アイデア大全 想像力とブレイクスルーを生み出す42のツール(読書猿)
style="display:block"
data-ad-client="ca-pub-6432176788840966"
data-ad-slot="9019976374"
data-ad-format="auto">
非常に面白い本だ。
本書はタイトルの通り、「どうやったらアイデアを生み出せるのかの方法を示す本」だ。分かりやすく言えば、How To本だ。しかし、ただそれだけの本ではない。著者のまえがきから引用しよう。
『本書は、<新しい考え>を生み出す方法を集めた道具箱であり、発送法と呼ばれるテクニックが知的営為の中でどんな位置を占めるかを示した案内書である。
このために、本書は実用書であると同時に人文書であることを目指している。』
なるほど、非常に面白い切り口だ、と感じた。著者は、文学から数学・科学、哲学や宗教など、かなり博覧強記の人物だ。その知識をもって、「いかにしてアイデアは生まれるのか」を、一つの学問として縱橫に様々なジャンルを横断しようと企んでいる。
『これまでにない新しい考え(アイデア)を必要としている人は、できるのはわずかであったとしても現状を、大げさに言えば世界を変える必要に迫られている。そのために世界に対する自身のアプローチを変える必要にも直面している。
この場合、必要なのは、ただ<どのようにすべきか>についての手順だけでなく、そのやり方が<どこに位置づけられ、何に向かっているのか>を教える案内図であろう。それゆえに本書は、発送法(アイデアを生む方法)のノウハウだけでなく、その底にある心理プロセスや、方法が生まれてきた歴史あるいは思想的背景にまで踏み込んでいる』
本書を読んで、この点についてなるほどと感じた。何故その考え方が生まれたのか、という背景を一緒に知ることで、他の発想法との共通点も見えやすくなり、考える上で特にどの点に着目しなければならないのかという焦点を合わせやすいように感じられた。また、古来から様々な形で伝えられてきた方法なのか、近代になって生まれた方法なのか、というようなことを知ることで、それまで「発想法」という括りと捉えていなかったもの(例えば「占い」)などが、実は「発想法」の文脈で捉えることが出来るのだ、ということを学んだりもした。
著者は「人文学」というものを、こんな風に捉えている。
『この人文学を支えるのは、人間についての次のような強い確信である。すなわち、人の営みや信じるもの、社会の成り立ちがどれだけ変わろうとも、人が人である限り何か変わらぬものがある、という確信の上に人文学は成立する。
この確信があるからこそ、たとえば何百年も昔の人が書き残した古典にも真剣に向かい合うことができ、何かしら価値のあるものを受け取るかもしれないと期待することができる』
「人が人であるかぎり変わらぬものがある、という確信」というのは、人がいかに発想するか、という点においても同じだ。古今東西様々な人間が様々なことを考えてきた。その過程で少しずつ、「いかに考えるか」という知見も蓄積されていった。僕たちもまた、かつての人間と同じような形で何かを考えている。そこに学ぶ、という姿勢を持つことが、人文書でもある本書を読む上での一つの姿勢になるのではないかと思う。
著者は、本書を読む上での注意点を、こんな風に書いている。
『発想法とは、新しい考え(アイデア)を生み出す方法であるが、アイデアを評価するにはあらかじめ用意しておいた正解と比較する方法がとれない。というのも正解をあらかじめ用意しておけるのであれば、新しいとはいえず、アイデアでなくなってしまうからだ。
このことは、文章理解や問題解決に比べて、発想法の実験的研究が遅れをとった原因でもある。
アイデアとそれを生み出す技術の評価は、結局のところ、実際にアイデアを生み出し実践に投じてみて、うまくいくかどうかではかるしかない。』
本書では42の方法が紹介されているが、僕は実際にそのいくつかを試そうと思う。アイデアを考えなければならない対象は常時いくつかあり、それらについて実践してみるつもりだ。
本書で扱われている42の方法についてはここでは触れない。実践が難しそうだと感じられる方法もあるが、難易度が5段階で表示されているので分かりやすい。42それぞれの方法について、「具体的な手法」と「その手法を使った例」が提示され、さらにその後でその手法の背景が説明される、という流れで構成されている。縦横無尽に様々なジャンルを駆け巡りながら、「アイデアを生む」というのを実に広く捉え、可能な限りの手法を提示している。
その多くに共通しているのが、「自分が持っている先入観をどう乗り越えるか」という考え方だ。発想するためには、先入観を乗り越えなければならない。強制的に乗り越える方法や、無意識的に乗り越える環境を整える方法など、具体的なやり方は様々だが、先入観を乗り越えるために何をするか、という観点で本書で扱われている手法を捉えても面白いと思う。
本書とはまるで関係ないが、「発想法」に関して僕なりの考え方を書いて終わりにしようと思う。
「アイデア」にしても「発想」にしても、最終的にそれは何らかの形あるものとして出力される。「言葉」だったり「絵」だったり「デザイン」だったりだ。そして僕が常に思っていることは、どれだけ発想法を磨こうとも、その出力機能である「言葉」「絵」「デザイン」の能力が低ければ、何も出力出来ないだろう、ということだ。
だからこそ、発想法を磨く以前にまず、自分が出力したいと思う形を徹底的に磨くしかないと思う。企画を考えるなら「言葉」を、曲を作るなら「音楽」を、写真を撮るなら「写真」を磨かなければならない。
発想法と出力形は両輪だ。どちらかだけ欠けていてもダメだ。僕は、文章を書き、また企画を考える上で、「言葉」の力を大事にしてきた。僕は今、自分の内側にあるものを「言葉」という形で出力する能力には長けていると自覚している。そこに「発想法」という考え方を乗せて、自分の内側に何かが生まれる環境を整えれば、何かが出力されてくるだろう。
あくまでも僕の考えだが、発想法だけではなく出力形を磨く意識は持つべきだろうと思う。
読書猿「アイデア大全 想像力とブレイクスルーを生み出す42のツール」