黒夜行

>>2017年05月15日

かがみの孤城(辻村深月)



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引きこもっている時期は、やっぱり辛かった。

今となっては、当時のことは正確には思い出せない。もう10年以上も前の話だ。何をしていたのか、何をしていなかったのか。どう感じていたのか。何を感じまいとしていたのか。ちゃんとは思い出せない。

けれど、キツかったなぁ、という漠然とした記憶だけは、今の自分の内側にざらっと残っている。

部屋から出ないわけではなかった。すぐ近くにあったコンビニには行っていたし、ちょっと部屋の外に出るぐらいのことはあった。けど、その時期の僕の日常に決定的になかったものは、誰かとの関わり合いだ。

親元を離れ一人暮らしをしている時だったし、酷いやり方で心配してやってきた家族を追い返したので、生活の中で誰かと関わることがなかった。コンビニで会計をする、ぐらいが唯一の関わりだったかもしれない。当然話す相手もいない。当時はまだSNSもそこまで普及していなかったはずだし、どんな形であれネット上で関わりを持つ人というのも存在しなかった。

ずっと一人だった。一日中テレビを見て、頭はグルグルしたままで、よく分からないタイミングで眠りについた。結局そんな時間を一年ぐらい過ごしていたのだと思う。

自分で選んだことだ。誰のせいでもない。引きこもって誰にも会わないと決めたのは僕自身で、誰が何をしたわけでもない。当時はたぶん、親のせいにしていたと思うけど、今ではそうではないことは分かっている。ただ、自分が弱いだけの話だ。

『だから、こころは学校に、行かない。
殺されて、しまうかもしれないから。』

僕も、社会に出なかった。
殺されて、しまうかもしれないから。
社会に出てサラリーマンになって働いたら、絶対に死ぬと、あの頃確信していた。
今でも、その確信は僕の中にくすぶったまま残っている。

みんなが当たり前に出来ることが出来ない。
そのことは、昔の僕を大いに苦しめた。
自分の内側にある、どうにもならない感情に突き動かされるようにして行動するしかないのだけど、しかしその行動が周りとあまりに違いすぎて浮き上がってしまう。
それをどうすればいいのか、僕にはよく分からなかった。

今では昔に比べれば格段にうまく対処できるようになった。
それでもそれは、色んな要素がうまい具合に絡まり合って、たまたまそうなっただけだ。
僕の人生には、そういう状況にうまく対処できない自分、という可能性もありえた。
だから、
居場所がないことに苦しんでいる人の物語に心を掴まれる。

内容に入ろうと思います。
安西こころは、中学に上がってすぐの4月にはもう、中学校に通えなくなってしまった。朝、母親のため息を聞き、昼に普段聞くことのない移動スーパーのアナウンスを聞き、カーテンを閉めた部屋で息を殺すように日々を過ごしている。母親が見つけてきた「心の教室」というフリースクールにも足が向かない。見学に行った時には、喜多嶋と名札にあった女性が凄く親切にしてくれたのに。
同じクラスの真田美織がすべての原因だ。彼女のせいで、こころは学校に行けなくなった。しかし、担任の伊田は、そのことを全然理解しない。真田のような明るくて自己主張が出来る子が、先生も好きだからだ。
同じクラスに、転校生がいた。東条萌というハーフのような整った顔立ちをした女の子で、家が近いからという理由でこころの隣の席になった。けれど、真田から何か言われたのだろう。こころは、東条さんから無視されるようになってしまった。
今も部屋の中で一人でいると、ポストに何か投函された音がする。東条さんが配布物なんかを届けてくれるのだ。けれど、チャイムを鳴らしてこころに会おうとすることはない。
ある日のこと。こころの部屋にある大きな姿見が光った。そしてそこに、可愛らしい服を着ているのに狼の被り物をした少女が映った。
そして、その少女(のちに“おおかみさま”と呼ばれていることを知る)に引きずり込まれるようにして、
こころは、城にやってきた。
そこには、こころの他にも6人の子どもたちが集められていた。そして“おおかみさま”から、この謎の城について説明を受ける。
この城は、3月30日まで使える。
朝9時から午後5時までこの城にいられる。
この城には“願いの鍵”があり、その鍵を見つけた者はどんな願いでも一つだけ叶えることが出来る。
願いを叶えることが出来るのは、一人だけ。
自己紹介をして全員中学生だということが分かった彼らは、薄々気づいていた。9時から5時までしか空いていない城にいつもやってこれるということは…。
ここにいるみんな、学校に通ってないんじゃないだろうか…。
というような話です。

久々に辻村深月の作品を読みましたけど、辻村深月らしい作品だなという感じがしました。周りの“当たり前”に馴染めないでいる感じとか、そういう世界との関わり方の“戸惑い”みたいなものが物語を動かしていく原動力になっていくようなところはさすがだなという感じがします。

ただ個人的には不満もある。これは、僕が持っている辻村深月に対するイメージの問題だからこの作品に付随する欠点では全然ないのだけど、やはり僕はどうしても辻村深月には“悪意”を期待してしまう。

辻村深月は、“悪意”の描き方が抜群だと感じる。本書の中にも、それがないわけではない。担任の伊田を見限るこころの思考や、物語の終わり付近で垣間見える、ある人物が抱く真田に対する感情など、断片的に“悪意”が散りばめられる。

しかし、その“悪意”が、物語の中心になることはない。あくまでも、物語を装飾するという役割がメインだ。そこにどうしても不満を感じてしまう。あの冴え渡るような“悪意”こそが、辻村深月の真骨頂だと思っている僕には、その点が少し物足りなかったかなとは思う。

とはいえ、居場所を無くした者たちの物語として、本書はとても良いと思う。

鏡を通して城にやってくることが出来る7人は、それぞれがそれぞれの事情を抱えている。派手な女子、アキ。イケメンなリオン。声優のような声をしたフウカ。ゲーム好きのマサムネ。「ハリー・ポッター」のロンに似たスバル。小太りのウレシノ。みんな最低限の情報だけを共有しながら、少しずつ仲良くなっていく。お互いに、きっと学校に行っていないのだろう、という思いを共有しているが故に、近づきやすいという側面もあった。自分がどこの誰で、というような情報で判断される場ではない、ということも良かった。彼らは、城の中では、一人の中学生として相対することが出来た。

そして次第に、城は彼らにとっての居場所になっていく。現実の世界で居場所を持てないが故に、城という場が大事な存在になっていくのだ。

しかし、ここでは書かないが、城にはいくつかのルールがあり、そのルールが彼らを悩ませることになる。城だからこそ生まれた関係性が、継続されないかもしれない…。その不安定な条件を理解しながら、それでも彼らは、居場所となった城から離れられないし、お互いの存在が大事に感じられるようになっていく。

傷ついた者同士が、城という特殊な環境であるが故に近づき、様々なものを共有することができる、そういう過程がうまく描かれていると思う。

またこの作品は、城という設定を中心にした物語もなかなか面白く出来ている。城にいる面々は、少しずつ違和感を覚えるようになっていく。その違和感は、本書の読みどころの一つだ。城がどんな理屈で成り立っているのか、ということが、現実での彼らの結びつきにも大きな影響を及ぼすことになり、さらにそれが、喜多嶋というフリースクールの先生を中心とした希望へと繋がっていくことになる。

なるべく興を削がないように曖昧にぼかしながら書いたが、特殊な設定が物語全体の希望を生んでいる、という意味で、全体の構成がよく出来ているなと思う。ただし、本書をミステリだと思って読むのは止めた方がいいと思う。城の謎は確かに一つの読みどころではあるのだけど、それが物語の中心というわけではない。あくまでも中心は、傷ついた者たちが恐る恐る人間関係を積み上げていく過程だ。城という非現実的な世界での経験が、現実の彼らをどう変えていくのか。そこをしっかりと読んで欲しいと思う。

辻村深月「かがみの孤城」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)