黒夜行

>>2009年11月26日

毎月新聞(佐藤雅彦)

そろそろ、来年売る本を考え始めています。
最近の書店の風潮として、本が売り場に置かれる期間がもの凄く短い、ということがあります。1日200点新刊が出ると言われている中、限られた売場面積の中でそれらを捌いていくためには、どうしても回転が早くなってしまう、つまり置いた本をすぐに返品して別の本を置かなくてはいけなくなるようになります。
一か所にどわっと本を並べて売る多面展開というやり方も最近かなり行われていると思いますが、これも一か月もする別の本に変わっている、なんていうことがよくあるんだそうです。
僕はそんな流れに逆行するかのような売り場作りをしています。
とにかく、売れてさえいればいつまででも売場に置き続ける、というやり方です。
以前とある出版社の営業の方に、「凍りのくじら」という本を1年弱ずっと置き続けて450冊ぐらい売っているんですよ、と言ったら驚かれました。累計で売った冊数についてではなく、1年間もずっと同じ本を置き続けるなんていうのは最近の書店ではないんで、珍しいですね、と言って驚かれたわけです。
長いこと置いている本ではまだいろんなものがあって、「思考の整理学」はもう2年以上一度も売場から外していないし、「子どもの心のコーチング」も2年近く置き続けています。東野圭吾の「時生」という文庫も、「ガリレオ」ってドラマがやってた時期があるじゃないですか?あの頃から売場から一度も外していません。一番凄いのは森博嗣の「スカイクロラ」という作品でして、文庫が出たのが2004年の10月なんですけど、それ以来一度も売場から外したことがありません。もう5年以上置き続けているということになりますね。
そんなわけで、売ろうと思っている本、あるいは売れている本はいつまででも置き続けるというやり方をしていますけど、これがどう来年売る本と関わってくるのか。
多くの書店が割と同じことをやっているのではないかと思いますけど、年末にその年に売れた本のランキングを出すと思います。ウチの店もHP上でそのランキングを発表しています。で、僕はその年間ランキングの中に、他の店のランキングにはまず入らないだろうマニアックな作品を入れたいんですね。他の店が絶対に売っていないだろうっていう本をたくさん売ると
すごく達成感があるわけなんです。今年で言えば、文庫ならトップ30内に「凍りのくじら」「0歳からの子育ての技術」「時生」「NOTHING」辺りが入ってくるでしょうか。他にもあるかもしれませんけど。
で、年間ランキングに他の店が売っていないような本をランクインさせるには、年頭から売り始めるのがいいんですね。とにかく一年間の累計なわけで、売りたい本あるいは売れている本は置き続けるという僕のやり方では、年の始めから売り始めた方が累計の売上冊数が増えていくことになります。
そんなわけで今、来年売る本を考え始めているんです。いろんな出版社の注文書を見ながら、amazonの評価とかも見つつ何点か選び、それを全部自分で読んで、よければPOPを作ってもらって来年からバリバリ売る、という流れです。
そんなわけでかなり大量の文庫を買わないといけないんですけど、自分が普通に読む本が溜まりに溜まっているんで結構キツイですね。まあなんとか頑張りますけどね。さて、来年はどんな掘り出し物を発掘することが出来るでしょうかね。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、毎日新聞に月に一回連載されていた「毎月新聞」というタイトルのミニ新聞を本にまとめたものです。「バザールでござーる」っていうフレーズや、だんご三兄弟の作詞や(でも僕は本書を読むまで、「だんご三兄弟」の作詞が佐藤氏だとは知らなかった)、「ピタゴラスイッチ」なんかでお馴染みの佐藤雅彦氏が、自分の身の回りで起こったちょっとおかしなこと、気になること、ささやかに訴えたいことなんかを、独自の切り口で紹介するようなコラムが書かれています。「ケロパキ」という名前のカエルが主人公の3コマ漫画(著者自身が描いている)とか、その月に起こったニュースが箇条書きで書かれていたりといろいろ盛り込まれている作品です。
これはなかなか面白い作品でした。書かれている内容が大したことではないんだけど、でも僕らにも身近に感じられることで分かりやすい。それでいて、同じものを見ていても普通の人とは違った視点から物事を見ているので、凄く新鮮な気分になれます。
とまあ漠然としたことを書いてもなかなか伝わらないと思うんで、いろいろ具体的に抜き出してみようと思います。
本書の表紙にもなっている、「じゃないですか禁止令」というのは、現代の僕らにはもう割と聞きなれてしまった表現ですけど、これが書かれた1998年だったらなかなか衝撃的だったかもしれません。「私って、○○じゃないですか?」という形で使われるこの言葉は、自分の欲求を一般化してぼかしているズルイ表現で、これが広まると怖いなと著者は感じていたのだけど、実際に広まってしまった。アナウンサーまで同じような言葉を使っているのを聞いて残念に思う、という話。
「だんご三兄弟」の大ブームを受けて、ブームになったら危険という話を書いている。ブームになってしまうと、中身に関係なく、「手に入るかどうか」だけが価値基準になってしまうため、手に入れてしまえば愛着も興味も薄れてしまう、という話。これは書店でも当てはまるなと思いました。ブームになって一時売れた作品というのは、本当にその後まったく売れなくなります。しかも本の場合、これは僕の主観的な判断ですが、どう読んでも面白くないだろみたいな本がブームになったりするんで始末が悪いんですね。
友人のアートディレクターが家族と遊園地に行った時の話。写真を撮ってくれと言われてカメラを構えたが、その瞬間アートディレクターとしてのスイッチが入ってしまい、構図がよくない服装がよくないとあれこれいい、結局写真を一枚も撮らずに帰ってきたという話。これを著者は、人間はいとんなモードを持って生きている、という話に繋げるのだけど、僕はこれを読んで、そんな風にはなれないだろうなと思ったものでした。
でかける時に、靴を履き終わった後で忘れものに気づいた時どうするか、という話。これはとある企画会議中にいろんな人に意見を聞いたらしいんだけど、全員違う方法を採用しているらしい。すげーな。僕だったら、靴を脱いで取りにいきます。
著者はかつて慶応大学の教授だったわけですけど、そこで「垂直または水平な直線だけを使って何かを表現しなさい」という課題を出した。そこで学生が出してきた様々な表現にはユニークなものがあって、まずそれが紹介されます。
その後、「今度は、僕からは条件をつけません、個人個人で自分に対して何らかの条件を考えて、その上で表現してみてください」と言ったら、先ほど素晴らしい回答を出してきた学生がまったくどうしていいかわからず、結局課題を提出出来なかったとか。僕らはいろんな制約の中で生きているけど、制約があるからこそうまく行くという側面もあるのだな、という話。
かつて著者は、缶紅茶の商品開発を手がけたことがあるらしい。そこで、とにかく美しいパッケージを作り上げた。皆大絶賛だったのだが、いざ売りだしてみると消費者がストレスを感じているということが分かった。なんと缶のデザインが美しすぎて捨てられないというのだ。著者はすぐさまデザインの変更を申し出たとか。
事務所のスタッフの女性に、三角形の内角の和が180度であるという証明を数学っぽくやってみせたところまるで無関心。しかし、著者がやったとある強引な方法を見せると、「ほんとだ!平らになってる!180度!」と興味を示したとか。同じく数学の話で、実際に円周率を割りだしてみる、という話も出てきますけど、これは面白いなと思いました。
本書には、本文とは別に「ミニ余禄」として、一言メモみたいなコーナーがある。そこで書かれていたことが面白かったんで抜き出してみます。
『事務所の近くに築地市場がある。入口脇の掲示板に「本日の拾得物・ぶり1本、カツオ3本」と、さすが築地、落し物も威勢がいい。』
そんな感じの作品です。なかなか面白いと思います。そういう習慣がある人は、トイレとかに置いておいて、毎回ひとつずつ読むとかでも面白いかもしれません。結構厚そうな本ですけど、たぶん普通の本よりスムーズに読めるんじゃないでしょうか。字もかなり大きいですしね。なかなかオススメです。ぜひ読んでみてください。

佐藤雅彦「毎月新聞」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)