそうだ。
台湾で、二人の本の出版記念イベントが行われた。その際のインタビューの中で、修一はこう語っていた。

『彼女は僕にとって最高のガールフレンドです』

良い夫婦だ。

特に何が起こるわけでもない、日常の風景をベースにした映画である。しかし、特に飽きることもなく最後まで見続けることができた。二人の生活が、細部に渡って興味深いのだ。

そこには、僕なりの偏見が関係しているのだと思う。僕の中には、お年寄りになればなるほど頭が固くなって融通が利かなくなるという勝手な印象がある。それまで自分が抱え続けてきた価値観にしがみつき、それを手放さないというようなイメージがある。しかし、この老夫婦からは、そんな感じが微塵も見られなかった。若い頃から、信念を持って自分たちの生活を構築してきたからだろう。それを継続的にやり続けてきたからこそ、彼らの生活は魅力的なものになっている。変化が大きくないように思えるのに、飽きることのない生活に見える。凄く不思議だ。

また、やっぱり、自分で何かを作ることが出来る人や環境というのは羨ましいと感じる。農作物もそうだが、修一は建築を仕事にしていただけあって、工作も得意だ。孫のために作った三階建てのドールハウスは圧巻だった。自分で作れるものが多ければ多いほど、生活の自由度が増すような印象がある。大学時代、演劇の小道具を作っていたことがあったので、映画を見ながら、またああいうことをやりたいと思ってしまった。

映画を見ながら、森博嗣を連想した。作家の森博嗣も、かつては建築を専門にする大学教授であったし、今は大学を辞め、広大な敷地を持つ家の庭に線路を引いて鉄道を走らせたりしている。森博嗣はきっと、自宅にカメラを入れることはないだろうが(笑)、修一と近い雰囲気を感じた。

こんな風に年老いたいものだ、と感じさせられる作品だった。

「人生フルーツ」を観に行ってきました

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)