黒夜行

>>2007年06月11日

刀語第六話 双刀・鎚(西尾維新)

何か欲しいものがあった時、人はそれに見合った努力をするのだろう。
例えば、大金を出さなくては買えないものが欲しければどうにかしてお金を得る努力をしなくてはいけないし、お金では買えないものが欲しいのならば、それとは別のまた違った努力をしなくてはいけないだろう。
まあ当然だ。
しかし思うのだけど、物にはそれぞれ、それを持つのに相応しい人というのがあるのだと思うのだ。
今いろんな物は、なんであれお金さえだせば何でも手に入るような時代になってしまった。お金を持っているということが一つの指標となり、何かが保証されるのだろうし、お金というものにそれだけ価値があるのだということだろう。
しかし例えばだが、僕がフェラーリを買って乗り回すとしよう。どこからそんなお金が出てくるのかという疑問はまあ後回しにして、宝くじにでも当たったということにして欲しい。
さて、フェラーリが僕に見合う物であるかと言えば、それは間違いなくノーだろう。似合うも何もない。明らかに間違っている。この文章を読んでいる人の大半は、僕とは面識がないと思うのでその明らかさについては分からないかもしれないけど、でも考えるまでもなく明らかなのである。僕は、フェラーリを所有し乗りまわすような人間ではない。
僕はそういうことをきちんと自覚しているし、だから別に分不相応な高望みだって別にしていないつもりである。
しかし世の中にはどうもその辺りのことが分からず、高いもの、ブランドとして価値のあるものを追い求める風潮があると思う。
勘違いしているのである。
そういう、高いものやブランドに価値のあるものというのは、持つ人の価値をさらに高めるためのものである。この、『さらに』という部分が重要なのであって、そもそもそれを持つ価値のない人間にとっては、まさに豚に真珠、猫に小判である。
しかし世の中の人はどうもそうは考えないようだ。高いものや価値のあるブランドの物を手に入れることで、自分自身の価値もそれに伴って上がる、と考えるようなのだ。例えば、ロレックスの時計を見に付けることで、人間としての価値が上がる、とそんな風に考えているように思える。
それは、絶対に間違っていると思うのだ。いくらロレックスの時計を見に付けようと、価値のある人間になれるわけはない。価値のある人間がロレックスを見に付けるからこそ、その価値がより強調される、というだけのことである。
それでも、人々のそうしたブランドに対する執着というものは消えないし、むしろどんどんと増して行っているようにも思える。
もちろん、ブランドそのものの価値にではなく、その物自体の価値に惹かれているというのならば問題はないのだ。ロレックスの時計だからいいというのではなく、ロレックスの時計は壊れ難く製品としての完成度が高いからいい、と思っているならいいと思うのだ。しかし実態は、世の中の多くの人々が、中身も碌に確認しないまま、ブランド物であるというだけの理由で物を手に入れているように感じてします。
価値は人間の側にあるのではなく、物にそれを頼ってはいけないだろう。もし何らかの価値のある物を手に入れたいとしたら、お金を得るよりもまず、それを手に入れるのに相応しい人間にならなくてはいけない、と僕は思う。
物の価値を決めるのは、最終的には人間だ。その人間が愚かであれば、物も救われないだろう。バブルの時期だったか、ゴッホの絵に100億円以上の値段がついたことがあった。その絵に本当に100億円の価値があるというのならいい。しかし恐らく違ったのだろう。物の価値を決める人間が愚かだったというだけの話だろう。
自分に相応しいもの、あるいはほんの僅か背伸びすれば相応しくなるもの。そうしたものだけど欲しがるべきだろう。そうでない人間が多いために、どうもちぐはぐな感じになっているような気がする。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、12ヶ月連続刊行中の西尾維新の最新シリーズである刀語の第六話です。毎度のことですが、大枠の設定から書きましょう。
幕府の奇策士であるとがめと、虚刀流という流派の剣士である七花は、天才と謳われた刀鍛冶である四季崎記紀が作ったとされる12本の変体刀を蒐集すべく諸国を巡ってはその所有者と戦う、という話である。
今回の舞台は、絶対凍土とも評される蝦夷の踊山。一年中雪が止むことのないその地には、幕府の壱級災害指定地域に指定されているのだが、凍空一族と呼ばれる一族が住んでいる地でもある。今回蒐集する刀、双刀・鎚は、その凍空一族が所有しているらしいのだ。しかし、その鎚という刀が一体どんなものであるのかという情報はまったくない。
港の職員の制止も聞かず、薄着のままなんの準備もなく踊山へ向かった二人であったが、少々舐めすぎていたようだ。とがめは結構危険な状態であるし、平気そうにしていた七花さえも、なんと手足の異常を訴えて倒れてしまったのだ…。
雪吹きすさぶ山で完全に孤立した二人。まさに絶体絶命のその状況でやってきたのが一人の少女だった。
凍空こなゆき。
彼女はその小さな矮躯で軽々と七花を担ぎ上げ、少女が一人で住んでいるという洞窟まで連れていった。凍空一族は自分を除いて全滅したのだと聞かされ途方にくれるとがめであったが、刀を探してると聞くと、こなゆきは無邪気にも自分が探してきてあげようかと提案するのだが…。
というような話です。
この刀語というシリーズは、毎月一本刀を蒐集するわけで、つまり毎月毎月所有者との戦闘があるわけだけど、しかし毎月そんなことをしているとどんどんネタも尽きてくるのもまた事実。しかし西尾維新は相変わらず手を変え品を変え、毎月違った形でこの刀集めの旅を物語にしていきます。
今回もかなり変わった展開で、所有者の一族がほとんど全滅している上に、生き残ったのは少女一人。さてこの状況で一体どうするのか…。まったく、なかなか面白いことを考えるものです。
今回もまあもちろん戦闘があるんですけど、それもなかなかうまいなと思いました。ネタバレになるので詳しいことは書きませんが、最終的に七花が勝つことが出来るその理屈は、なるほどなと思ってしまいました。実感こそ出来ませんが、なるほどそういうものかもしれない、という感じでした。
今回のまあ一応の所有者というべきはこなゆきなわけですが、これまでにないキャラでかなり可愛い感じですね。なんと言っても一人称が「うちっち」ですからね。それにどうして戦闘をする羽目になったのかという理由もなかなかニヤリという感じで、そういう意味でも今回はかなりこれまでと違う感じだな、という気がしました。
今回読んでいて思ったのが、冒頭でも書いたことだけど、物には相応しい持ち主がいる、ということでした。これまでの変体刀もそうでしたが、今回もかなり所有者を選ぶ刀であって、正直とがめと七花が手に入れたところでどうにかなる代物ではないわけです。でも二人はそれを手に入れようとするし手に入れなくてはいけない。それは一つの執念であって間違ってはいないんですけど、でも今回についてはどうなんだろうな、と思ったりしました。たまたま今回は、まあ事情が事情で奪ったという感じではなかったのでよかったですけど、しかしそれを持つのに相応しい持ち主から、それを持つのに明らかに相応しくない人間がそれを奪うというのはいかがなものか、とそんな風に考えてしまいました。
まあそんなわけで、今回もなかなか面白い話でした。毎度のことですが、このシリーズを読んでいる人は読み続けて欲しいし、まだ読んでないという人は是非一巻から読んでみてください。

西尾維新「刀語第六話 双刀・鎚」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)