仁術先生(渡辺淳一)
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内容に入ろうと思います。
本書は、大学病院で講師として医局の中心的立場にありながら、突然下町の診療所に移ってしまった円乗寺優先生の、下町での診療を描いた作品です。
「梅寿司の夫婦」
円乗寺先生のいるK診療所に、ある青年がこそこそとやってくる。最初何かと思ったが、梅毒なのだという。であればその態度も分からなくもない。この時代は、梅毒であるとなれば忌避されてしまう恐れもあった。そんな青年と、寿司屋で会った。寿司屋の職人なのである。やがて円乗寺先生に気を許すようになった青年はある悩みを打ち明けるが…。
「特効薬」
戸浪さんの奥さんが倒れたというので自宅まで診療に向かう円乗寺先生。旦那は慌てふためいている。奥さんは身をよじりながら、衣服をはだけさせながら苦しがるが、円乗寺先生は一向に何もしない。注射の一本も打たない円乗寺先生に旦那はキレてしまうのだが…。
「健保ききません」
結婚したものの奥さんとうまくセックスが出来ないとやってきた大石という青年。イチモツは立派なのだが、いざという時にどうもうまくいかないのだとか。円乗寺先生は、保険はきかないけどいいか、と言って、看護婦と共にとある治療をするのだが…。
「不定愁訴」
K診療所に新たにやってきた若手医師に、円乗寺先生は教訓を伝えようとしている。円乗寺先生は、「女を見たら…と聞かれてどう答えるか?」と若手医師に問いかける。そしてそこから、円乗寺先生がかつて経験した、村石という女性患者の苦い診療の記憶を語り始める…。
「腰抜けの二人」
これは、円乗寺先生の話ではない。
ある医師の元に、毎年「中津川三郎」という男から年賀状が届く。そこには「腰抜け男」と書かれている。これは、二人の間だけで通用する符丁だ。
手術も碌に出来ない新人でありながら、北海道の炭鉱近くの診療所へ行かされることになった医師は、一人でなんでもこなさなくてはならない不安を抱えつつ、比較的穏やかな日々を過ごしていた。しかしある日、炭鉱落盤事故があり、患者が運び込まれてくることになったのだが…。
というような話です。
なかなか面白かったです。「医療ミステリー」というようなガチガチっとしたものではなくて、病院のおっちゃんと下町風情がうまく絡み合って、すすすっと読める感じに仕上がっています。
医師というのは、知識や技能がまず連想されるけど、なによりもコミュニケーションが大事なんだろうなと改めて感じさせてくれる作品でした。どの話も、知識や技能はさほど必要とされないけど、患者とどう接し、どうコミュニケーションを取っていくのかという部分はとても重要になってくる話が多かったなと思います。そこに、下町の人情がうまく混ざり込んで、良い話にまとまっているという感じです。
渡辺淳一「仁術先生」