タイニータイニーハッピー
内容に入ろうと思います。
本書は、「タイニー・タイニー・ハッピー」(通称タニハピ)という大型ショッピングセンターを舞台にした、8編の短編が収録された連作短編集です。
「ドッグイヤー」
たまたまタニハピの名付け親になった北川は、タニハピの本社勤めだったのだけど、急な転勤で、妻の美咲もメガネ屋で働いているこのタニハピに配属になった。同期の川野は新しく入ってきた小山さんを気に入ったようだが、多少言動にハラハラさせられるところもある。妻の美咲は料理が巧く、また同じくタニハピ内で働くゆうとジュンジュンという二人と仲がいい。結婚生活は、巧くいっていると思う。妻が雑誌をドッグイヤーしてしまうことにちょっとイラッとしたりというような、些細なすれ違いはあるけれども。
「ガトーショコラ」
結城(ゆう)は、みぃちゃん(北川)とジュンジュン(森崎)と仲がいい。よく三人でいるのだけど、ジュンジュンが既婚者であるみぃちゃんのことを好きだってことにはもちろん気づいている。結城は、カズ君という彼氏がいるのだけど、もう長いこと疎遠になっている。昔は同じ都心で働いていたのだけど、自分の異動によって物理的な距離が精神的な距離になってきてしまっている。
「ウォータープルーフ」
川野は、しばらく部屋に妹の智佳を泊めることになった。彼氏と喧嘩か何かしたらしい。そのきっかけが、智佳の彼氏の弟の彼女の妊娠だというからよくわからない話で、川野はなんだかんだでそっちのトラブルに多少巻き込まれていく。気まずいやり取りのあった小山とはなんだかまだしこりが残っている感じもあるし。
「ウェッジソール」
笑子の職場は地下でもないのに圏外だ。メールチェックするのにちょっと出なければならない。でも、したところで、純一君(森崎)からメールが来ているわけでもない。
ちょっとしたきっかけで、純一君と付き合うことになった。自分から積極的に動いたのは初めてだ。でも、純一君は、笑子が純一君を好きなほどには笑子のことを好きではない。それははっきりと分かる。でも、仕方ない。
親友の加奈子とはよく会う。高校時代はファンクラブもあったほどなのに、本人はクールな感じで凄くいい。
「プッシーキャット」
相原(カズ)は、向かいにある自分の店と同じブランドの別レーベルの店の女の子から声を掛けられて一緒にランチをする。名前が思い出せない。下の名前は若菜なんだけど。婚約者の人と同棲してるのは残念ですと、凄く分かりやすく誘惑される。店内では、男を惚れさせることが趣味の女として有名なんだそうだ。
しばらく疎遠になってしまった香織(結城)とこうしてまた距離を縮められたのはよかった。香織が働いているタニハピに異動希望を出したのだ。自分にしてはなかなかの行動力だったと思っている。
「フェードアウト」
小山は、物事をはっきり言ってしまう質だ。曖昧なままにしたり、なあなあな感じというのは好きではない。そういう性格のせいで、前の部署から追い出される羽目になったのだけど、でも自分は間違ったことをしているわけではない、と思っている。
女子会があるという話を聞いて、行ってみることにした。なんだか違和感ばかりが目に付く飲み会で、しばらくしてようやく、そういうことかと分かった。
姉から連絡がある。彼氏の寛人君とはどうなってるのか、というような話だ。正直、鬱陶しい。
「チャコールグレイ」
森崎は、笑ちゃん(笑子)と付き合っていて、罪悪感を覚える瞬間は結構多い。人妻の北ちゃん(北川)のことが好きだという自分は変わっていない。不毛だとは分かっているし、それをどうにかしようと笑ちゃんを利用させてもらっているという意識があるから、余計に。
笑ちゃんはいい子だと思う。ちょっと、親友の加奈子ちゃんに影響されすぎている部分はあるのだけど。加奈子ちゃんと笑ちゃんは、お互いにお互いのことを羨ましいと思っているようで、面白い。
ずっと使っていたメガネを壊してしまった。同じ色の在庫がなかなかなくて、でも森崎はどうしても自分にフィットしていた前と同じものにこだわりたかった。
「ワイルドフラワー」
北川は、旦那の出張に合わせて、冷蔵庫の中のものを処分してもらおうと、ゆうとカズ君を家に呼んだ。どうもぼーっとしているらしく、旦那さんがいなくて寂しいんですね、と言われてしまう。
翌日、一人で出かけてみるも、どうも体調が優れない。たまたま店で大学時代の同級生とばったり出会う。安藤さんは、結婚しているのにまだ働いているなんで凄いね、というような話をして、北川をモヤモヤさせる。
出張から早く戻ってきた旦那は、フラワーガーデンの担当をすることになったと言う。ワイルドフラワーっていうのは、種を植えればひとりでに育ってくれる植物のことだそうだ。
というような話です。
読み始めは、ちょっと地味な作品かなと思ったのですけど、全然そんなことありませんでした。凄く良い作品でした。いや、地味かどうかと聞かれれば、地味は地味なんですけど、なんていうか、あっさりしている作品という感じではなくて、読みはじめの印象以上になかなか骨太な作品でした。
とにかく、この作品の内容紹介はなかなか難しかったのです。一見さらっと内容紹介が出来そうに見えて、実はそうではない。自分で書いた内容紹介の文章を読んでも、作品の雰囲気をまったく表現できていませんからね。
それはどうしてそうなるのかと考えてみると、作中でズバッと描かれていない部分こそがこの作品の肝だからだろうなぁ、という風に僕は解釈しました。
僕は以前、生け花というのは花や葉を見せるものではなくて、花と花の間の隙間、葉と葉の間の空間、そういったものを見せるものなのだ、という話を聞いたことがあります(うろ覚えなんで、間違ってたらすいません)。
この作品も、まさにそういう隙間とか空間こそを描き出しているな、と強く感じました。人と人との間の空間を、ですね。
人間って複雑だし、凄く凸凹しているから、人と人との関係ってどうしてもぴったり合わなくて間に隙間が生まれる。いくら寄り添っていても、その間には必ず空間がある。どうしても届かない部分、どうしても分かり合えない部分、どうしても踏み込ませたくない部分。そういうものがどうしても人と人との間には残ってしまう。
そういう隙間を本書は凄く丁寧にすくっていく。すくっていくというか、そっと撫でていく、という感じに近いかなぁ。隙間って、ドーナツの穴のように、物質として存在しているわけじゃないから、直接触れることも出来ないし、ただそれだけを描くことって出来ない。だから、それをしっかり描くのってホント難しいと思うんだけど、本書ではそういう隙間を、パントマイマーが何もない空間に何かの存在を感じさせるかのように、そっと撫でるようにして顕にしていく。それが本当に巧いなと思いました。
そういう、はっきりと明確に捉えられるわけではない隙間こそがこの作品の要であると僕は感じるからこそ、内容紹介をすんなりするのは難しかったんだろうなぁ、と僕は思います。
さっき、地味な物語だ、というようなことを書いたけど、本当にそうで、主人公たちは、ほんの少しだけ変わる。決して劇的に変わるわけじゃない。誰かとの間の隙間がほんのちょっとだけ縮まる、それぐらいの変化しかない。でもその『ほんの少し加減』が、本当にリアルっぽくていいなと思います。
日常生きていると、そこまでガツンと大きく変化を促すような出来事って、そうそうはない。ごくごく普通に平凡な生き方をしていれば、昨日と今日と明日に特別な差を感じられない毎日を過ごすことなんて、ごく当たり前のことなんだろうと思う。むしろそれが、僕達にとっては『日常』の意味なのかもしれない、とも思う。
だから、劇的な変化が訪れるわけではないこの物語は、僕達の物語だ、という風に感じることが出来るのではないかと思う。
凄いなと思うのは、本書でも昨日と今日と明日が大差のない日常が描かれているのに、そこに『ほんの僅かな変化』を描き出せていることだ。劇的な変化を描く方が、たぶんやりやすいだろうと思う。本書のように、ほんのちょっとだけ変わった、というような描写をするのは凄く難しいだろうなぁ、と思います。ちょっとした出来事、ちょっとした会話、ちょっとした揺らぎ。そういうものを丁寧にすくいとって物語に定着させるのが巧いと思いました。
僕が特に好きな話は、「ウォータープルーフ」と「フェードアウト」です。
「ウォータープルーフ」の方は、女性ってみな演出家だよなぁ、とつくづく感じさせる作品でした。全員が全員こういう発想をしているわけではないのでしょうけども。自分をどう見せるか、という点に関しては、そりゃあ男だってそれなりに考えてるのかもだけど、やっぱり女性には敵わないんじゃないかな。男は言われなければ気づかない、女性の戦いみたいなものを垣間見せてくれる作品で、おー怖っ!
「フェードアウト」は、小山さんの話で、「ドッグイヤー」とセットになる話だと思うんだけど、外から見た小山さんと内から見た小山さんの違いが非常に面白い。「ドッグイヤー」での小山さんは、ただ空気が読めないだけの女性だと思ってたんだけど、「フェードアウト」を読むと印象が一変する。その印象がまったく違う感じが、凄くいい。
しかし小山さんってどう評価したらいいのか難しいなぁ。僕は小説に出てくる女性って、この人は嫌い、この人は好き、この人には興味ない、っていうのが割と判断できるんだけど、小山さんはその判断が出来ない。実際近くにいてしばらく一緒にいてみないと、ちょっと判断できないかもしれない。そういう印象を残す女性ってかなり珍しいから、凄く気になる存在ではある。
でも小山さんの、女性の世界の中からは浮いてしまう感というのは凄く好き。潔いし、意思が強いし、論理的で真面目なところも凄くいいなぁと思う。絶対に女性の世界では受け入れがたい存在だろうけど、僕はそういう人の方が気になってしまうのだなぁ。
市井に生きる、どこにでもいるような普通の人達の些細な成長を切り取った作品です。是非読んでみてください。
飛鳥井千砂「タイニー・タイニー・ハッピー」
本書は、「タイニー・タイニー・ハッピー」(通称タニハピ)という大型ショッピングセンターを舞台にした、8編の短編が収録された連作短編集です。
「ドッグイヤー」
たまたまタニハピの名付け親になった北川は、タニハピの本社勤めだったのだけど、急な転勤で、妻の美咲もメガネ屋で働いているこのタニハピに配属になった。同期の川野は新しく入ってきた小山さんを気に入ったようだが、多少言動にハラハラさせられるところもある。妻の美咲は料理が巧く、また同じくタニハピ内で働くゆうとジュンジュンという二人と仲がいい。結婚生活は、巧くいっていると思う。妻が雑誌をドッグイヤーしてしまうことにちょっとイラッとしたりというような、些細なすれ違いはあるけれども。
「ガトーショコラ」
結城(ゆう)は、みぃちゃん(北川)とジュンジュン(森崎)と仲がいい。よく三人でいるのだけど、ジュンジュンが既婚者であるみぃちゃんのことを好きだってことにはもちろん気づいている。結城は、カズ君という彼氏がいるのだけど、もう長いこと疎遠になっている。昔は同じ都心で働いていたのだけど、自分の異動によって物理的な距離が精神的な距離になってきてしまっている。
「ウォータープルーフ」
川野は、しばらく部屋に妹の智佳を泊めることになった。彼氏と喧嘩か何かしたらしい。そのきっかけが、智佳の彼氏の弟の彼女の妊娠だというからよくわからない話で、川野はなんだかんだでそっちのトラブルに多少巻き込まれていく。気まずいやり取りのあった小山とはなんだかまだしこりが残っている感じもあるし。
「ウェッジソール」
笑子の職場は地下でもないのに圏外だ。メールチェックするのにちょっと出なければならない。でも、したところで、純一君(森崎)からメールが来ているわけでもない。
ちょっとしたきっかけで、純一君と付き合うことになった。自分から積極的に動いたのは初めてだ。でも、純一君は、笑子が純一君を好きなほどには笑子のことを好きではない。それははっきりと分かる。でも、仕方ない。
親友の加奈子とはよく会う。高校時代はファンクラブもあったほどなのに、本人はクールな感じで凄くいい。
「プッシーキャット」
相原(カズ)は、向かいにある自分の店と同じブランドの別レーベルの店の女の子から声を掛けられて一緒にランチをする。名前が思い出せない。下の名前は若菜なんだけど。婚約者の人と同棲してるのは残念ですと、凄く分かりやすく誘惑される。店内では、男を惚れさせることが趣味の女として有名なんだそうだ。
しばらく疎遠になってしまった香織(結城)とこうしてまた距離を縮められたのはよかった。香織が働いているタニハピに異動希望を出したのだ。自分にしてはなかなかの行動力だったと思っている。
「フェードアウト」
小山は、物事をはっきり言ってしまう質だ。曖昧なままにしたり、なあなあな感じというのは好きではない。そういう性格のせいで、前の部署から追い出される羽目になったのだけど、でも自分は間違ったことをしているわけではない、と思っている。
女子会があるという話を聞いて、行ってみることにした。なんだか違和感ばかりが目に付く飲み会で、しばらくしてようやく、そういうことかと分かった。
姉から連絡がある。彼氏の寛人君とはどうなってるのか、というような話だ。正直、鬱陶しい。
「チャコールグレイ」
森崎は、笑ちゃん(笑子)と付き合っていて、罪悪感を覚える瞬間は結構多い。人妻の北ちゃん(北川)のことが好きだという自分は変わっていない。不毛だとは分かっているし、それをどうにかしようと笑ちゃんを利用させてもらっているという意識があるから、余計に。
笑ちゃんはいい子だと思う。ちょっと、親友の加奈子ちゃんに影響されすぎている部分はあるのだけど。加奈子ちゃんと笑ちゃんは、お互いにお互いのことを羨ましいと思っているようで、面白い。
ずっと使っていたメガネを壊してしまった。同じ色の在庫がなかなかなくて、でも森崎はどうしても自分にフィットしていた前と同じものにこだわりたかった。
「ワイルドフラワー」
北川は、旦那の出張に合わせて、冷蔵庫の中のものを処分してもらおうと、ゆうとカズ君を家に呼んだ。どうもぼーっとしているらしく、旦那さんがいなくて寂しいんですね、と言われてしまう。
翌日、一人で出かけてみるも、どうも体調が優れない。たまたま店で大学時代の同級生とばったり出会う。安藤さんは、結婚しているのにまだ働いているなんで凄いね、というような話をして、北川をモヤモヤさせる。
出張から早く戻ってきた旦那は、フラワーガーデンの担当をすることになったと言う。ワイルドフラワーっていうのは、種を植えればひとりでに育ってくれる植物のことだそうだ。
というような話です。
読み始めは、ちょっと地味な作品かなと思ったのですけど、全然そんなことありませんでした。凄く良い作品でした。いや、地味かどうかと聞かれれば、地味は地味なんですけど、なんていうか、あっさりしている作品という感じではなくて、読みはじめの印象以上になかなか骨太な作品でした。
とにかく、この作品の内容紹介はなかなか難しかったのです。一見さらっと内容紹介が出来そうに見えて、実はそうではない。自分で書いた内容紹介の文章を読んでも、作品の雰囲気をまったく表現できていませんからね。
それはどうしてそうなるのかと考えてみると、作中でズバッと描かれていない部分こそがこの作品の肝だからだろうなぁ、という風に僕は解釈しました。
僕は以前、生け花というのは花や葉を見せるものではなくて、花と花の間の隙間、葉と葉の間の空間、そういったものを見せるものなのだ、という話を聞いたことがあります(うろ覚えなんで、間違ってたらすいません)。
この作品も、まさにそういう隙間とか空間こそを描き出しているな、と強く感じました。人と人との間の空間を、ですね。
人間って複雑だし、凄く凸凹しているから、人と人との関係ってどうしてもぴったり合わなくて間に隙間が生まれる。いくら寄り添っていても、その間には必ず空間がある。どうしても届かない部分、どうしても分かり合えない部分、どうしても踏み込ませたくない部分。そういうものがどうしても人と人との間には残ってしまう。
そういう隙間を本書は凄く丁寧にすくっていく。すくっていくというか、そっと撫でていく、という感じに近いかなぁ。隙間って、ドーナツの穴のように、物質として存在しているわけじゃないから、直接触れることも出来ないし、ただそれだけを描くことって出来ない。だから、それをしっかり描くのってホント難しいと思うんだけど、本書ではそういう隙間を、パントマイマーが何もない空間に何かの存在を感じさせるかのように、そっと撫でるようにして顕にしていく。それが本当に巧いなと思いました。
そういう、はっきりと明確に捉えられるわけではない隙間こそがこの作品の要であると僕は感じるからこそ、内容紹介をすんなりするのは難しかったんだろうなぁ、と僕は思います。
さっき、地味な物語だ、というようなことを書いたけど、本当にそうで、主人公たちは、ほんの少しだけ変わる。決して劇的に変わるわけじゃない。誰かとの間の隙間がほんのちょっとだけ縮まる、それぐらいの変化しかない。でもその『ほんの少し加減』が、本当にリアルっぽくていいなと思います。
日常生きていると、そこまでガツンと大きく変化を促すような出来事って、そうそうはない。ごくごく普通に平凡な生き方をしていれば、昨日と今日と明日に特別な差を感じられない毎日を過ごすことなんて、ごく当たり前のことなんだろうと思う。むしろそれが、僕達にとっては『日常』の意味なのかもしれない、とも思う。
だから、劇的な変化が訪れるわけではないこの物語は、僕達の物語だ、という風に感じることが出来るのではないかと思う。
凄いなと思うのは、本書でも昨日と今日と明日が大差のない日常が描かれているのに、そこに『ほんの僅かな変化』を描き出せていることだ。劇的な変化を描く方が、たぶんやりやすいだろうと思う。本書のように、ほんのちょっとだけ変わった、というような描写をするのは凄く難しいだろうなぁ、と思います。ちょっとした出来事、ちょっとした会話、ちょっとした揺らぎ。そういうものを丁寧にすくいとって物語に定着させるのが巧いと思いました。
僕が特に好きな話は、「ウォータープルーフ」と「フェードアウト」です。
「ウォータープルーフ」の方は、女性ってみな演出家だよなぁ、とつくづく感じさせる作品でした。全員が全員こういう発想をしているわけではないのでしょうけども。自分をどう見せるか、という点に関しては、そりゃあ男だってそれなりに考えてるのかもだけど、やっぱり女性には敵わないんじゃないかな。男は言われなければ気づかない、女性の戦いみたいなものを垣間見せてくれる作品で、おー怖っ!
「フェードアウト」は、小山さんの話で、「ドッグイヤー」とセットになる話だと思うんだけど、外から見た小山さんと内から見た小山さんの違いが非常に面白い。「ドッグイヤー」での小山さんは、ただ空気が読めないだけの女性だと思ってたんだけど、「フェードアウト」を読むと印象が一変する。その印象がまったく違う感じが、凄くいい。
しかし小山さんってどう評価したらいいのか難しいなぁ。僕は小説に出てくる女性って、この人は嫌い、この人は好き、この人には興味ない、っていうのが割と判断できるんだけど、小山さんはその判断が出来ない。実際近くにいてしばらく一緒にいてみないと、ちょっと判断できないかもしれない。そういう印象を残す女性ってかなり珍しいから、凄く気になる存在ではある。
でも小山さんの、女性の世界の中からは浮いてしまう感というのは凄く好き。潔いし、意思が強いし、論理的で真面目なところも凄くいいなぁと思う。絶対に女性の世界では受け入れがたい存在だろうけど、僕はそういう人の方が気になってしまうのだなぁ。
市井に生きる、どこにでもいるような普通の人達の些細な成長を切り取った作品です。是非読んでみてください。
飛鳥井千砂「タイニー・タイニー・ハッピー」
<非婚>のすすめ(森永卓郎)
内容に入ろうと思います。
本書は、結婚するっていうのはある種のマインドコントロールされた結果の欲望なのだ、結婚しないでシングルを選択した方が、少なくとも今の日本では生きていくのにいいかもよ、というような内容の本です。
内容は4つの章に分かれていて、
第一章「第二の家族革命」 ここでは、大家族から核家族という家族形態の変化には、国策が絡んでいたんですよ、というような話が書かれる。
第二章「日本型恋愛と結婚の謎」 ここでは、日本における、結婚と恋愛とセックスの関係を分析しつつ、それがどう崩れていったことでシングル化が推し進んでいるのかが書かれる。
第三章「シングルライフの経済学」 ここでは、専業主婦のいる過程、共働きの過程、シングルの場合とについて、具体的なサンプルを用意して、税制的に、あるいは子育ての環境的に、どれが最も優遇されているのか、という話が書かれます。
第四章「非婚社会で何が変わるか」 ここでは、非婚化が進むことで社会がどんな風に変わる可能性があるのか、ということが描かれます
というような内容です。
僕は、第一章はかなり面白く読みました。戦時中と戦後の二回、家族革命と呼ぶ家族形態の大きな変化があった。戦時中は、とにかく産めよ増やせよで子供を5人生むようにと国が考えていて、それによって大家族という家族形態が生まれた(これが第一の家族革命)。しかしその後、日本の会社は、『家族手当』という、働いていない奥さんや子供にもお金を払うという世界でも珍しい給与体系を作り出した。そのため、家庭における子供の数は少ない方が望ましい。そこで、会社が助産婦さんを雇って、従業員に産児調節の指導をしていた、なんていう時期があったそうです。こうして、会社の都合によって子供の数が減らされたという経緯が第二の家族革命。
これらの二つの家族革命が、日本の家族のあり方、あるいは結婚観や少子化にどのような影響を与えていったのか、ということを分析している章で、なるほどこんなことがあったのか、とびっくりしました。特に、会社側の都合で核家族化が推し進められた、っていうのはなかなかビックリです。
でも、それ以降の章は、うーん、という感じでした。
第二章は正直、机上の空論というか、もし万が一それが正しいとしても、だからどうした、というような話が展開されているような気がしました。女性が読んだら、ちょっと不愉快かもしれない、というような内容です。
第三章は、具体例を出して細かく税制の話をしているんだけど、正直そこまで興味持てないなぁ、という感じでした。日本は一見すると専業主婦が優遇されているみたいに見えるかもだけど、でも実はそうでもなくて、色んな要素を総合して考えてみると、シングルや共働きの方が税制的にも優遇されている、というような話だったと思います。
第四章も、まあ、ふーんという感じの内容で、そこまで興味が持てませんでした。
本書の中で僕が一番面白いと思ったのが、結婚に関わるお金の話です。
三和銀行の調査によれば、95年に結婚したカップルが、婚約・挙式・披露宴・新婚旅行・新生活の準備のために使った費用は794万円。95年に日本で結婚したカップルは792000組だから、単純計算で年間の国民の結婚費用は6兆2900億円。これは、防衛費の1.3倍、政府開発援助予算の6.2倍、人口7000万人のベトナムのGDPの5倍なんだそうです。
まあ95年のデータなんで、さすがに今はそれよりは結婚にかかる費用も下がってるだろうけど、それにしても凄い金額だなと思いました。
まあそんなわけで、個人的にはあんまり惹かれる内容ではありませんでした。とはいえ、元々まったく結婚する気のない僕としては、内容に共感できる部分もありました。未だに僕には、なんでみんなわざわざ結婚するのか、理解出来ないのですよね。どう考えても、結婚する方がめんどくさいと思うんだけど。謎だ。
森永卓郎「<非婚>のすすめ」
本書は、結婚するっていうのはある種のマインドコントロールされた結果の欲望なのだ、結婚しないでシングルを選択した方が、少なくとも今の日本では生きていくのにいいかもよ、というような内容の本です。
内容は4つの章に分かれていて、
第一章「第二の家族革命」 ここでは、大家族から核家族という家族形態の変化には、国策が絡んでいたんですよ、というような話が書かれる。
第二章「日本型恋愛と結婚の謎」 ここでは、日本における、結婚と恋愛とセックスの関係を分析しつつ、それがどう崩れていったことでシングル化が推し進んでいるのかが書かれる。
第三章「シングルライフの経済学」 ここでは、専業主婦のいる過程、共働きの過程、シングルの場合とについて、具体的なサンプルを用意して、税制的に、あるいは子育ての環境的に、どれが最も優遇されているのか、という話が書かれます。
第四章「非婚社会で何が変わるか」 ここでは、非婚化が進むことで社会がどんな風に変わる可能性があるのか、ということが描かれます
というような内容です。
僕は、第一章はかなり面白く読みました。戦時中と戦後の二回、家族革命と呼ぶ家族形態の大きな変化があった。戦時中は、とにかく産めよ増やせよで子供を5人生むようにと国が考えていて、それによって大家族という家族形態が生まれた(これが第一の家族革命)。しかしその後、日本の会社は、『家族手当』という、働いていない奥さんや子供にもお金を払うという世界でも珍しい給与体系を作り出した。そのため、家庭における子供の数は少ない方が望ましい。そこで、会社が助産婦さんを雇って、従業員に産児調節の指導をしていた、なんていう時期があったそうです。こうして、会社の都合によって子供の数が減らされたという経緯が第二の家族革命。
これらの二つの家族革命が、日本の家族のあり方、あるいは結婚観や少子化にどのような影響を与えていったのか、ということを分析している章で、なるほどこんなことがあったのか、とびっくりしました。特に、会社側の都合で核家族化が推し進められた、っていうのはなかなかビックリです。
でも、それ以降の章は、うーん、という感じでした。
第二章は正直、机上の空論というか、もし万が一それが正しいとしても、だからどうした、というような話が展開されているような気がしました。女性が読んだら、ちょっと不愉快かもしれない、というような内容です。
第三章は、具体例を出して細かく税制の話をしているんだけど、正直そこまで興味持てないなぁ、という感じでした。日本は一見すると専業主婦が優遇されているみたいに見えるかもだけど、でも実はそうでもなくて、色んな要素を総合して考えてみると、シングルや共働きの方が税制的にも優遇されている、というような話だったと思います。
第四章も、まあ、ふーんという感じの内容で、そこまで興味が持てませんでした。
本書の中で僕が一番面白いと思ったのが、結婚に関わるお金の話です。
三和銀行の調査によれば、95年に結婚したカップルが、婚約・挙式・披露宴・新婚旅行・新生活の準備のために使った費用は794万円。95年に日本で結婚したカップルは792000組だから、単純計算で年間の国民の結婚費用は6兆2900億円。これは、防衛費の1.3倍、政府開発援助予算の6.2倍、人口7000万人のベトナムのGDPの5倍なんだそうです。
まあ95年のデータなんで、さすがに今はそれよりは結婚にかかる費用も下がってるだろうけど、それにしても凄い金額だなと思いました。
まあそんなわけで、個人的にはあんまり惹かれる内容ではありませんでした。とはいえ、元々まったく結婚する気のない僕としては、内容に共感できる部分もありました。未だに僕には、なんでみんなわざわざ結婚するのか、理解出来ないのですよね。どう考えても、結婚する方がめんどくさいと思うんだけど。謎だ。
森永卓郎「<非婚>のすすめ」