黒夜行

>>2004年09月

奥様はネットワーカ(森博嗣)

森博嗣らしい作品だ。
内容はとある大学の化学工学科を中心に、殺人事件が起こったり、殺人未遂が起こったりして、そして犯人が誰なのかとかわかっていくんだけど、そういうことではなくて、なんというか、

殺人事件とその周辺の風景を「詩」にしたような作品

とでも言えばいいかな。まさに詩のような文章。森氏は「理系の言葉で文学を紡ぐ」という表現がぴったりくる作家だが、この作品はそれが如実に表れている。ストーリーはもちろんあるし、論理的だし、普通に物語として成立させながらも、同時に別の流れ(つまり詩的装飾)を作り出し、いつしかその流れが物語を覆い尽くしてしまう。
物語としては理解出来ない部分は多々あった(これは読者の読解力次第)けど、詩的なものとしてはかなり楽しめた。
そしてリズムがいい。短い文章で区切っていく。こういうリズムが俺は大好きだ。何か突き放したようなクールさと緩い坂道を転がっていくボールのような安定した微加速さが、自分の中の「何か」と妙に相性がいい。
「リズム」があって「詩」がある。まさに「文字による音楽」または「音の無い音楽」と言ってもいいのではないか、という作品です。
それにしても俺の説明はわかりずらいですね。

森博嗣「奥様はネットワーカ」



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大誘拐(天藤真)

破天荒な誘拐小説だ。
刑務所で出会った三人組が、以後犯罪から足を洗うため、金を一気に調達してしまおうと誘拐を計画する。狙うは大大大富豪のおばあちゃん。おばあちゃんが突然始めた山歩きの途中、三人組は誘拐に成功する。
ここから怒涛の展開。主従が逆転する。おばあちゃんは三人組の計画の穴を見抜き、なんと自ら計画を立ててしまう。身代金はなんと百億円!
そしてここから、人質でありながら何故か(もちろん理由はあるが)誘拐犯のトップになったおばあちゃんと警察の知恵比べが始まる・・・
ミステリー作家であれば誰しも、「密室」と「誘拐」は書きたいのではないか、と俺は勝手に思っている。だからこそこの二つをテーマにした小説はそれこそ山のようにあるだろう。各作家ともある知恵ない知恵を絞って新しい設定を捻り出そうとするわけだけど、この作品はなんといっても新鮮だ。言い忘れたがこの作品は1978年に出版された作品であり、著者は俺が生まれた83年に亡くなっている。携帯もパソコンも出てこないけど、最近の作品にもひけを取らないほどの出来だと思う。
百億円の身代金を一体どうやって掠め取るのか、そして何故おばあちゃんは誘拐犯に協力したのか。とても楽しい作品です。

天藤真「大誘拐」



密やかな結晶(小川洋子)

とても優しい小説だ。俺が読んでいるからといってミステリーだというわけではなく、どちらかと言えば恋愛小説と言ってもいいかもしれないけど、そうでもない。
舞台はある島。その島は特殊で、突然記憶が奪われてしまう。その消滅の時が訪れると人はそのものの性質を忘れ、付随する記憶を無くし、そしてそれを処分しなくてはいけないという気分になる。そのものを見ても何も感じず、しばらく時間が経つと、そのものを何と呼んでいたのかすら忘れてしまう。
その島には秘密警察と呼ばれる人がいて、消滅と共に町中にあるそれを排除するように働きかける。そしてまた、島には記憶を失わない特殊な人びともいて、その人たちを「駆除」する役目も負っている。
主人公である「わたし」(たぶん小説内に名前は出てきていないと思う)は小説家で、両親を亡くしている。母親はその特殊な記憶を無くさない類の人であり、消滅したものの思い出をよく語ってもらったのだが、その記憶すら今では曖昧なままである。昔から家の雑用をしてくれる「おじいさん」と、彼女の書く小説の編集者である「R氏」の三人を中心に物語りは進んでいく。
ある日「わたし」は、R氏が記憶を失わない人であることを知ってしまう。そして彼女はR氏秘密警察からを匿うことを決意する。自分の家の隠し部屋にR氏を匿う生活が始まる。秘密警察の影に怯える日々、突然訪れる消滅、おじいさんやR氏との慎ましやかな生活。そういったものが丹念に描かれ、次第に彼女とR氏は心を通わせていく。
そうした日々を過ごす中、彼女は失ってはならないものを失うことになる・・・
先にも書いたようにミステリーではない。何故消滅が起こるのか、秘密警察に連れて行かれたらどうなるのか。そういったことを追求していく物語ではなく、あくまでそういった島の特性を理解し受け入れながら、静かに日々を過ごそうとする「わたし」の物語である。
記憶を徐々に失っていく「わたし」と、記憶を失うことなく留めておける「R氏」。二人はお互いの存在を助け合い、ゆっくりと近付きあおうとするのだが、消滅に関してだけは交わることがない。R氏は、記憶のは消失したのではなく沈んでいるだけだといい、「わたし」の母親が彫刻のなかに隠していた、「失われたはずのもの」にまつわる物語を聞かせるのだが、そうしたR氏の優しさを彼女は当惑で受け止める。記憶を無くしたものにとって、無くした記憶は寧ろ神経をざらつかせるものであり、それに何か浮かび上がってくるものがあるわけでもない。それでも彼女はR氏の優しさや熱意を無下にできず、困惑のままその優しさを受け入れようとしていく・・・
是非読んで欲しい作品である。とてもゆったりとしてでも哀しげで、味わいのある作品だ。俺は小説を映画化することにあまり賛成ではない。それはキャラクターを現実の人間で表現することが難しかったり、時間やその他の制約のためにストーリーを改変せざる終えなかったり、CGを多用しなければならなかったりするためだが、珍しくこれは映像で見たいなと思わせる作品だった。「おじいさん」はもう絶対「おひょいさん(名前は思い出せないけど)」しか浮かばない。この物語に合った島をロケーションできるかどうかは微妙だけど。
色々考えさせられる作品ではなく、色々考えたくなる作品、だと言っておくことにしましょう。読んでよかったです。

小川洋子「密やかな結晶」




2004年9月26日現在

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沈黙/アビシニアン(古川日出男)

どちらかと言えば文学に近い。俺が読む本としては珍しい部類に入ると思う。
この本は、単行本として発売された「沈黙」と「アビシニアン」という小説を文庫化に際して合本したものである。
これほどに重厚で幻想的で豊潤な文章・世界は知らない。
それぞれ、あらすじなど書ける話ではないが、一応書いてみようと思う。

「沈黙」
薫子という女性が、今まで会ったことのなかった祖母に出会う。その地下室。膨大なレコードと「音楽の死」と題されたノートを見つける。それらはその祖母の亡き甥が生前に残したものだった。
「音楽の死」のノートには、「ルコ」と呼ばれる音楽の歴史が記されている。数奇で劇的な運命を辿ることになる「ルコ」。歴史上多くの人を魅了し、そしてまた薫子も「ルコ」にとりつかれる。「ルコ」を蒐集し、歴史を辿ったその甥にも想いを馳せ、薫子は「究極の音楽」の世界に迷い込んでいく。
また一方で音楽を悪意を持って利用する者の存在が・・・
正直言ってこの話しを完全には理解できていない。寧ろ理解するのではなく、捕らえる物語なのかもしれないけど。何か揺さぶられるような表現、酩酊させられるような言葉、そういったもので埋め尽くされた行間に翻弄されて、心地いい。
結局薫子の弟やその甥の父親といった存在が、一体なんであったのか、そういったことは不明のままで、どう物語が収束したのかよくわかっていないが、それでも読んでよかったと思わせる。

「アビシニアン」
親に捨てられた猫を探し出し、そして共に生活する少女。その生活の中で彼女は突然「文字」を失う。
恐怖に駆られて文字を紡ぎだす青年。自分との対話を日々書き付け、それで何かを確かめようとしている。
この二人が出会う。男は文字の読めない女に物語を語り、そしてその物語は女に語ることで変容していく。二人は文字のない言葉をやり取りすることで何かを紡ぎ、紡ぎながらその距離を縮めていく・・・
と書いてはみるけど、やはりどう物語が収束しているのかわからない。物語を理解できていない。ただ言葉によって紡がれた世界が美しく、繊細で、きめ細かい。男と女の世界が悩ましい。

文学的で、言ってしまえばわかりずらい。俺もどういう物語なのかわかっていない。ただ読んでみる価値はある。そんな風に思わせる作品です。

古川日出男「沈黙/アビシニアン」




狂骨の夢(京極夏彦)

もう京極作品にどっぷりとはまっている。
今回ももう何もかもがぐちゃぐちゃ。世界が反転どころか一回転してもまだ足りないぐらいの混迷さ。激しい。
とにかく登場人物それぞれが、それぞれわけのわからない事件に遭遇する(決して体験するわけではなく、聞いたり少し関係したりする程度である、というところが重要)。金色の髑髏が海を流れたり、男女それぞれ五人ずつが集団自殺したり、何人も首を切って人を殺したと妄想を抱く女、骨の関わる淫靡な夢、知り合いの作家の死、何年か前の未解決事件、それに関わるのかどうか血まみれの神主やら髑髏を持つ坊主、キリスト教に逃げた牧師、ほんのり恋に落ちた(のか?)釣堀屋の親父、海鳴りに怯える女、復員服の男。そんな話が交じり合い交差し捻くれ、もうとにかくあらすじがどうのと書けるような話ではない。
「世の中には不思議なことなど何も無いのだよ」を信念とする古本屋であり神主であり、憑き物落しである<探偵役>の京極堂は、そのどの事件も<体験>することなく、所謂<安楽椅子探偵>のように事件に接し、そして<憑き物落し>と称し、事件を解決する。
京極堂シリーズは、とにかくトリックだとかがあるわけではない。物事が不思議に見えるのは、それぞれの視点である登場人物自身の歪みやら偏見やらを通して見た、<真実だと思い込んでいること>を無理矢理繋ぎ合わせようとするからであり、それは、豊富な知識と論理(あるいは構造、あるいは客体)を見ようとする冷静な目を持つ京極堂には不思議には見えないというわけだ。
京極堂は必要な情報が揃えば真実を見抜くが、それをただ知らせるだけでは無意味だと考え、敢えて遠回りをしてでも各人の<憑き物>を落とす順序にこだわる。だから京極堂の<解決>には登場人物それぞれがイライラさせられるが、京極堂は意に介さない。結局意表を衝く京極堂の<解決>に皆<憑き物>が落ち、事件は解決する。
京極堂シリーズは妖怪小説だと紹介されているが、この言い方は誤解を生じると思っている(誤解していたのは俺だけかもしれないが)。もっと早く読んでもおかしくなかったのに、妖怪小説という紹介のせいで・・・と今ごろ悔やんでも仕方ない。映画化には納得できない(そもそもどうやってこんな話しを映像化するというのだ)が、京極作品はどんどん読んでいこう!

京極夏彦「狂骨の夢」




天帝妖狐(乙一)

乙一の第二作品集である。
デビュー当時から多くの作家にその天才性を認められ、評価されてきた乙一は、今では短編の名手として大いに評価されたミステリ界の逸材である。そんな乙一のデビュー間もない頃の短編(中篇?)二作が収録されている。
「A MASKED BALL」は、トイレの落書きにまつわる話で、煙草を吸うために校舎内の人気のないトイレを使っていたら、そのトイレに突然、「ラクガキスルベカラズ」とい自己矛盾的な落書きが書かれ、それに主人公も含めて数人の人が返事を出していく。その中で、常にカタカナで文字を書く奴が理不尽な粛清予告のようなものを書き始め、それがどんどん実行されていく・・・
解説の我孫子氏は、「コミュニケーションの匿名性をインターネットなど出さず、落書きと言うありきたりなものでさらりと書いて見せたところがすごい」と書いている。そんな難しいことを考えなくてもさらりと読めて面白い。
表題作の「天帝妖孤」は、夜木と杏子の悲しい物語。一人コックリさんの世界で人間である何かを売り渡してしまい自分の人生を破滅させてしまう夜木と、他の人は避けるその男と出会い介抱し、仕事を与え一緒に暮らし、それでも別れなくてはいけない杏子。二人の出会いから別れまでが、夜木の独白の手紙を交互に挿みながら展開する。かなり切ない雰囲気を残す作品である。
夜木の人生のことを考えるとかなり辛くなる。これほどの苦痛があるだろうかというほどで、もし自分が同じ存在だったらどうだろうか、と意味のない空想をしてしまう。それほどの恐怖である。
乙一の作品は豊かで怖い。これからもどんどん読んでいきたい。

乙一「天帝妖狐」




ifの迷宮(柄刀一)

沖縄に行く飛行機の中で読み終わった本。大分経ってからの感想だけど。
この人の作品は本当に謎が魅力的でいい。
宗門家という遺伝子技術の先端を行く企業グループの会長一家で、暖炉に顔を突っ込まれ、指先も足の裏も焼かれている女性の死体が発見された。その現場で発見された毛髪。18年前に死んだ父親の遺髪のはずなのだが、なんとその遺伝子が二年前に死んだはずの人間と同じ遺伝子を持っていた。しかもその二年前に起こった事件にも不可解な点が多く、さらに遺伝子検査をすることによってより混迷を極めていく。
やがて第二の事件が起きる。頑丈な密室のなかで、背中に鋏をつきたてられ死亡している女性が発見される。その女性の爪のなかからなんと、一つ前の事件の被害者と同じ遺伝子を持つ皮膚片が発見された。こうして遺伝子を軸に意味不明な検査結果が続出し、警察や検査員を困惑させる。それを遺伝子検査の研究員と刑事の夫婦が解明していく・・・
少し先の未来の話であり、出産前の胎児の遺伝子検査なども普及しているような社会。そういう中での遺伝子い関する示唆がかなりいい。遺伝子レベルでの差別が行われることの恐怖。優秀な遺伝子を求めるために精子バンク、卵子バンクが普及していき、障害者は生まれる前に排除されていく。そんな世界にもう少しでなろうとしえいることに対して警鐘を鳴らしているように思う。
遺伝子という目に見えないもの。人間の設計図だと信じられているもの(小説中ではそれを否定している)。弱者と共存するのではなく排除しようとする社会。今でもその傾向はあるのだろう。自分だって排除できるものなら・・・と考えてしまうかもしれない。そういう自分が怖いし、社会の流れがそうなっているのだろうな、と実感してしまう。
それにしても面白い小説だと思う。

柄刀一「ifの迷宮」




キマイラの新しい城(殊能将之)

あぁ、楽しい。なんとも人を食ったような小説だ。見事としか言いようがない。楽しい話だった。
帯にこう書いてある。「この話しを書けるのは殊能将之の他にいない!」まさにその通りだろう。デビュー作から人を食ったような偏狂的な小説を生み出してきた著者ならではの作品だ。
話は一人の社長の異常な状態を知ることから始まる。シメール城という中世ヨーロッパの城を日本に移築し、テーマパークを建設した社長がなんと、そのシメール城で750年前に密室で殺害された城主の亡霊が取り付いてしまう。亡霊は自分の死の謎を解くよう重役の一人に訴え、それに応じて名(迷?)探偵石動戯作が呼ばれる。石動が750年前の状況を再現しようと重役連中などに仮装をさせてコスプレ現場検証をし、それが終わった直後現実に密室殺人事件が起こる。第一発見者の社長は逃亡し、誰なのかわからないが会うことになっていた人物に会うために六本木に向かう・・・
もうしょっぱなからありえない設定、750年前の密室殺人の捜査ももはやおふざけ。でも現実に殺人が起こるや一気に緊張感が高まり、探偵らしくない石動は、まるで探偵らしくないやり方でこの事件に幕を閉じる。
さらに面白いのは亡霊に取り付かれた社長から見た現在の世界の描写だ。服や髪の色、食事の描写などまるで食い違っており、六本木ヒルズの描写など、勘違いにもほどほどしい。それが逆に新鮮で面白い。
きっと一般には受け入れられないだろうなと思う。ミステリー好きにはもう抱腹絶倒ものだけど、普通の小説読みには何だこれ?と一笑に付されかねない。それが残念だけど、まあ楽しめて読めたからよかった。

殊能将之「キマイラの新しい城」



夢・出逢い・魔性(森博嗣)

二冊連続で森作品を読んだ。やはり読みたい作品を優先して読む。だから大分前に買ったのにまだ読んでない作品は多い。
今回は久々にダブルネーム、ではなく、トリプルネームが光ったタイトルだ。
英語副題は「You May Die in My Show」だ。つまり「夢で逢いましょう」も含めて三重に重なっている。以前も、「封印再度」というタイトルに「Who inside」という副題がついていたものがあった。こういうのが好きなのだろう。
Vシリーズの四作目であり、今回も瀬在丸等愉快な仲間たちがわらわら事件に巻き込まれる。
いつもは愛知県那古野市が舞台なのだが、今回は東京が舞台。N放送というテレビ局のクイズ番組に香具山紫子が応募し、小鳥遊と瀬在丸をともに女子大生だといつわって三人で出場することから始まる。テレビ局内で銃による殺人事件が発生し、発砲音の直後にその部屋から出てきたアイドルが小鳥遊と行方をくらます。小鳥遊が香具山たちと合流した後、そのアイドルはストリップ劇場で火事に巻き込まれ病院に運び込まれる。といった内容。
「月は~」よりも面白かった。稲沢という暗い探偵のキャラが面白かったし、女子大生と偽ってクイズ番組に出るごたごたが楽しい。
森作品は犯人の動機というのがかなり変わっている。それを受け入れることの出来ない人も多いかもしれない。でもそこに人間の複雑さが隠れている。探偵によって勝手に犯人の動機が推察される推理小説が多い中、「結局人の心などわからない」というスタンスを取っている森作品は潔い。
もちろんわからないと突き放すだけではなく、そこに垣間見える複雑さに保呂草や瀬在丸は何らかの思考をし、そして自分のなかで消化(昇華?)していく。その過程で読者はいろいろなことを考える。
今回も動機と呼べるものが一体何なのかはっきりしない。そんなものは存在しないのかもしれない。そこがいいし、与えられた条件を元にそれを想像するのもまた楽しいだろう。

森博嗣「夢・出逢い・魔性」



月は幽咽のデバイス(森博嗣)

森博嗣の瀬在丸紅子シリーズ(通称Vシリーズ)の三作目。久しぶりに森博嗣の本を読んでかなり満足している。
Vシリーズは、阿漕荘の住人である女装趣味の小鳥遊練無、怪しい調査員の保呂草順平、大学生の香具山紫子と、無言亭に住む、昔は裕福な家庭で、今は「没落」という言葉がぴったり合う科学者の瀬在丸紅子の四人を主な登場人物として、彼等の周りで起こるゴタゴタを瀬在丸が解く、というものだ。
今回の話は、オオカミ男がいると噂される篠塚邸で、密室のなか、衣服が引き裂かれ、部屋中を引きずりまわされたと思われる死体が発見される。篠塚家に関わるちょっと変わった人々と、さらに変わった阿漕荘のメンバーたちがうろうろわらわらしている内に瀬在丸が真相を看破する、みたいな話だ。
トリック自体はすごいし(現実的ではないけど)、結論に至る過程にもそれなりに納得できるのでいいのだが、それ以上にキャラクターや彼等のセリフ・思考、瀬在丸と祖父江の複雑な関係、小鳥遊と香具山のやりとり、爽やかとはいえない保呂草の仕事と、保呂草と瀬在丸の関係、そういったところが面白くて仕方ない。もう別に事件とかどうでもよくなる。そんな小説だ。
ただやっぱり犀川&萌絵シリーズの方が好きだ。犀川のキャラが最高だ。

森博嗣「月は幽咽のデバイス」



凶気の桜(ヒキタニクニオ)

渋谷とやくざと暴力の物語だ。俺にとってはこれぐらいの印象しかない。
馳星周や花村萬月のようなテイストでいて、なおかつ渋谷のライトでポップな雰囲気が混ぜ込まれているのだろうと思うけど、そんなに好きな作品じゃない。
話は、山口と市川と小菅という三人が渋谷を中心に「ネオトージョー」という名前で強制奪還排泄を繰り返している。彼等は彼等なりの主張でそれらを繰り返していき、怒れない大人がいなくなった世の中や、アメリカに乗っ取られている日本の経済なんかを嘆いている。
そんななか三郎という消し屋と出会うことで、三人はバラバラになり、はめられ、落ち、壊れていく。暴力団同士の抗争やうつ病になった組長、戦時中の日本人と朝鮮人の色恋なんかが描かれていくのだが、結局何を書いているのかがよくわからなかった。
作者の感性みたいなものは悪くないかもしれないとは思う。渋谷の描写、そこに巣くう若者達の現状、それを駆逐しようとするネオトージョーのやり方、暴力団の筋の通し方。そういったものはちゃんと書けているような気がするけど、それだけ。
たぶんそもそもノアール(この作品をノアールと分類していいかはわかんないけど)ってのが合わないからしょうがないけど。
ただ映画化されてて、山口役がたぶん窪塚なんだろうけど、それは悪くないかもしれないと思う。

ヒキタニクニオ「凶気の桜」


凶気の桜

凶気の桜新潮文庫

メドゥサ、鏡をごらん(井上夢人)

まだ続くかなと思ってページをめくったら「解説」の文字が目に飛び込んできた。読み終わったときはそんな感じだった。
結末がない。ないというか読者に委ねられている。要するに合理的な解釈が与えられることなく物語が閉じてしまう。まるで輪っかのように。
未だにどういう話だったのかよくわからない。タイムとラベルか、記憶錯誤か、菜名子がおかしいのか。いろいろ考えたけど、どうも納得いかない。
でも別に面白くなかったかというとそうではない。読んでいてものすごく不安定にさせられる。怨念だとか幽霊だとかいわゆるそういう「ホラー」なんかとはまるで違う恐怖に満ちている。解決されないことがより不安定ではあるが、それも一つの作家の選択として間違っていないのかもしれない。
何を書いてもネタバレになりそうだけどあらすじを書くと、藤井陽造という作家が自らの体をコンクリート詰にして自殺した。傍らには「メドゥサを見た」という紙の入ったビンが見付かった。自殺の理由と藤井が生前書いていた小説の原稿を探そうと藤井の娘とその婚約者が奔走するが、その過程で多くの人の死に触れ、さらに不可思議な体験をしていくことになる・・・
あの麻耶雄嵩氏の傑作「夏と冬の奏鳴曲」を思い出す不安定さだ。世界が壊れていくというのはこういうことなんだろう。ミステリーともホラーともつかない作品だけど、ありきたりのホラーには飽き飽きしているという人にはいいかもしれない。

井上夢人「メドゥサ、鏡をごらん」


魍魎の匣(京極夏彦)

京極作品はある理由からずっと避けてきた。妖怪が登場人物だ、と勘違いしていたのだ。だから面白くないだろう、と勝手に思っていた。
大間違いだった。
「姑獲鳥の夏」を読んだ時に、これは本物だと思った。ミステリーだとかどうだとかではなく、物語として異様なまでに光り輝いていた。
<京極堂>シリーズと言われる作品は、戦後の日本が舞台のようである。京極堂と呼ばれる本屋の主人がいわば探偵であり、謎を解明していく。その周囲には刑事の木場修太郎、探偵の榎木津礼次郎、そして私の一人称で語られる関口。彼等は一癖も二癖もある人間達で、彼等が巻き込まれていく事件から「救う」という形で京極堂が関与する。
また手法はまるで違うが、森博嗣と同じく認識論を展開している点も面白い。
今回の魍魎の匣では、バラバラ殺人やら誘拐やら遺産相続やらが絡まるけど、もうそういった一切の社会性から切り離された物語であり、もはや異常としかいいようがない。
ただその異常さは、たとえば雑然と散らかったように見える部屋を創造させる。外から見た場合その部屋の状態は異常だが、その部屋の主にとっては機能的に整頓されている状態だ、というかもしれない。つまり認識する主体や状況によって見方がまるで変わってしまう、そういう類の異常さであると思う。
始めに異常に汚い部屋を見せられる。そしてどんどんその部屋の汚さに目が行くが、ある人物の示唆により認識が転換し、最終的には機能的な部屋なのだと思う。京極堂の物語はそういう類のものなのだろうし、そのためにあんだけ長い物語が必要なんだろうなと思う。
なんにしてもわくわくする物語だ。

京極夏彦「魍魎の匣」






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国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)