黒夜行

>>2017年04月01日

不発弾(相場英雄)

もし自分がバブルの時代に生きていたら、馬鹿げた投資に足を突っ込んでいただろうか、と考える。
現代から見れば、バブルの時代がいかにイカれていたかというのは誰だって分かる。しかし、「バブル」などという名前さえ付いておらず、土地の値段や株価は上がり続けるのが当たり前だ、と誰もが思っていた時代に生きていたら、どうだっただろう、と思うことがある。

今の自分の性格であれば、きっとその時代に生きていても、きっと投資には手を出していなかったように思う。絶対、とは言い切れないが、「自分がきちんとルールを把握することが出来ない事柄に手を出すことが怖い」「周りが盛り上がれば盛り上がるほど、それから離れようと意識する」という僕自身の性格を考えれば、アホみたいな投資に手を出して借金を抱えるようなことはきっとなかったに違いない。

そんなことを考えながら、じゃあ今はどうだろう?と考える。時代には、リアルタイムで名前が付くこともあれば、その時期を過ぎてから名前が付くこともある。先程も書いたように、「バブル」というのはたぶん、「バブル」だった時期の呼称というよりは、「バブルが弾けた」というような形で、「バブル」の時期の後に名前が定着したようなイメージがある。

今僕たちが生きているこの時代も、過ぎてしまえば何らかの特徴的な名前が付くような、そんな時代であるかもしれない。その時代を生きている人には気づかない、後から振り返ってみればみんな何をしてたんだろうね、と感じるような、そんな「狂乱」の中に僕らは生きているのかもしれない。そうである可能性は、どんな時代に生きる人にもありえるのだ。

世の中がそうだと言っているからと言って、その事柄の正しさが裏付けられる、なんていうことはありえない。僕らも、知らず知らずの内に「不発弾」を抱えてしまわないように、注意しなくてはいけないと思う。

内容に入ろうと思います。
警視庁捜査二課は、経済犯や知能犯を扱う部署だ。そこで管理官を務めるキャリアの小堀は、新聞で取り上げられている三田電機に違和感を覚える。三田電機は、創業から100年以上の歴史を持つ老舗企業で、洗濯機などの白物家電や半導体製造、あるいは原子力発電所など多岐に渡る事業を手がける、日本屈指の総合電機メーカーである。その三田電機では先ごろ、1500億円を超える“不適切会計”が発覚したばかりだ。小堀は、10年間で1500億円というのは、“不適切会計”ではなく、立派な“粉飾”ではないかと感じている。年上の部下であり、捜査二課のエース捜査員でもある今井巡査部長と共に、三田電機について調べてみることにした。
その過程で掴んだのが、古賀遼という男の存在だ。何者なのかははっきりしないが、古河遼について調べ始めると、彼が関わった企業や信金などで様々なトラブルが起こっていたことが判明する。古賀は北九州の炭鉱町出身だが、その地元信金の重鎮が、「不発弾」という謎の言葉を遺して自殺していることも判明した。小堀らは、古賀を追うことに決めた。
古賀遼こと古賀良樹は、証券会社に勤めていた先輩の話を聞き状況、中堅どころの証券会社の場立ち要員となった。立会場にて手振りで売買を成立させる仕事を長く続けた。そこから縁あって別のステージへと進むことが出来た古賀は、日本経済の発展と凋落に合わせながら、その時々で企業会計の世界で汚れ仕事を引き受けてきた。
まさに古賀こそが、日本中に「不発弾」を埋め込んだ張本人と言ってもいいのだ…。
というような話です。

なかなか面白い作品でした。扱われているテーマはちょっと難しい部分を含んでいて、その点はやっぱり理解がかなり困難です。そもそも短い描写で説明しきれる話ではないでしょう。その難しい部分をどうしてもきちんと理解しないまま読み進めるしかない、という点が唯一難点と言えば難点ですけど、全体的に非常に面白く読ませる作品だと感じました。

本書で描かれる三田電機は、明らかに東芝がモデルになっています。1500億円という巨額の損失隠しが何故行われたのか、そしてそれが何故隠されたままで在り続けたのか、そしてなぜ「粉飾」ではなく「不適切会計」と言い換えられたのか…。もちろん本書は小説であり、現実をそのまま引き写したものではない、という点は注意しなければなりませんが、なるほど、あのニュースの背景にはこんなことがあったのか…と驚かされる思いがしました。

本書を読むと、東芝の“不適切会計”が氷山の一角であるということがよくわかります。本書のタイトル通り、「不発弾」が日本中に眠っていて、いつどこでそれが爆発するのか、ほとんどの人が知らないままでいる。細かな部分まで完全に理解できているわけではないのだけど、本書を読む限り、日本が直面している状況は非常に深刻なのではないか、と感じざるを得ません。

「金」というのは何なのだろうな、と考えさせられます。

僕はいつも、「金持ちにはなりたくない」という発言をしています。もちろん、生活に困るような状況に陥りたくはありませんが、日常の生活がほどほどに過ごせるお金があれば、それ以上のお金を強く望む気持ちは特にありません。実際僕の年収は、同世代の平均年収と比べて大分低いと思いますけど、とりあえず生活していく分には特に不満もないので、あとちょっとあると楽だな、とは思いますけど、無闇矢鱈にお金が欲しいとは思いません。何らかの仕事や成果に対する対価としてもらえるのなら、仕事や成果を評価してもらえた、という側面もプラスされるのでありがたいのだけど、何の意味もなくポンと大金が目の前に現れたら、それを喜べるのかどうか、ちょっと分かりません。

というのも、お金持ちになればなるほど、お金を奪われるリスクに対する対処をしなければならないと思ってしまうからです。その余計な心配をしたり、奪われないために様々な知識を身につけたりする労力が、お金を得るというプラスと見合うのかどうか、僕はいつも疑問に思ってしまいます。

本書で描かれる人々も、結局のところ、大金を扱うだけの知識や技量が足りない人間が多い、ということなのだと思います。古賀を含めた、盤面全体を見渡せるごく一部の人間だけがその能力を有し、それ以外の人間は踊らされているだけ。マネーゲームというのは結局そういうものなのだろうなと思ってしまいます。

金持ちになりたいという人は、なればなるほど金を奪われるリスクが高まる、ということを意識出来ていないのではないか。僕にはそんな風に思えることがあります。

それ自体は、まあいいでしょう。リスクを見なくて困った事態に陥るのが当人であるなら、問題ありません。ただ、本書で描かれているのは、リスクを無視して踏み出したことで巨額の損失を被った場合、その損失を自分以外の何かのせいにする、という企業のあり方です。こういうあり方は、改められなければならないだろうな、と感じます。

僕らが普通に生きている限り見えることのない現実を見事に切り取った作品だと思います。

相場英雄「不発弾」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)